◆脱落早すぎないっすか!?
「ねぇねぇイルルちゃん、ママ疲れたんだけど。」
「知らん。まだ30分も歩いとらんわ。」
「ねぇねぇイルルちゃん、ママ足が痛いんだけど。」
「知らん。回復魔法でも使え。」
イルルとツキヨさんの
じゃれているのか、喧嘩しているのか
判断に困る会話が聞こえてくる。
俺としては唯一の回復魔法の使い手を無闇に消耗させたくないのだが
ツキヨさんのペースに合わせて休むと今夜中に次の町へ到着できない。
イルルの対応は間違ってない。
もうちょっと優しく言ってもいいだろうし
もうちょっと母ちゃん労ってやれよ、とは思うけど。
大きな町があるせいか、魔物の姿は見なかった。
次の町で飛行車を借りることができれば
リーヴェが運転できるので
移動がとても楽になる…との見込みだ。
城下町から町へと続く草原を歩いている間
イルルとツキヨさんの問答は何度繰り返されただろうか。
「ねぇねぇイルルちゃん。ママ、足のマメが潰れちゃったんだけど。」
「唾つけときゃ治る。」
ツキヨさんの目に涙が溜まる。
「ぅわーん!イルルちゃんひどい!バカバカ!イルルちゃんのバカ!!」
まさかツキヨさんが泣き出すとは思わず戸惑う俺とリーヴェ。
「イルル、もうちょっと言い方ってものが」
「ぽこぽん、お袋を甘やかしちゃダメだ。」
イルルは見た目こそ愛らしいものの、実際は鬼のような奴のようだ。
…いや、知ってたけどさ…。
旅立って早々に揉め事はまずい。
幸先が悪い。
ていうか61歳にもなって泣かないでくださいよツキヨさん…。
「あと少しで次の町なので、ツキヨさんもがんばってください。」
当たり障りのない言葉しか吐けない俺。
仕方ないよな、仕方ない。
大事なことだから2回言いました。
次の町で飛空車が手に入ればイルル母子の心臓に悪い会話も収束する…いや収束してくださいw
半泣きのツキヨさんをなだめながら俺たちは城下町から離れた工業都市に着いた。
「デットレイトの町にようこそ。」
なんというテンプレートな町人A。
「やや?!これは勇者ぽこぽん様!デットレイトでは何をお求めで?」
なんで昨日までただの錬金術師だった俺の面が割れているんだ?
不審そうな顔をしていたらしい。
町人Aは広場に飾られた絵を示す。
白黒で俺の似顔絵が描いてある。
似てはいないが
つり目がちの目尻とか
少しばかり太めの眉毛とか
無駄に長い睫毛とか
髭だとか
特徴はよく捉えてある。
この絵、見覚えがあるんだが。
「イルルかっ!?」
俺はイルルをにらむ。
「割のいい仕事だったし。」
イルルは悪いことをしたつもりはないらしい。
何が悪いのかと言われると。絵本体が悪いわけではなく。
「なんで黒い花でガクブチ飾ってあるんですか?」
これじゃ葬式の写真じゃねぇか!
「そう言われてもあの絵は城下町から運ばれてきたので…。」
うわ逃げた、城下町に責任転嫁して逃げたよこの町人A…。
やっぱりなんか理不尽なんだが俺の気のせいだろうか?
「まぁまぁぽこさん。」
リーヴェが俺をなだめる。
「当初の目的。飛空車。」
それリーヴェが運転したいだけだよな?!
「足疲れた〜宿〜…。」
ツキヨさんの足は耐久度的な意味合いで限界突破したようだ。
明日歩けるんだろうか…。
俺は町人Aに宿屋の場所を聞き、荷物を置くことにした。
似顔絵のせいか、俺が道行く町人たちにじろじろ見られてる気がする。
それとも鼻毛でも出てるんだろうか。
俺はこっそり鼻毛が出ていないことを確認する。
鼻毛が出ていないことに安心した。
鼻毛さえ出てなければ何も恐れる必要はない。
じろじろ見られても堂々と歩いた。