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としでんイマジネイト  作者: ばらっど
序章・根暗オタクと斧女
5/12

三次元女はこれだから怖い

 私こと犬飼晴香は、幼馴染の霧島真白の事が、たまらなく、たまらなく好きなのです。


 愛しているのです。


 小さいころからずっと、ずっと、真白の事を見てきました。

 あの性格破綻者で社会不適合者で頭のネジの一本外れたような真白は、私がいなければまともに集団の輪にも入れないのです。


 真白への保護欲求が愛情に変わったのは、最近の事ではありません。

 けれど、それが明確にいつだったかは覚えていませんし、それが重要な事とも思いません。

 愛情は時間ではなく、深さであるのだから、私は明確に彼を好きになったきっかけを覚えていなくても良い、と思います。


 しかし、真白は本当に変態でした。

 現実に存在する女性には一切の興味がなく、アニメやマンガに没頭し、目玉の異様に大きな女の子やパステルカラーの髪の毛や、キンキン耳に響いてくる耳障りな声ばかり愛でるのです。

 

 私はせめて髪の毛を茶色に染めて、アニメキャラを意識して目をぱっちりと大きくできるように努力しましたが、全然振り向いてくれません。

 それどころか、私がこんなに努力しているのに、真白は私の好意にすら気付いていません。それはもちろん、気恥かしいせいで私が直接告白できないというのも一端なのですが、あれだけフラグだなんだと騒いでいるくせに、現実世界で立っているフラグに対して鈍すぎるのもどうかと思います。


 せめて、私は彼の恋人になれないのなら、保護者であろうと思いました。


 保護者と言うのはある意味で恋人よりも近い存在で、母親代わりとなれればそこから仲を発展させることができるかもしれないと思ったのです。


 保護者ともなれば、真白から目を離してはいけないと思い、私はずっと彼を近くで見て居ることにしました。

 そして、彼の体調や素行を管理するために、メモを付け始めたのです。


 流石に彼の家での生活をウォッチングする事は難しいので、それは外出時の行動に限ることになりました。


 毎日のお弁当の献立や購買での購入物、その日のトイレの回数、制服の下のシャツのローテーション、授業中の居眠りの回数と時間に至るまで、全て記録しました。

 学校帰りの寄り道も、買い食いも、エッチな本の購入の有無も、全てチェックしました。

 友達づきあいで真白の行動を監視できない時も、彼の鞄の裏地にこっそり仕込んだ発信機が、大まかな彼の帰宅ルートを教えてくれるのです。


 彼の抜け毛や食べ残しの回収も重要です。

 家に持って帰って毛の艶を見て、健康状態を推測したり、食べ残しを自分でも食べる事に寄って彼が普段、どんな味付けを好むのかを分析します。

 塩分が多すぎれば健康に影響を及ぼしますし、甘すぎる菓子パンなんかも成人病の元になるから、重要なのです。重要なのです。これは必要な事なのです。


 私に友人との予定がなく、フリーになる事ができた放課後は真白の後をつけるのが基本だけど、彼が居なくなった後に彼の机を調べるのもオツなものです。

 彼が普段突っ伏している机の天板にキスすれば、なんとなく関節キスした気分になりますし、彼が普段から使っている椅子に、下着を脱いで座れば、なんとなく彼のぬくもりが感じられる気がします。

 この閃きは私的にもかなりのヒットでしたので、休み時間に友人と話す際、真白が居ない時は出来るだけ、真白の席に座るようにしました。

 もっとも、事前に下着を脱いでおくのは何かとリスクが高かったですけど。


 真白の登校ルートに監視カメラを仕掛けると言う発想もありましたが、最近では不審物は直ぐに発見されてしまうので、この集団は使えません。

 真白の私物に仕込めるような小型カメラが有れば良いんですけど、私は持っていません。


 だから、私が監視をやめてしまうと、真白のリアルタイムでの私生活の情報が得られなくなってしまうのです。

 魚住君の一件で真白が発狂し、私が魚住君に好意を持っていると誤解されたあの日、ショックで胃の中の物を全て吐きだしたあの日から、私は体調不良で真白の監視をサボってしまいました。

 

 だから、ここ数日の真白の私生活を知る事ができませんでした。


 彼の生活パターンは大きく変化しないので、それでも良いだろうと思ってしまったのです。

 その事を今、私は深く後悔しています。


 それは結果的に、恐ろしい愚行でした。

 人は目を離した瞬間にこそ、信じられないような行動に出て居るものなのです。




「…………誰、あれ……」




 見てしまいました。


 真白の横に並んで、一緒に彼の家に入って行く、アニメキャラのようなゴシックロリータの少女を、私は見てしまいました。


 気が狂いそうです。


 いつの間にあんな女と付き合い始めたのでしょうか。

 学校にもあんな子はいない筈です。

 私が彼に近づく女をチェックし忘れる筈が有りません。

 だから、彼女が真白に近づいたとすれば、私が監視をサボり始めたここ数日の間しか考えられないのです。


 私はずっとずっと、真白を見つめて居たのに。

 あの女は、この短期間に、真白の隣に滑り込んでしまったのです。


 恐ろしい事です。


 許せない事です。


 あまりのショックで私はその場で飛び上がり、三回転半ひねりでベッドに倒れ込んで「キウィ!」と絶叫しました。


 何あれ。


 誰、あの女。


 いえ、考えられない事ではなかったのです。

 女性に免疫のない真白です。

 少し積極的に迫られれば、オチてしまう事は十分に可能性として存在していたのです。

 悪いのはそこまで積極的になれなかった私です。

 

 私は泣きながらぺヤングをかっこみました。

 お母さんが出かけて居るのに、料理する気力が完全に失せたためです。

 ちなみに湯切りの時に一度、手が震えて面を全て流しのシンクにダイレクトアタックさせてしまったので、これは二つめです。ベコンッ、て音がしました。


 そして小学校、中学校の卒業アルバムを開き、真白の写真を探して、それを拡大プリントしてPCに張り付け、ニコニコ動画でホモ動画を開いて喘がせてみるというプレイもしてみましたが、駄目でした。

 いつもならこれで五連戦は軽いのですが、今日は動揺の方が大きかったです。

 

 お風呂に入る時も、足が震えて苦労しました。

 石鹸を踏みつけて滑り、ボイラーを起動させずにシャワーで水を被り、シャンプーと間違えてカビキラーを使いそうになりました。

 そして、お湯を貯めた湯船でしくしくと泣きました。

 お風呂は涙が解りづらいので便利だと思いましたが、水面に映った私の顔は思いっきりぐしゃぐしゃだったので、あんまり意味がありませんでした。


 

 泣いて泣いて、泣きはらしたら、今度はあのゴスロリ女に腹が立ってきました。


 

「あの女、どうしてくれよう…………」



 とりあえずコンクリ詰めにして沈めようという発想が出てきましたが、流石に人殺しは何かと不味い筈です。


 さしあたってストレスを解消しようと、ゴスロリアニメキャラであるごしっく☆シャロンの単行本を適当に殴りつけてみました。

 いつか真白の話についていけるよう、シャロンの本は全て持っているのです。

 今となってはそれも無駄になってしまったので、殴りまくる事に後悔はありません。


「きゃう!」


 突き指です。

 痛いです。

 振るい慣れて居ない暴力は使う物ではありません。


 私は八つ当たりすらまともに出来ない女でした。


 悔しくて、悔しくて、ベッドにあおむけになって泣きました。

 パンツにブラというだけの格好ではしたない事この上ないですが、泣きました。


 途中で弟がノックもせずに部屋に入ってきましたが、「姉ちゃん、ドライヤー貸し」まで言うとそのまま静かにドアを締めました。


 ああ、悔しい。

 ああ、悲しい。


 なんで私がこんな思いをしなければならないのでしょう。




 ぶつけようの無い憤りのせいか、目の前が暗くなりました。


 明りは付けて居る筈なのに、顔の上に影がかかったので、私は怒りのあまり特殊能力に覚醒したのかと思いましたが――――。



 ――――目を開けると、顔がありました。





「――――私、キレイ?」





 その言葉は、私の内側から響いてくるかのようでした。


 私は真っ赤な服を着た彼女に、訳のわからない親近感を感じてしまいました。

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