三次元女は浪費癖があるから邪悪
次の日の放課後、俺は街へと繰り出した。
我が地元、深空町は北海道では比較的に住みやすい地域だ。というのも、道内最大の都市である札幌市が近隣に存在するからである。
とはいえ放課後からの出発なので、中央区に到着するころには日が傾いている。
ネオンが灯り、空が茜色と紺のグラデーションへ染まって行くころ、札幌の街はすでに喧騒の中心を移し始めている。
街を埋める人混みはその数を減らさないまま、時間と共に親子連れや主婦の買い物客から、スーツや制服姿の帰宅ラッシュへと変わって行く。地下歩行空間の整備から、地上を歩く人間は減ったそうだ。それでも、狸小路商店街は相変わらず賑やかなように見える。
俺はその群の中に、学生服の姿で溶け込んでいる。
正直、地元である深空町よりも、俺はこちらの町並みの方が好きだ。
なにせ人が多すぎて、逆に人目を気にしなくていい。静かに歩いていれば誰も注目しないし、アニメショップも多く、冴えない風貌の連中だって少なくない。
都会の無関心は、一人ぼっちでいるのにはとても心地いい環境だったりする。
人目が怖いからって人混みを避ける奴は、むしろ素人だ。人気の少ない所で見つかったら、逆に注目されてしまう。裏路地なんかでヤンキーに絡まれたらアウトだ。人通りが多いからこそ、逆に無害なのだと悟るべきだ。
東西に伸びる商店街のアーケードを、真っすぐ西側に進んでいく。街全体が碁盤状になっていることからも、札幌市中央区は方向音痴に配慮しているようだ。
もっとも、碁盤目の町並みに慣れて居ない人間は、逆に同じような景色ばかりで迷ってしまう事が多い。東西南北を把握していなければ、何条通りか理解できない事も珍しくなく、思いっきり反対方向へ猛進する初心者をよく見かける。
その点、狸小路のアーケードは一番街、二番街とナンバリングしてあるために、安心して現在地を把握できる。
アーケードのテナントは代わる代わる変化し、市外から訪れる人間はその些細な変化に戸惑う事もある。それでも、概ねの棲み分けが出来て居るのは不思議なもんだ。
一番街に近づくと古着屋やファーストフード店などライトな雰囲気が有るが、四番街、五番街と西に進むにつれて、飲み屋やパチンコ店、ホテルなどのディープな空気が漂い始める。基本的に、この街は南西側に寄るほど怪しげになっていく。
飲み屋を目指すサラリーマンや、ゲーセンに寄る学生たちが次々と目的地でドロップアウトしていく中、俺はひたすらに西に進んでいく。
南北に折れる道を見渡すと、たいていはレストランやカフェ等の飲食店が立ち並ぶ。
その中にどっしりと構えて存在感を放つのが、本日の目的地であるビル。
アニメグッズ、同人取扱店の老舗「ちんだらけ」のテナントが入って居る。
札幌と言う街は、東京の文化を乱雑に詰め込んだような都市になっている。このようなオタク御用達スポットが、平然とオシャレなファッションプラザや居酒屋などの近くに存在し、住民層が混沌としている。
家族連れの喜ぶファミレス街やボウリング場からも、十分も歩けばホテル街や風俗街に辿りつく程の節操の無さ。
そのおかげで、俺も街をぶらりと散策するように振舞いつつ、アニメグッズをハンティングする事が出来るのだ。
オシャレ感の漂う一階のエスカレーターを通り、二階へ上がれば別世界。シックな大人びた色調が、一瞬で明るいポップな店内へと変わり、色とりどりのマニア向けフィギュアやホビー、同人誌が所狭しと陳列された、我らが戦場が出迎える。
銃は財布、弾は金。
コミックマーケットや聖地秋葉原へと気軽にアクセスできない地方民にとって、この支店こそが主戦場となるのである。
まして、夏コミ終了後の店内の殺気たるや、さながら紛争地域も真っ青の刺々しさをもっているのであった。
「……で、君は何でここに私をつれてきたのかな?」
背後から聞こえた声で、今日はロアを連れて来た事を思い出した。
今日はパーカーにジーンズと言う地味目なファッションに、キャップをかぶって貰っている。なにせ、あのゴスロリ服は目立ちすぎる。札幌市街に出てきてからならまだしも、地元を歩かせるのは何かと不味い。
それに、同人ショップに女連れで入るのはA級戦犯に認定される恐れがある。普段は温厚な草食系男子達の瞳が、猛禽類のような殺意溢れる物へと変わってしまう。そういう意味でも、あまり目立ってもらうのは宜しく無いのだ。
ロアは存外にもの解りが良い為、そのあたりは直ぐに理解してくれた。
だから、今から俺が説明する事も理解してくれるだろう。
「……ロア、何を隠そう、今日は同人誌を買いに来たんだ」
「まあ、わざわざ放課後に列車乗り継いでちんだらけに来たんならそうだろうな」
「冷めた反応をするな、大事な事だぞ! なにせ、俺のイマジネーションを刺激する供給源になるんだからな!」
「……別に私まで来る必要ないんじゃ」
「ふふふっ……それが素人の浅はかさよ。こいつを見るがいい」
そう言うと、俺は店内に張ってあったポスターを指さす。
ロアもつられて、赤い瞳をきょとんとさせて視線を動かした。
「……コスプレスタッフ、募集?」
そう、ちんだらけの特徴として、コスプレ衣装も取り扱っているという点がある。アニマイトやしりのあな辺りと違って、客層にもコスプレイヤーが少なくない。その客引きの一環でもあるのか、店員もコスプレ衣装で業務を行う事が有るのだ。
「なんせ同人誌を買うには金が居る! お前が此処でバイトすれば、同人誌の新規入荷をチェックしつつ同人代を稼ぐ事が出来るんだ!」
「おもいっきり身売りしに来たわけだな…………」
「人聞きの悪い事を言うな! 最終的にはお前の利益にもなるんだから、こういうのギブアンドテイクって言うだろうが!」
っていうか、そのためにも着替え安い服装で来てもらったんだよね。この場で店内の衣装を試着してやれば速攻採用でしょう。なんせこいつ、三次元の割には可愛いし。
「大丈夫、お前ならがっぽがっぽ稼げるはずだ! さらにここで俺の同人誌の嗜好をしっかり覚えて、じゃんじゃん在庫をキープしておくのだ!俺が学校に行っている間、新規入荷をがっつり押さえておくのがお前の仕事だぞ!」
ロアは非常に不満そうな目をしていたが、こういうのはツンデレなのだと勝手に納得しておいた。
そういうわけで、さっそく店員にバイト希望の話をし、事務所に通してもらったのだが。
「じゃ、学生証か身分証持ってる?」
の一言で撃沈してしまった。
ちくしょう、一撃でプランがおじゃんになった。ロアは何となく嬉しそうだったが、せっかく都会まで出て来たのに列車代を損しただけである。目当ての同人誌も入荷してはいなかった。
「畜生、この際ススキノでバイトさせてやろうか……」
「そこまでしたら流石に君の首を切り落とすからな」
ロアの目は本気だったので、仕方なく他の道を探す事になったわけである。
「だいたい、バイトなら君がすればいいじゃないか。私とちがって学生証も持ってるんだろう?」
「馬鹿野郎、どうして俺が人前に出て働けると思うんだ」
「随分と威張っているが、とても恥ずかしい事を言っていると自覚したほうが良いよ」
結局、狸小路を今度は東へ、ぶらぶらと二人で歩いている次第だ。
オタクの特性というか、遠出してまで収穫が何もないと、意地でも何か掘り出し物を探さないと気が済まない性分が俺には在る。
すっかり夕飯を食べて居ても良い時間帯になってしまったが、このままで引き下がるのもシャクなので、別のアニメショップを覗いて行く事にした。
「よし、地下を通って行こう。信号待ち面倒くさいし」
と言うロアの提案で地下街へもぐる事になったのだが、地下はこの時間帯、地上を凌駕するほどの込み合いように成る。南北に横たわる札幌地下街は、基本的には迷うのが珍しいくらいの一本道だ。しかし数か所の分かれ道が有り、そこで道を間違えると致命傷になってしまう。地下と地上の地理を一致させるのは、市民でもなかなか難しいくらいだ。
「ロア、はぐれんなよ。人混みに流されたら変わって行くぞ」
「なんだかよく解らないが、解った」
「……なんか、お前との会話ってことごとく適当なノリになるな……おわぁ!」
はぐれるな、と言った瞬間に掌に冷たい物が触れる。
ロアが手を握って来たのだと気付くのに、大声を出してから数秒かかってしまった。
「……お、おま、なんで手を握ってくるかな」
「だって真白君がはぐれるなって言ったんだろ? これが一番じゃないか」
「……こ、ここ、子供かよ」
「照れるな照れるな、相手は人間じゃないんだから」
よく解らない理屈で諭されると、ロアは俺の手を引いて先に歩き出した。慌ててついていくのに精いっぱいで、その手を振りほどくという考えが頭から飛んでしまった。
「お前、初めての街なのに先に行くなよ……」
「だって真白君に任せたら、目的地以外は脇目も振らないからね。私だってウィンドウショッピングくらいしたいんだよ」
「化けモンの癖に何を色気づいた事を……」
呆れながらも、前を歩くロアの足取りが軽いのを見てしまうと、あまり怒る気にも成れない。こうしていると、土地神のナントカなどではなく、同年代の普通の女の子にしか見えなかった。
ロアはどうやら洋服に興味が有るようで、通路の両端に並ぶテナントでいちいち足を止めては、きょろきょろと視線を泳がせる。
こう言うところの服は高いため、基本的には見るだけ。それでも割と満足げに、白い頬を軽く上気させてすらいる。
「……お前、随分楽しそうだな」
「ああ、だって私は土地神の化身だからね、深空町からは出られなかったんだよ」
「えっ、じゃあなんで今日はここまで……」
「今は真白君に憑いているからね。ある程度、君から離れなければ大丈夫みたいだ」
「本格的に取り憑かれたのか、俺は……」
なんだかうすら寒い事を言われてしまい、少しテンションが下がる。
しかし、ロアのはしゃぎようを見ているうちにそれも忘れて、段々こいつと歩くのが退屈でも無くなってきた。
ある程度進んだ後、珍しく横に折れる道へと入って行ったロアは、そこで殊更にお気に入りの店を見つけたようだった。
ゴシックパンクとでも言えば良いのか、バンドのおっかけの子が好むような服が並ぶ店で、ロアは今までよりも長く立ち止まった。
思えば、ゴスロリ衣装で顕現して来たのだ。こういう格好の方が琴線には触れるかもしれない。
何気なく商品の値札を見ると、プレミア付きのゲームやフィギュアよりはリーズナブルな設定のようだ。そんなひらひらした服の数々を見て、ロアは今まで以上に楽しそうな顔をしている。
魔が差してしまったのだろうか。
俺は、普段ならまず言いそうにない事を言ってしまった。
「…………試着したらどうだ?」
「……えっ、い、良いのかい? だって店員に冷やかしだと思われたら……」
「まあ、一通り買えば良いよ。お前の服、ゴスロリだけじゃ目立つから」
そう言って、俺はギリギリ自分を納得させられるだけの金額を渡した。男女の買い物のやりとりとしては色気が無いけど、とりあえず個の店内にずっと居るのも気恥かしい。
「……そ、そっか。じゃあちょっと待っててくれ。ワンセットだけ、なるべく安くそろえて来るから」
そう言うと、ロアはより一層、熱心に服を選び始めた。
言った後で、俺は今月の小遣いの事を考えて酷く後悔に襲われたが、ロアの顔を見て居るとそんな気持ちも救われる気がする。リアル女は燃費がわるいな糞ったれが。
やがて、ロアが数着の服を試着室に運び込んでいくのを見て、俺は時間がかかりそうだと思い、早々に店の出口へと向かった。金は渡してあるのだから、適当に買って出てくるだろう。
暇になったため、地下街を練り歩く人の群を適当に眺め、趣味の一つである人間観察に没頭する事にする。
こうしてみると、やっぱり都会。老若男女、多種多様と言うよりは節操がないという印象を受ける。特に地下街の、信号待ちが無いとか転校に左右されないという快適さのせいで、それこそ人を選ばずに呑みこむ空間になっている。
ちなみに俺の人間観察と言うのは、基本的にリア充やDQNを発見して脳内で呪いをかける事を言うのだが、本日は俺自身が女の子と一緒に出かけて居るため、いまいち呪いに迫真的な物が籠りそうにない。
なので、今日は本当にぼんやりと、人波を眺めているだけだった。
☆
ざわつく地下の騒音の中で、ケータイの着信に気付くのが遅れたのは、着信音が聞こえづらかったからだ。決して、普段から着信が来ないためバイブレーションの感触が何だか解らなかったためではない。
しかし、ポケットから取り出して見ると確かに俺のケータイが鳴動している。
着信先は非通知。
嫌な予感が脳裏に迸るのと同時に、ロアと離れてしまった事実が少なからず俺をうろたえさせる。
「なーんて、こいつの場合は通話に応じなければ問題無いんだよな」
なにせ相手はたぶん、メリーさんの話が元に成っている。
基本的には電話で自分の居場所を教えてくるだけの話、最後に後ろに立たれるが、通話に応じなかった場合に襲われたって話は聞いた事が無い。
だから俺は冷静に、通話終了のボタンに親指を伸ばした。
『――――もしもし、私、ペリーさん』
その瞬間に響いた、しっかりと耳に覚えのあるアニメ調の声音に俺の動きは固まった。
ケータイの画面からは、着信通知は消えて居る。勿論、俺は通話に応じて居ないので、その声が聞こえる筈は無い。
そもそも、声が聞こえて来たのは頭上。
俺はおそるおそる、さながらホラー映画の視点移動のようにゆっくりと、天井を見上げる。
そこにあったのは、有線放送や施設内アナウンスを響かせていたスピーカー。
客の有無などお構いなく、ランダムな音楽や業務連絡を垂れ流しにする、耳に障る装置が俺の頭上に設置されている。
そしてそれは、こちらの返事などお構いなしに、ただ放送を続けてくる。
『今、あなたの目の前に居るの』
目の前に広がるのは、雑多な人の流れ。
その中に一人だけ、動かずにこちらを見据える人影があった。
その視線は確実に、俺を標的と見据え、鋭く煌めいて――――。
「――――……いや、鋭く無いなこれ」
その目は、くりくりとしたまん丸な碧眼だった。
宝石のようにきらきらしており、ロアの視線の持つ鋭さとは対照的で、実に広く景色を見渡せそうな大きくぱっちりとした目だ。
だが、その視線は斜め下から向けられている。正直言って、その子はとても背が低いというか、幼女と形容して差し支えないような体躯だ。
小さな体にはオーバーサイズなゆるゆるのTシャツには、デザイナーの頭を疑いたくなるような星条旗が刻まれていて、それを大きめのオーバーオールで覆っている。
頭にはいわゆるキャスケット帽が乗って居て、そこからふわふわとしたウェーブ気味の金髪が肩まで伸び、全身にアメリカンなオーラを纏わせている。
「随分探したの、霧島真白」
そして、その小さい唇から出てきた声はやはり、電話口で聞いたものと一緒だった。
「貴方、嘘をついたの。やっぱり貴方が真白くんだったの。ジャップは口がうまくて嫌になるの。賢いだけのイエローモンキーのくせになの」
「……リアルで会うと口が悪いなペリーさん」
「黙るの。私、怒ってるの。騙された事に気付いた後、グランマのみそスープで慰められるまでわんわん泣いたの」
「想像するととても可愛いと思います」
「しゃらっぷ! 誰が萌えろといったの!」
Shut up! の発音が微妙に心許なかった上、小さな手足をばたばたさせて抗議するので和みまくりだ。小型犬が機嫌悪い時、こんな感じだろうなと思う。
「まあ、そんな事はいいの。直接会いに来たのは、要件を伝えるためなの」
「なんだよ、開国はしねーぞ」
「関税に関しては物申したい事が有るけどそれは良いの! 実は…………」
ペリーさんは深刻そうな話を始める前に、一度肩をすくめてからオーバーアクションで肩を落として見せた。やはりどこか、血筋の髄が欧米人っぽい。
そんなどうでもいい印象をかき消されたのは、彼女の声が想像以上に深刻そうだったからだろう。
「…………助けてほしいの」
☆
通路の脇に供えられたベンチで、職務質問されやしないか怯えながらペリーさんの話を聞くだけは聞いてみた。
「かいつまんで言うと、ペリーさんは俺の愛玩奴隷になりにきてくれた、と……」
「一言も言ってねえの!ファッキンジャップ!」
やはりオーバーアクションで叱られた。その前にHAHAHA、とか笑って見せるワンクッションが欲しい所である。
まあ、実際に話をかいつまむと、ペリーさんが憑いている相手は戦前生まれのお婆さんだそうで、孫が遊びに来なくて寂しいお婆さんを土地神候補の争いとかほっぽって相手してたら、とうとう他のイマジンに目をつけられたってことらしい。
怖い物が実体化するという理屈を考えると、彼女が欧米人っぽいのは、戦前生まれの意識に影響されたからなのだろうか。
「でもお前、相手もバケモンだが自分もバケモンだろ、戦えばいいじゃん」
「力を発揮するには人間の想像力が必要、知ってると思うの。周囲の人間を無差別に襲って無理やり吸っても、力は得られるけど……お婆さんと、人をむやみに襲わないって約束してるの」
「お婆さんから吸えば? 俺も吸われた事あるけど、別に死ぬわけじゃないんだし」
「確かに、実体化の媒介となった相手からは吸う想像力は純度が高いの……でも、九十歳越えてるグランマから想像力を吸ったら痴呆になっちゃうの」
「思ったより深刻だった……」
そうだよな、ただでさえ衰えてるのにボケを加速させるような真似は出来ないよな。第一、九十歳越えの婆さんからのマウストゥマウスと言うのは深刻な光景だ。
「それに、物騒な事にグランマを巻き込みたくないの。戦うのはハードなの」
「一人で戦えばいいじゃん。口裂け女とか普通に強かったぞ」
「口裂け女と違って、メリーさんのエピソードは危険度が曖昧な分だけ戦闘力が低めなの! それに……相手はちょっと凶悪なやつなの。もう人間もイマジンも何人も襲われてるの」
「……そんな物騒な奴に立ち向かえって俺に言うのか。嫌に決まってるじゃん!」
「でも、深空町での出来事なの。放っておいたらいつか真白くんや、真白くんの親しい人も襲われちゃうの」
「俺は斧女が守ってくれるから大丈夫。そして三次元人どもがどれだけ襲われても俺の知った事じゃない!」
「想像以上のド屑野郎なの……っ!」
小学生にしか見えない幼女にすら吐き気を催す邪悪認定されてしまった。これには流石に自分のダークヒーローっぷりに驚愕するばかりだ。
「おねがいなの! なんでもするの! 斧女と真白くんに力を貸してほしいの!」
「じゃあとりあえず股開けよ」
「こいつ躊躇もくそったれも無いの!」
今何でもするって言ったよね? 俺は間違ってないよね?
「ただ、俺は三次元幼女にはそこまで欲情しないんで、ガキの乳臭え下着見せたらちゃんと土下座して謝れよ」
「お前は神かなんかなの!? ホリィシット!」
「まあ、俺がエロゲーやってる最中に手伝ってくれると言うならやぶさかでも……」
「何の話をしてるんだ、君らは」
ペリーさんと同時に視線を挙げると、わざわざ購入した服に着替えたロアが立っていた。
黒が基本色であることに変わりは無いが、幾分か夏っぽい服装に変わって居て、カチューシャとミニのプリーツスカートが赤、それにニーソックスが赤黒の縞に変わって居たため、色合いが鮮やかに成っている。
まあ、ゴスロリ少女がゴスパンク少女になっただけなんだけど。
「お帰りロア、実はペリーさんがカクカクシカジカでよ」
「なるほど、敵は怪人赤マントか……骨が折れるな」
「なんで開示されて無い情報まで解るのお前!?」
斧男にエスパー能力は無かった筈だ。が、ごしっく☆シャロンの魔法の力だと考えると納得できなくもないから嫌なもんだ。
「ふふん、まあ良い。新しい服を変えてモチベーションも上がった所だ。赤マント、相手にとって不足は有るまい」
「まあ戦うのも傷つくのもお前だから俺は全然良いんですけどね」
「清々しいくらいに人間のクズだな!」
「それより腹減ったわ。もう飯食っていこう。あんまり金はかけられないから、牛丼かマックな」
「どうせ並しか頼ませてもらえないのだろうなァ……」
「お前、パンクファッションで牛丼大盛りとか頼む女とは一緒に歩きたくねえわ……」
そんな風にして歩き出すと、袖口をくいくいと引かれた。
見下ろすと、ペリーさんがこちらをキラキラした目で見て居る。
指をわざとらしく咥え、口からよだれを垂らしている。
「……お前、腹減ってんのか?」
「ハングリーなの。アメリカの味が恋しいの」
その表情は本当にひもじそうで、お婆さんちの日本食が口にあわないのだろう事は簡単に想像できた。
だから、俺は出来るだけ優しい笑顔を浮かべて、ペリーさんの頭を撫でてあげた。
「土でも食ってろ白仔豚」
「クソファッキンジャァァァァァアアアアップ!!!」
暴言にマジギレしたペリーさんの猛攻から逃げながら、俺たちは地下歩行空間を駆け抜けた。