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としでんイマジネイト  作者: ばらっど
二章・熊とバスケとトンカラトン
12/12

傷口に塩を塗られた揚句からしを練り込まれた話

※下品です

「たまに、有線放送とかから流行の曲が流れてくると、思うんだ」


 帰宅後の日課として、ネットにアニメの感想を書き込んでいた時の事。

 発言内容からはわかりにくいが、突然、こんな事を言い出したのはロアだった。


「今の人間ってさ、『お前の信じた道を行け』とか『本当の愛を見つけよう』とか、そういう歌が好きなのかい」

「まあ、どうやらそうらしいけどな……俺は一般大衆ではないから解らんけど」

「なんで見た感じ遊んでそうな外見のチャラいお兄ちゃんに、上から目線で人生を肯定されて喜んでるんだい?」

「そういう特定方向に喧嘩を売るのやめてくれる?」


 もともとセガなどの限定的な文化には詳しいロアだったが、今はそれ以外に、自分の知らない人間の文化にも興味を持っているようだ。

 テレビやネット、ラジオなんかから垂れ流される情報に、いちいち食いついて何かと考えている事が多い。


 俺から想像力を吸い取った分、ロアは想像する力が増しているのかもしれない。

 想像する余地が増えたから、「疑問を持つ」ことが多くなったのだろう。

 あくまで、これは推測でしかないけれど、買ってきた同人誌の内容に散々つっこむようになって来たから間違いないと思う。


「まあ、愛だ恋だ言うのが好きなのは理解できるけどね、私には甘ったるくて聞いてられないね。肉体関係だけだよ信じられるのは」

「シャロンたんの外見で生々しい事言わないでくんない?」

「どうせ聴くならもっと尖った曲が聴きたいってことさ」

「そうか……ところで、ここに俺のMP3プレイヤーがあるんだけど」

「言っておくけど、君の好きなアニメソングも割と内容が変わらないよ?」


 すかさずぶん殴ってやった。


 が、この化け物、斧の刃のところで拳をガードしやがった。


「ダァオ!!」

「これが『斧女バリアー』だ……」


 拳を痛めてのた打ち回る俺を見下ろし、けらけらと笑うロアはまさに悪魔である。

 化け物はやはり化け物。シャロンたんのような慈愛を求めてはいけないと覚えなくてはならない。


「……じゃあ、ロアはどういう歌なら素直に認めるんだよ」

「『burning hearts ~炎のangel~』とかなら好きだよ!」

「ただのセガ厨じゃねえかこのクソアマ!」

「ICOのサントラなんか聞いてるGK野郎には言われたくないねぇ……」


 ここ最近でわかったことだが、こいつとはゲームの趣味がさっぱり合わない。

 ソニックなんかは一応持ってたけど、こいつはその上、やれナイツを買えだの、やれバーチャロンを買えだのと煩い。

 最近はボカロにも興味を示したらしく、ラブソングは聴きたくないとか言うくせにボカロ曲なら喜んで聴いてやがる。

 基本的に、俺のサターンはスーパーリアル麻雀をプレイするために動けば良いのだ。

 ただ、それを言うと本当に血で血を洗う戦いになるので、お互いにゲームの話題はなるべく続けないようにしている。


 いや、それだけじゃない。

 こいつの場合、何の話題を出して、もあまりロクな方向へは発展しないのだ。

 この少女趣味全開のゴスロリおばけは、外観こそ美少女で、服装こそしおらしいが、そのメンタリティは限りなくおっさんに近い。

 横になってチーカマ食べてるし、足おっぴろげて寝るし、大相撲を見るのは欠かさないと来たもんだ。

 あと、俺の貞操がたびたび危なくなる事は今までもあったが、最近はことさらにその危険が高く、就寝時なんかも放っておくとベッドの下から上まで這いあがって来て、隙あらば襲いかかって来るのだ。


 羨ましいと思うか?

 俺は思わんね。


 それはもちろん、可愛い女の子に迫られるっていうことが魅力的だというのは当然なんだけど、それにしたってムードとかそういう物があるわけで。

 ロアみたいに「オラ、とっとと脱げよ」とか言いながらズボンを引きちぎりパンツをひん剥き、ゲヘゲヘ笑いながら顔の上に座り、あまつさえ相手を無力化するために二度三度と鳩尾を殴りつけて来るようなのは嫌に決まって居るだろう。


 それだけじゃない。

 この女、人の風呂やトイレも平然と覗きに来るし、パンツを脱いでおくと被ってたりするし、尻を揉んで来るわ胸を揉んで来るわデリカシーの無い言葉で責めて来るわ散々なのだ。

「おや真白君、髭の生えるペース早くない? 男性ホルモンが分泌過多なんじゃないかい?」とか言われてみれば千年の恋も冷める。 


 最初のころは大人しい物だったのだが、同人誌を読ませまくったせいか、こう、女側ではなく男側の人間性を吸収してしまったらしい。

 今のこいつは凌辱系同人誌に登場する痴漢のオッサンが、美少女の格好をしているにすぎないのだ。


 だから、このロアが不意に


「真白君、ちょっと提案が有るんだけど」


 等と言い出した時は、四の五の言わずに逃げ出すのが鉄則である。

 というわけで、俺はダッシュで部屋の出口へ向かい、ドアを開けようとノブに手を伸ばした、が。


「ぎゃうっ!!」


 先にドアがこちらに向かって開かれ、思いっきり額を打った。


「真白ー、居るんでしょー……って、何やってんのよ。ブリッジなんかして」


 見上げれば、どうやら回復したらしい晴香が居た。

 口も避けて居ないし傷跡も残って居ない。カーディガンやフレアスカートに、ストッキングという服装は、割と見慣れた物だ。


「何も糞も、今お前のせいで頭蓋骨が陥没するところだったよ……」

「大げさねえ……ランバーコア製の木製ドアでそこまで致命的にならないわよ」

「な、なんでお前はそんなに建材に詳しいんだ……!?」


 晴香はずかずかと上がり込んで来ると、普通にロアと並んでベッドにすわりおった。

 全く俺に話も通さず上がり込んできやがって、下の階に居る両親は何をしているのかと思ったが、あの両親に常識的な対応を期待するだけ無駄というものだろう。


 

 ここいらで一つ、うちの家族について触れておこうと思う。

 母は絵本作家、父は小説家というクリエイティブな夫婦の下に、姉と俺と妹の五人構成となっている。

 この父母と言うのがエキセントリックな人格で、先日ロアを紹介したところ、二つ返事で俺の部屋に住まわせる事を許可してくれた。

 姉と妹は流石に引きつった顔を浮かべていたが、妹の方は何事に対してもすぐ諦めてしまう悪癖があるので、次の日には普通にロアに接していた。

 姉だけは未だにビビっているが、概ね、そんな調子でロアが住みつく事には家族の反対はなかったのである。


 

 話を戻そう。

 晴香はロアと会話を始めて居た。


「やあ晴香君、はじめましてと言えばはじめましてだね。その後、身体の調子はどうだい」

「おかげさまで最高にハイな気分よこの雌豚。あれからどうやって泥棒猫の駆除をしてやろうかと考えない日は無かったわ」

「豚か猫か比喩は統一した方が良いんじゃないかな、頭の程度が知れるよ」

「それは悪かったわね、まあ、どちらにしてもアンタは人間じゃないって事だけは確かよ」


「…………」


 なにこれ、気まずい。


 いや、晴香の気持ちは知って居るし、その暴走の原因も俺とロアの仲に在るのだから、決して穏やかな関係になるとは思わなかったが、それにしたって殺伐としすぎじゃないか。

 ここに割って入るのはかなりの勇気が必要だったが、それでもこのまま二人だけで会話させて、また血で血を洗う決闘が始まっても困るので、なんとか俺は口を割りこませた。


「そ、それより晴香、今日は何の用なんだ?」

「いや、真白が貞操を失ったって言うから殺してやろうと思って……」

「お前まだ口裂け女憑いてない!?」

「いえ、真白が私以外の女と関係を持とうものなら貴方を殺して私も死ぬって事は前々から考えて居たんだけど」

「そうなんだ怖い! お前そんな前々から俺を殺す覚悟を決めてたの!?」

「本性が知れたらもう隠す必要も無いしね。だからほら、練炭買って来たのよ」


 ゴトン、と鈍い音がして、無骨な練炭コンロが目の前に置かれた。

 すかさず俺は窓を開けて先手を打っておく。


「お前、口裂け女に憑かれた時もしかして正気だったか!?」

「あ、うん。基本的には私の意思だから、あれ」

「畜生!! とんだ糞女だったよ!!」


 ここまでぶっとんだ幼馴染だとは思いませんでした。

 何で俺は必死にこいつを助けようとしてたんだろう。


 そこへ「まあ待て」とロアが再び割り込んで来る。


「晴香君、相手が自分のものにならないからって殺してしまったら、それで終わりじゃないか。この先に広がる色んな可能性を捨ててまで心中して、それで幸せかい?」

「こいつは突然に常識人みたいな事を言うな……」

「私はいつでも常識人だ。それに晴香君、真白君はまだDT(抱きしめてトゥナイト)だから大丈夫。それは魚住君に漏れた噂が先行した物だろう」


 ロアの話を聞きながら、ぼんやりと「俺がロアに襲われた噂もイマジン化するんじゃないだろうな」と不安になったが、流石にそれは無いだろう。

 その話を聞いて晴香は、幾分か冷静になったようだった。


「成るほど……そう言う事なら、その噂が本当になるまえにとっとと規制事実を作った方がよさそうね」


 冷静になったと思った晴香が、冷静なまま組み伏せてきた。怖い。

 あんまりに突然の事でさっぱりリアクションが取れなかったが、今更になって俺も慌てだした。


「ちょっ、は、晴香さん!? なんでそう極端な方から極端なほうに走るんです!?」

「男のくせにビービー言うんじゃないわよ。 あんただって一生童貞のまま死にたかないでしょう? つべこべ言わずに股開けよオラァッ!!」

「いやぁああああっ!! む、無理やりはやめてくださいっ!!」

「へへへ……綺麗な身体してるじゃないの……まあいつも見てたから知ってるけどね……オラオラ脱げよ!! そんでしゃぶれよ!!」

「ひ、酷いっ……今までずっと猫被ってたんだな……!」


 ふつうはこの台詞、言ってる性別が逆じゃないかと思うんだけど。


 しかし、そこでまたまたロアが割り込んできて、晴香の肩を掴んで止めてくれた。

 流石に主人の危機は救ってくれるというのか、ロアを一瞬見直しそうになった……が。


「晴香くん、それより僕はさきほど、もっと良いプレイを思いついた所なんだけど、良かったら一緒に試してみないかな」

「お前がさっき思いついたのってそれかァ!?」


 味方だと思ったら完全に後ろから撃って来る形になったロアは、晴香になにやらゴニョゴニョと耳打ちを始める。

 初めは険しい顔をしていた晴香だったが、それを聞くとしばし考え込み、そしてロアと二人でこちらを真っすぐ見つめて来た。


「……なかなか風情のある趣向ね、それは」


 そして、ついさっきまでいがみ合って居た癖に、今度はやたらと息の合った調子で二人揃って近づいてくる。

 両腕をわきわきと動かしながら、どこかの暗黒拳法のような威圧感を持って、俺を部屋の隅へと追い詰めていく。


「やっ……ちょ、ロアさん? 晴香さん……? あの、か、考え直せよ……話し合おう? ね? 無理やりは良くないよ、何事も語り合って……あっ、あ、ぎゃっ! アッ――――――――!!」



 どこにも、味方は居なかった。



          ☆



 数十分後。


「……ばっちりね」


 と晴香。


「……良い出来だ。満足だな」


 と、ロア。

 そして。


「…………殺せェッ!! もういっそ俺を殺せェッ!!」


 と練炭を抱えて火をつけようとし、それをロアと晴香に抑え込まれているのが俺である。


 補足しよう。


 ロアのゴスロリドレスに晴香のストッキングと下着を装着され、妹のウィッグをつけられて丁寧に化粧をされて暴れて居るのが俺である。


 ……ふふっ。

 よもや此処までの辱めを受けるとは思わなかったよ。


「死にたいんだけど……」

「いや、超似合ってるって真白くん。元が男だったとは到底思えない出来だぞ」

「素晴らしいクォリティね……元々の身体がひょろいから、タオルを巻く事で上手い具合にくびれを演出出来たわ」

「そこは良い仕事だったな。胴をコルセットで縛ってやれば、もう完全に女性体型になったものな」

「貴方も流石のメイクセンスだったわ。認めてあげない訳には行かないようね」

「ふっ、晴香くんの綿密な女装演出にも驚いたけどね。ライバルと呼ばせてもらいたい」

「なに手前らだけ意気投合してやがんだよ……」


 なんか仲良くなってやがった。

 俺と言う生贄を接着剤にして、すっかり遺恨を解消していやがった。


「だが真白くん、これで終わりではないぞ?」

「へ?」

「そうよ、あくまでこれは本番を盛り上げるための演出に過ぎないわけだし」

「じゃあ手筈通り、私はバックアタックを担当すればいいんだね」

「私は前方から攻めていくわ。流石に此処は譲れないものね」


 二人の眼光が、完全に猛禽類のそれへと変わった瞬間。

 俺は溜まらずに二人の顔面に肘を入れ、窓へとその身を躍らせた。


「汚されるっ……捕まったら汚されるっ……」

「あっ、逃げたぞ! 追えェ――――ッ!」

「待ちなさい真白、往生際が悪いわよっ!」


 窓から庭の木に飛び移り、猿の如くひょいひょいと降りて町へとダッシュする。

 自分がこれだけ運動出来た事には驚くばかりである。口裂け女の時もなんだかんだで逃げ切ったし、実は潜在能力が高いかもしれないな、俺。


 しかし、背後からどう考えても人間の速度では無い気配が襲ってくる。

 これは間違いなく、ロアも本気で追跡してきているし、晴香の奴も口が裂けて居るような気がする。

 

「どっ、どこか、何処かに隠れないとっ……」


 今度は布団屋に逃げ込む訳にもいかないし、このままの速度ではまごついても居られない。

 兎に角、どうにかして奴らの眼を逃れないと。


 そうして息を切らしながら、曲がった角の先には――――。




          ☆



「……もう行った?」


 おそるおそる、俺は塀と塀の間から抜け出してきた。

 家の敷地の間にできた狭い狭いスペースに逃げ込み、そこを隠してもらう事でなんとか、晴香達の追跡を逃れたのだ。


「ああ、もう向こうに走って行ったみたいだけど……」

「良かった……ありがとう、助かったよ、魚住」


 たまたまた通りがかった魚住がすぐに協力してくれなければ、俺は捕まっていたかもしれない。

 事情を聞かずに迅速にかくまってくれるあたり、やはり魚住は良い奴なのだ。


「危なかったよ……魚住が居てくれなかったら、どうなっていたか……」

「あ、あー、うん。それは何よりなんだけどさ……」


 戸惑うように頬を掻きながら、魚住は首をかしげる。

 一体どうしたのかと、俺も首をかしげてその顔を見上げている。


 すると、魚住の口から飛び出した台詞に、一瞬で血の気が引いて行く。


「初対面だと思うんだけど……君、だれ?」


「…………」


 そうだった。

 俺、女装させられたままなんでした。


「なんか裸足だし、服も乱れてるし……物騒な事があったんなら、警察に行った方が……」

「あっ、いえ、なんでもないです! ほんと何でもないですから! すみません私これで失礼しますご協力どうもありがとうございましたァ――――ッ!!」


 背を向けて全力で魚住から逃げていく俺。

 今から家に帰って部屋中にカギをかけて、着替えて寝よう。そうしよう。

 もう何もかも今日の事を忘れてしまいたい。

 俺の精神ライフポイントはゼロだよ。


 魚住が呼びとめていたような気がするが、俺は一心不乱に走った。

 走って走って、走り続けて、消えないトラウマを心の奥へ追いやろうとした。


 なので、そのあと魚住がどんな事を思っていたか、知る由も無かった。






「……誰だろ、今の子……いや、俺は犬飼が好きなわけだけど……」


「……でも、可愛かったなあ……」

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