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としでんイマジネイト  作者: ばらっど
二章・熊とバスケとトンカラトン
11/12

赤いマントは要らんクマー?

 俺が学校に復帰しても、晴香の欠席は続いていた。

 出席日数が心配になるほどではないが、あんな事があった後なので、気がかりではある。

 けれど、教室の話題は殆ど、俺がでっち上げたクマ騒動に持ってかれて居た。


 俺は人生で、こんなに注目された事がない、と言うほどの質問攻めにあった。

 適当な事をでっち上げて置いたけど、あまり嘘ばかりでも無理が出るので「気絶して解らない」と言うような事を言っていたら、俺から得た情報を好き勝手に脚色して、尾ひれをつけて楽しみ始めている。

 話題が欲しいだけなのだろうから、それで良いんだろう。

 けれど、今回に限っては俺もちょくちょくと話を振られ、それに対して応えることになった。

 クラスの環に少しでも加わるというのも、まあ、思ってたほどは面倒でも無いような気がする。


「でもさぁ、マジでクマがあんな事出来るわけ?」


 俺の前の席に、魚住は背もたれに両腕を重ねる形で据わって話しかけて来た。

 皆からの質問攻めには戸惑った俺も、今の魚住とは少しだけ、話がしやすい。

 

「いや、どうだか……俺も、クマに襲われた後は気を失ってて、気がついたら部屋があんな事になってたから……」

「へぇー、でもやっぱ違和感あるよなあ。誰にも見られずに進入して、誰にも見られずに出ていく大熊って」


 そりゃそうだ。

 むしろ俺は、そんな違和感のある出任せで押しとおせた事に、割と驚いている。

 まったく、道民はクマを何だと思っているんだ。

 ふつうは魚住のように、首をかしげるのが当たり前だろう。


「けど、犬飼も丁度良い時に休んだよな。襲われたのが霧島だけだったのは偶然だしさ、下手したら他にも誰か襲われてたかもしれないじゃん」


 そういう魚住に、その犬飼晴香が件のクマの正体であるとは口が裂けても言えない。


「まあ、クマだしね……何考えてるのかわからないからね…」

「霧島も腕の傷だけで済んで運が良かったよなぁ、一応、腱が傷んだりしてるわけじゃないんだろ? バスケ出来るんだろ?」

「うん、傷痕は思いっきり残るだろうけど……あと別にバスケはしないけど」

「なんでだよー、楽しいぜバスケ」

「俺の身長が魚住と30センチくらい違うからじゃないかな」

「ばっかやろ、お前の背ならドリブルが強力な武器になるんだぜ」


 すっかり、俺の中の魚住への苦手意識は無くなっていた。

 朝に怪我の調子を心配され、そこからプロレス談義に花を咲かせたのが利いたと思う。

 普通に話かけられたのは少し驚いたが、魚住の友達連中も大して気にしてないみたいだ。

 それどころか、その連中にすら最初は怪我の心配をされたくらいだ。

 思いのほか優しかったのだ。


 そう言うわけで、この昼休みはこのままずっと、魚住と話して過ごす事になりそうだった。


「ところでさあ、霧島」

「なに? さも話題を変えますよって感じだけど」

「お前、彼女居んの?」


 一瞬、飲んでいたコーラを魚住の顔面にブチまけそうになった。

 咳き込みながら、その話を他の誰かに聞かれてやしないかと周囲を見渡したが、みんなまだクマの話をしているようだった。

 どんだけだ、クマの影響力。


「いやー、なんかこう、顔つきっていうか雰囲気って言うか、余裕が出たなと思ってさ」

「……そ、そう?」

「ああ、引き締まったって言うか大人になったっていうか……ほら、お前、腕怪我して一日休んだじゃん? その間に何かあったのかなーって」


 エスパーか何かか、こいつは。


「……い、いや、なにも無いけど」

「俺の経験上、こういう雰囲気の変化はよ……童貞捨てた奴の特徴なんだよな」

「………………ほ、ほへぇ、そっすか」

「だからこう、看病の名目で仲の良い女子が来てさ? 腕が使えなくて自分で処理できないから云々みたいな流れになるじゃん?」

「魚住っていっつもそう言う感じでコトに及ぶの?」


 エロゲみてえな奴だな。


「で、どうなんだよ霧島。休んでる間に大人になったんじゃねえの?」

「……ある意味では」

「マジかよっ! はっはっは、おめでとう。最初はそうだよなー、世界が変わるよなー」

「……あ、ある意味では」

「なんだよ煮え切らねえなあ。あ、さてはお前アレか? ムスコが帽子でも被ってんのか?」

「被ってんのは関ァン係ないでしょうがァッッ!!!」

「おっ、す、すまん。そんな怒んなよ……」


 畜生、何様だこいつ。

 日本人はむしろ火星人の方が多いんだよ糞が。


「……それに、俺が三次元の女で童貞捨てるなんてありえないよ。三十歳まで守り切らないと魔法少女になれないしな」

「意味が解らんが、そうなのか? じゃあ大人になったってのはどういう意味なんだよ」

「……まあ、童貞は童貞なんだ、まだ」

「うん、それで?」

「……でも、処女じゃなくなっちゃった……」

「………………………………おっ、おお、お? お、おう……」


 やだ、こんなに戸惑う魚住の顔、初めて見た。

 理解に若干の時間がかかったらしい。


「……え、何? じゃあ霧島、男に襲われたって言う……」

「いや、相手はまあ男じゃないんだけど……」

「……そ、それはそれで、キツいな」

「ああ、キツかったさ……何せ、本来は入れる場所じゃなくて出る場所だからな……」

「……切れた?」

「堪忍袋の話か、筋の話か知らないけど、どっちにしても同じ結果だったよ」

「そっか……なんか、なんて言っていいのか解らないけど……強く生きろよ」

「うん……」


 その昼休み以降、魚住の態度はいつにも増して優しくなった。



          ☆



「熊風?」


 さっぱり聞き覚えのないその単語が耳に入って来たのは、放課後になってからだった。


 その事に関して詳しく教えてくれたのも、やはり魚住だった。

 クラスの中心人物なのだから、噂に関しての情報は誰よりも多く入っていただろう。

 掃除当番の班が一緒だったために、詳しく話を聞く時間が有った。

 もっとも、掃除の時間に魚住と親しく話す事など、先日まではまず考えられない事だったが。


「ああ、なんかそういう噂も流れ始めてるんだってよ。どこが出自か知らないけど、オカルト好きの結城あたりが話したのかもな」


 ちなみに、結城と言うのはクラスに居る女子の一人だ。

 あんまり目立つタイプじゃないが、おまじないやらに詳しいらしく、一部の女子には結構人気があったりする。


「で、その熊風ってなんなのさ」

「えーっと、なんかクマの祟りらしいぜ。北海道に前から伝わる都市伝説なんだと」

「……都市伝説……」


 その単語を出されると、嫌でもぞっとしないわけに行かない。

 

 何せ、あの図書室の惨劇を引き起こした原因こそ、都市伝説の怪物、イマジンたちの仕業なのだ。

 まさかクマを題材にした都市伝説があるとは、流石は北海道というかなんというか。

 しかし、これって俺の適当なデタラメのせいで、その古い都市伝説が掘り起こされちゃった形になるんじゃないだろうか。 


 下手をしたら、この都市伝説からまた、イマジンが生まれたりするんじゃなかろうか。


「……あの、魚住さ。その話、もっと詳しく教えてもらえないか」

「詳しくも何も、あんまり難しい話じゃねーぞ? なんか、クマを惨たらしく殺したりすると、祟りがあるって感じの話だった。都市伝説つーか、怪談っぽいよな」

「祟りって、例えば……?」

「吹雪になったり嵐になったりするんだってよ。だからあれだけ図書室が荒れたのは、化け熊が熊風を起こしたとか……ドラクエかよって話だよな。バギかよ」


 ヤバそう。

 なんか天候操作系とか凄い強そう。

 

 違うじゃん。そう言う敵ってもっと後に出てくるじゃん。

 俺とロアはまだ武器がベッドワープと斧しかないわけよ? ジョジョで言うと三部辺りなわけよ?

 なんかその敵は六部あたりに出てくる感じの凝った能力持ってそうじゃん。


「そ、その噂ってもう、結構広まっちゃった?」

「そりゃ広まるだろー、うちの学校って噂話大好きじゃんか」

「……そうなの?」

「おお、お前いっつも話に加わって無かったもんな。うちの女子とか毎日のようにそういうオカルトな話してるだろ」

 

 ああ、あのビッチどもが話してたのはそういう話題だったのか……。

 断片的にしか聞いてなかったから、そんな傾向とか気付いてなかったよ。


 って、あれ? それもヤバいんじゃない?

 もしかしてこの周辺、イマジンが生まれまくりやすい環境に在るんじゃない?


「……魚住、あの、そう言う話題で有名なのって、なんか他に知ってる?」

「都市伝説か? 最近は口裂け女をみたーっ! って騒いでる奴もいたな」

「ビンゴォッ!!!」

「うわどうした霧島! 何!? 今のって悲鳴なのか!?」


 ちっくしょう、あいつらのせいじゃねえか!

 そりゃ、いっつも女子グループのど真ん中で話してる晴香が口裂け女に憑かれるよ!

 

「ほ、他には? 他にはなんかあったか?」

「……えっと、深夜二時まで起きてるとメリーさんから電話がかかってくるとか、あったな。あ、でもなんか、どっかのグループでペリーさんとか言う間違った名前で伝わってて笑ったなァ。開国すんのかよって」

「……大体納得できたわ」

「後は……そうそう、怪人アンサーとか花子さんとか、赤マントとか、紫鏡とか人面犬とか恋のおまじないとか、なんか聞いたことあるような話題が結構出てたな」

「ちょ、ちょっと!」


 思わず、魚住に詰め寄ってしまった。

 一瞬、怯んだ魚住がモップを取り落としそうになる。


「魚住……今、赤マントって言ったか?」

「い、言ったと思うけど……」

「その話も教えてくれ! 出来るだけ詳しくっ!」


 俺のテンションに、どう見てもヒいている表情の魚住だったが、すぐに深く息を吐いて落ちついた。

 そして、真面目な顔になって腕を組む。


「……なんか事情が有りそうだな。解った、なんとか覚えてる限りの事を話すよ」


 やっぱり、こいつは本当に良い奴なんだろう。

 チャラチャラした外見なんか関係なく、魚住はこう言う時、相手が必死になる事情まで汲んでくれる奴なんだ。

 つくづく、俺は今まで魚住を毛嫌いしていた自分の小ささが嫌になる。

 と言っても、まだ友達と言える程に話した訳でもないが、少なくともこいつを信用してしまっているのは間違いない。


 少し考えて、魚住はぽつぽつと話し始めた。


「えーっと、とりあえず赤いマントを着けてるんだよ、そいつ。でも目立つわけじゃなくって、大体、夕方に出て来るから夕日に溶け込んで気付きにくいんだと」

「……出てくる時間帯が決まってるのか」


 このあたりの特徴は、口裂け女のイマジンにも混ざり込んだかもしれない。

 最初に俺が奴に遭遇した状況と合致する。


「それで、下校する学生を狙って襲うらしい」

「……通り魔みたいな感じ?」

「いや、赤マントは質問をして来るらしいんだよ。赤と青、どっちが好き? っていう」

「……ほんと、口裂け女みたいなやつだな」

「赤って応えると血まみれ、青って応えると溺死させられるらしいぜ」

「逃げようがないじゃないか。弱点とかあるのか?」

「えーっと、無いってよ。会ったら終わりだって」


 畜生、厄介な最強設定つけやがって……。


「あー、でもアレだ。赤マントが出ると、その近くに在るパソコンとかケータイとか、あとファックスも反応するらしいぜ」

「……具体的には?」

「画面とか印刷用紙に『A』って表示されるらしい。だから、赤マントの事を『A』って呼ぶやつもいたな」

「…『A』か」


 その単語に、少しだけ引っかかるものがあった。

 けれど、それはまだこの時点では胸に秘めて置く。


 でも、だいぶ情報を得る事が出来た。

 後はまたネットかオカルト系の本で、赤マントの都市伝説について調べてみるのが良いだろう。


「……あ、そうそう」


 魚住が思い出したように手を叩く。


「なんかさ、その『A』って、すごいそれっぽいアニメのキャラが居るとか」

「……アニメの?」

「そそ、木島が昔、なんとかっていう深夜アニメにハマってたらしくてよ。それがすげえ『A』っぽくて、同じような事言う奴が結構いるらしいぜ」

「へえ……みんな思ったより、深夜アニメ見るんだ」

「夜更かししててたまたまテレビでやってたからハマっちゃう、みたいな奴多いぜ。なんかエロいのとかもやってるじゃん、たまに」

「……ごしっく☆シャロンっていうアニメ知ってる?」

「いや悪い、知らない」


 思わず唇を奥歯で噛んでしまった。

 いや、でもこれで知ってるとか言われたらヒかれるまで語っちゃいそうだから、これはこれで良しとしよう。


「えっとそれで、なんだっけ。その『A』は何のアニメに似てるの?」

「なんだったかなー……タイトル聞いた筈だったんだけど」


 魚住自信はそのアニメを知らないらしく、少しだけ目線を上げて考え込んだ。



 そして、しばらく掃除を続けながら悩んで、ふと何かの拍子で思い出したらしく、声を上げた。


「そうそうそう、ドラキュラだ」

「……ドラキュラ?」

「そう、なんかドラキュラの出てくるアニメだって言ってた」

「……そ、そっか。ありがとう」


 魚住が気付いて少しして、教室の掃除もきっちり終わった。


 そのまま魚住はバスケ部の部活へと出かけて行き、帰宅部の俺は鞄を背負って、帰路につく。

 外はまだ明るく、日もまだまだ傾いてきたばかり。

 空は青く、夕暮れはまだ先みたいだ。


 赤マント『A』がイマジン化していることはペリーさんの情報で確かな筈だ。

 が、もし現れるとしたら、この時間帯では無いだろう。


 夕暮れ時か、もしくは……きっと、もっと夜の筈だ。




 

 俺はその日、脇目も振らずにまっすぐ家に帰った。

 そして、溜めておいたアニメの録画の中から、一つのタイトルを探しだす。


「……あった」


 このアニメが放映したのは、一年前のことだ。

 当時はそのスタイリッシュさで話題になり、オタクでなくても勧められる硬派系としてアニメサイトやブログで紹介されていた。


 俺も当時はリアルタイムで見ていたが、あんまりこの手のオシャレ・ハード路線が趣味じゃなかった事もあって、面白いとは思ったけどハマるほどじゃ無かった。

 また、コラボしたアクセサリーやグッズが提携企業のショップで売られ、チャラい連中に人気だったので、なんとなく複雑だったのもある。


 逆にいえば、このアニメの事を知っている非オタの同年代も、結構な数が居たはずだ。

 ワルぶりたくてサブカル好き、という層には特に浸透していた。

 そういう連中は噂好きだし、未だに強く覚えて居る奴もいるだろう。



 アニメのタイトルは「Alucard the Dracula」。


 拳銃と日本刀を武器にした、現代に生きる吸血鬼『A』が主人公の、アメコミテイストなバトル物だ。


 

「……もし、シャロンのイメージを取りこんだロアみたいに、こいつも『A』のイメージを取りこんでいたら……」


 イマジンどもは、人間の想像力でいくらでも進化する。


 作中でとにかく、最強、無敵、俺TUEEEE! を強調されていた『A』がイマジン化したら、それは本当に、手がつけられないだろう。


 晴香の事に加え、熊風に、『A』。


 あと俺の尻。

 

 しばらくは、悩みの種は尽きそうにないようだ。


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