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としでんイマジネイト  作者: ばらっど
序章・根暗オタクと斧女
10/12

後片付けするまでが戦いですよね

途中投稿でしたので、改稿しました。

 こうして、俺はロアと共に、口裂け女のリベンジを退けた。


 初めて体験する、確かな命のやりとり。

 人間以外のもの、イマジンと呼ばれる怪物の脅威。

 そして、現実から目を背けていた自分へのツケ。


 暴走した晴香と戦い、その心の叫びに触れて、俺は成長できただろうか。


 今までの自分の行いを、反省しただろうか。


 そうとは自信をもって断言できない。

 ただ、俺は自分が晴香を追い詰めたという事実を、最悪の形にしたくなかっただけかもしれない。

 自分が臆病な人間である事は、痛いほど知っている。


 けれど。


 晴香に対して、少しだけでも向きあう気持ちが持てたのなら。


 俺はまだ、変われるのかもしれない。



          ◇



「……なんて言う感じで終わればよかったのにな」


 終わらなかった。


 具体的に言うと、とりあえず図書室の惨状が目の前に在り、気絶した晴香が目の前にいた。


 本棚ぐっちゃぐちゃ。

 血だまりドッロドロ。

 壁とか床とかボッコボコ、である。


「あのさ!! この手の派手なバトルの後ってさ、なんとなく後腐れなく話が片付いてるもんじゃん!? 口裂け女が暴れ回った跡がそのまま残ってるとかどうすんだよこれ!!」

「いや、布団屋の時と違って、普通に暴れただけだからね」


 返事をしたのは、満身創痍のロアである。

 腕は口裂け晴香に噛み千切られたままなので、相変わらずスプラッタ映画みたいな見た目になっている。



「やべえよやべえよ……さっきまで外の事とか全然気にならなかったのに、なぜか急に廊下から人の気配がするよ……」

「あー、さっきまでは口裂け女の結界に囚われて居たようなもんだからねえ。今なら普通に図書室に出入り出来るとおもうよ」

「不味いだろ! この地獄絵図どうすんだよ! 俺は現状をどう説明をすればいいんだよ! お前とかさ、腕取れてるじゃん!? 千切れあそばされてるじゃん!?」


 何を言っても納得してもらえなさそうである。

 真実を正直に話してもたぶん、無理だろう。


「落ちつけ、真白くん。逆に考えるんだ。『停学になってもいいさ』と考えるんだ」

「それは逆どころか思考放棄って言うんだよ!」

「文句ばっかり付けるのがゆとり世代のスタンダードかい? ロアびっくり」


 ちくしょう、こいつにかまってる場合じゃない。

 時計を見れば、もうすぐ昼休みが終わる。証拠隠滅はどう考えても無理そうだ。

 せめて晴香を連れて此処から脱出しなければならない。


「ところで真白くん。せっかく腕が取れてるから今だけできる持ちネタみたいなのを一つ、ストックしておこうと思うんだけど」

「あー、そうね。ガオ○イガーの真似とか良いんじゃない?」

「仮面ライダー○ーズなんかは旬が過ぎたかなぁ。腕だけマスコットってなかなか斬新だったんだけどね。『コンニチワ、右手デス! FA宣言シマシタ!』ははっ、くだらね」

「お前余裕ぶっこきすぎだろ……なんで腕一本飛んだのにその軽さなんだよ……乳歯抜けちゃったレベルのテンションだろ……」

「だってこのくらいなら、また生えてくるからね」

「そうなんだすごい」


 やっぱりバケモンだなこいつ。

 あんまり心配しなくてよさそうだ。


「っていうか、ロアもちょっと考えろよ……とりあえず人に見られないように脱出しないとならないんだよ、俺の学校生活が終わるかどうかの瀬戸際なんだよ」

「終わったら終わったで一日中、家でアニメ見る生活を送りそうだけどね、君は」

「良く解ってんじゃねえか……」

「まあ、脱出するんだったらほら、さっき作った簡易ベッドから君んちのベッドまで皆でワープできるし」

「早く言えよッッッ!!!」


 そんな便利機能あったのかよ。

 先に教えといてくれたらもっと早く呼べただろ、お前の事。


「いやー、僕が黙ってた訳じゃないよ。ベッドワープはさっき、君の発想から生まれた能力だからね。出来たてホヤホヤだよ」

「あ、そうなんだ……つくづくデタラメなんだな、お前ら」


 だが、段々とこいつらの存在について、おぼろげながらも理解出来てきた気がする。

 最初のうちこそ、都市伝説から生まれたバケモノくらいにしか考えて居なかったが、ロアたちイマジンがその名の通り、イメージの塊である事を理解した方がよさそうだ。

 もっとアバウトに、想像や発想という所に主眼を置くべきなんだろう。

 人間の心を糧にしている以上、こいつらを活用するにも、これから襲ってくるイマジンに対応するにも、そういう感覚を忘れないようにしなくてはならない。


 これから。


 そう、これからもまだ、俺はこんなバケモノに襲われる可能性があるのだ。

 

 たった一戦でこれだけ満身創痍にされ、周囲を滅茶苦茶にされたのだ。

 こんな奴らが、あと何匹も出て来ると思うと、正直いって何もかも投げ出したくなる。


 けれど、自分でも意外な事に……晴香が巻き込まれたという事が、どうやら一番、気にかかっているみたいなのだ。

 

 これからも、俺の周りの人間があんなバケモノに襲われるかもしれない。

 この街を戦いの主舞台にする限り、また、イマジンに取り憑かれる人間が現れるかもしれないのだ。

 それは母さんや、父さんだったりするかもしれない。

 魚住だったり、クラスの馬鹿どもだったりするかもしれない。


 あんな奴ら、何が起こったって気にしないと思っていたけれど。

 

 実際に晴香が巻き込まれたのを目にして、俺は……意外にも、そういう事を心配してしまっているみたいだ。


「……なんだか、少しだけ顔つきが変わったね、真白くん」

「そ、そうか?」


 ロアがいちいち、人の心中を見透かすような台詞を言うのも、大体理解が追いついてきた。

 こいつは俺の心に取り憑いて、影響を受けて居るのだから、考えが筒抜けになるのだって当たり前なんだと、今なら理解できた。


「……とにかく、まずはさっさと逃げ出……あっ」

「どうした真白くん。小林製薬かい?」

「いや違くて……俺、直前に魚住とここでメシ食ったんだった」


 ヤバい。

 あいつは、俺が図書室に居た事を知って居るし……昼休みに此処を訪れたのって、俺と魚住だけだ。

 この事態が露見すると、間違いなく俺か、魚住になんらかの疑いがかかる。


 というか、魚住のほうがヤバいかもしれない。

 あいつ、気は良い奴だけど素行は良くないのだ。

 俺一人の力でこんな状況、作れるわけがないし、人望があって複数犯の可能性が疑える魚住に何らかの疑いが行くかも……。


「真白君ってばどうしたんだい。今日一日で人の心配をする余裕が生まれたみたいじゃないか」

「うっせえやい……参ったな。これじゃしらばっくれられないぞ」

「ふうむ……まあ、どうでもいいけど早く判断しないと不味いと思うよ」


 そう言ったロアは、俺の腕を見つめている。

 厳密には、腕についている口裂け本の噛み傷を。


「結構な出血量だし、放っといたら危ないと思うけど」

「……あれ、そう言えばあんまり痛くないぞ……っていうか、フラフラしてきた」

「そんだけ血を流せばねえ、痛覚もマヒしてきたんじゃない?」

「あれ、それって危ないフラグじゃない?」


 やべえよやべえよ、処置受けなきゃ死ぬじゃん俺。

 人の事とか心配してる余裕無かったよ。さっさと病院に行くか何かしないと……。


 焦りながら部屋の中を見渡していると、ふと、この部屋についた傷も、俺の腕についた傷も、全部「噛み傷」である事に気付いた。


「……よし、解った」


 少し考えて、俺は腹をくくった。


「ロア、晴香と口裂け女をつれて、先にベッドでワープしておいてくれ。その口裂け女も消えてないみたいだし、とりあえず俺一人だけ此処に残る」

「……大丈夫なのかい? 君一人で切り抜けられるのかい?」

「なあに、そりゃ俺はコミュ障だけど……今、とっておきを思いついた。この街ならなんとか、通用する筈だ」

「なんだい、頼もしいじゃないか。それじゃあお言葉に甘えて、僕は先に退散しておくよ。君も早く帰ってきてくれよ? 君が居ないと、僕も回復できないんだから」

「正直な奴だな……任せろ、事情聴取とかは時間がかかるかもしれないが、自然に病院にも行けて、違和感も無い言い訳を思いついた」

「……解った。上手くやれよ、真白くん!」


 そう言うと、ロアは気絶した晴香と口裂け女を引きずって、再び簡易ベッドの下へもぐって行った。

 一端、千切れた腕を忘れて戻って来たが、次にもぐった後はうんともすんとも言わなくなった。


 下をのぞいてみると、確かにこつぜんと居なくなっている。


「……すげえな、物理法則とか糞食らえだもんな」


 妙な感心をしている場合じゃない。

 俺は、俺のやるべき事をやらないと。


「さあて、この言い訳が通れば良いけど……」



          ◇


「アホか君は!?」

 

 病院で手当てを受けて、翌日は大事を取って学校を休んだところ、寝起きのしょっぱなにロアにそう言われた。


「っていうか君たちはアホか!?」


 ロアは今日の新聞の朝刊を手にしていた。

 なるほど、記事になったらしい。


「アホアホ言うなよ、しっかり俺の言い訳が通ったじゃないか」


「だからってあの惨事がヒグマの仕業で済むかぁ!?」


 済んでしまった。

 いや、よもや全員あれを信じるというのは俺もびっくりだったけど。


「土地神の癖に土地感がねえな……北海道で、人間技とは思えないほど部屋が荒らされて、家具や人間に噛み傷がたくさんできたんだぞ!? クマの仕業にすりゃ一番自然じゃねえか!!」

「お前らクマを何だと思ってんだ!? どんだけステルス性の高いクマだよっ!!!」

「クマなめんなよ!! あいつ二足で歩くし上半身だけなら赤いシャツを着るだけの知性もあるだろ!!」

「あれは生のクマじゃないだろうがっ!!!」


 しかし、バケモノに常識的な突っ込みをされるとは思わなかった。

 ボケと突っ込みが逆じゃなかろうか。


「それよりロア、晴香は結局どうなったんだ」

「ああー……まあ、彼女はまだ精神的なダメージが大きそうだからね、風邪で休んでるって事になってたみたいだし、彼女の家のベッドに寝かせて置いたけど……後から、いろいろ話に来るかもね」

「……記憶は残ってるもんなのか?」

「まあ、たぶん。憑依されてた状態だけど、あれは口裂け女と彼女の意思が、丁度同じベクトルで重なってたし、意識は有ったと思うよ」


 あれだけの大暴れをされて、意識があったと言われるとそれはそれで怖い物が有る。

 俺の知らない所で、ああいう過激な一面もあったんだなあ、晴香の奴。


「……で、肝心の口裂け女は?」

「そりゃ、ここに」

「うぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!?」


 ベッドの下をのぞかされると、す巻きになった口裂け女が猿轡されて転がっている。

 口が裂けているおかげか、猿轡の食い込みっぷりが豪快だ。


「だ、だだ、大丈夫なのかよこれ……」

「うん。宿主から引きはがされた上にダメージ受けてるし、しばらくは力が足りなくて動けないんじゃないかな」

「しばらくは……って、じゃあ、まだ暴れ出す可能性があるのかよ」

「……誰かに取り憑けば、あるいは」


 ぞっとする話だ。

 こいつに取り憑かれるだけで口裂け女、もしくは口裂け男になると思うと、危険性はロアやペリーさんに比べてずっと高いように思える。


 だが、口裂け女を殺してしまわないように言っておいたのは、俺なのだ。


「……本当に良かったのかい、真白くん」

「ああ、手駒は多い方が良さそうだからな。お前らそれぞれ使える能力も違うんなら、出せるレパートリーは多いほうが助かるし……さしあたって、こいつを上手い事利用できないか、考えてみる」

「……なんだか、随分アグレッシブになったんじゃないか?」

「俺も少しは、真面目にこの戦いの事を考えようと思っただけだよ」

「……そうかい」


 目を閉じて微笑むと、ロアはベッドの下に手を突っ込んだ。


「じゃあ、僕が先日買いに行かされた同人誌のレパートリーが、ほぼフェラ特化である事とは何の関係も無いんだね」

「…………あの、それはですね……」

「三次元に興味が無い無いと言っておいて、どういう奴なんだ君は……」

「……口を作れる能力を使えば、リアルな自慰器具を作れるんじゃないかと……」


 どかん、と胸元を蹴られ、ベッドに吹っ飛ばされた。


「……君はそこまでして三次元に向き合いたくないのかい」

「いや、だってね? あくまで二次元で妄想しながらヌくのと三次元の行為とでは話が……おい、来るな。乗って来るな!」

「流石に少しずつプライドが悲鳴を上げて来たよ。よし、まだ右腕も生えてないことだし、がっつり君から力を絞らせてもらおう。勿論、経口摂取な」

「やめて!? ちょ、コラ、触るなッ!! そういうの違うからッ!! 脱がすなッ!!」

「大丈夫、童貞は勘弁してやる。ただし君の処女は諦めろ」

「はぁっ!? ちょ、ちょっ、アッ、アッ――――――――!!!」





 その日、俺は大人の階段を一つ、踏み外した。


 そんな中、気付いていない事が二つあった。


 一つは、「クマ襲来事件」の話自体が、新たな都市伝説として広まってしまう可能性。


 そしてもう一つは――――。



 高台から町を見透かすように眺める、赤いマントの影の事。

今回までのイマジンの事。


ロア:斧女

固有能力は今のところ、ベッドの下限定のワープ。

及び、巨大斧を操る怪力。


晴香:口裂け女

固有能力は「口」の支配。

「口」と名のつく物を操り、武器にしたり、ポルターガイストまがいの現象も引き起こす。


ペリーさん

固有能力その1は「ネットワークへの侵入」。

電話回線からインターネット、外線、内線関係なくダイブできる。

固有能力その2は「位置情報の申告」。

相手に「今の居場所」を段階にわけて伝えることで、徐々に近づく事が出来る。

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