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紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
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第一章「新たな生活」第九話

人差し指を咥えたメッサリナ。

末妹リウィッラから怒りを浴びせられ、大泣きをしていたが、ようやくジュリアにあやされ、今は黙って泣き止んでる。


「ねぇー!ねぇー!ジュリアさん、これだよこれ!」

「わぁ、リウィッラちゃん。まだその人形持っててくれたの??」

「うん!」


あれは当時から六年も前のサートゥルナーリア祭の時、ジュリアは花で編んだ人形をリウィッラの為に作ってくれた。もう、だいぶ枯れて小さくなっているが、リウィッラにとっては宝物。寝付けない夜の、お護りとなっている。


「そうそう、ジュリア。こいつは毎日毎晩、これを抱きながら寝ているの」

「アグリッピナ様、私はリウィッラちゃんがここまで大切にしてくれて本当に嬉しいですよ」

「良かったな?リウィッラ」

「うん、お姉ちゃん!」


さーて、このくらいの長さでいいかな?さっきメッサリナに切られてしまったお護りブルラの紐部分を、長さを合わせながら先端を口で咥え、以前よりも緩みを作ってハサミでパチンと切った。今度は頑丈で滅多な事では切れない。あたしは襟足の髪の毛を横に垂らし、両手と勘を使って結び目を作って長さを調整した。


「どう?ジュリア」

「うん、とてもいい感じです。以前よりもたるみができてイイですね」

「ありがとう~。ほら、メッサリナ。もう直ったよ」

「うん……」


少しはにかんで頷くメッサリナだが、リウィッラは頬を膨らませて、ぷーんと顔を背けてしまう。あたしとジュリアは、お互いに顔を見合わせながら苦笑い。


「たははは……」

「まぁ、しょうがないっか」


すると、ジュリアはトゥニカの袖を捲って、ニコニコ笑いながらメッサリナをあやしてる。ジュリアの真心は、どんなに荒んだ心も洗ってしまう力がある。


リウィッラとあたしは元気に庭を駆けずり回り、時たまティベリやドルスス兄さん達と、インチキクイズを出し合いながら過ごしていた。時を見計らうように、リウィッラだけを別の場所に連れ出し、あたしは最も重要な事を頼む。そう、朝からずっと気になってた事を。


「リウィッラ、あんたに一つ頼みたい事があるの」

「何?」

「お母様やネロお兄様達がお帰りになったら、それとなく婚約相手の様子を聞き出して欲しいの」

「どうして?」

「どうしても」

「分かった。アグリッピナお姉ちゃんの頼みなら、何だって聞くよ」

「ありがとう。お前は本当に可愛いやつだな」

「ぷう。ぶりっ子メッサリナよりも?」

「ああ。あたしにとって、あんたは一番可愛い妹だよ」

「やった!」


事実、これからもそうだった。

兄カリグラが統治した時代にも、リウィッラがセネカと不義を重ねた時も、あたしはこいつを護るため、夫と不仲になろうとも戦った。あたしの分身以上の可愛さがある。


「お帰りなさい、お母様」

「ふぅ~。ただいま、リウィッラ」

「ネロお兄様、お帰りなさい」

「うん、ドルシッラ。ただいま」

「どうでした?」


あたしは自分では怖くて聞けなかったから、末妹リウィッラに、グナエウスの人柄をネロお兄様に聞いてと頼んでいた。何より、リウィッラには自分の聞き出したいことを、引き出す才能に溢れているのだから。


「ああ。グナエウスさんは、噂よりもとっても実直でいい人だったよ」

「へぇー」

「とっても優しい眼差しで、とっても寡黙な人だった」

「そうね、ネロ。今時珍しいほど、喋らない人ね。今までの噂が嘘みたい」

「ええ、お母様。とても実直で、あの人ならアグリッピナを、幸せにしてくれそうな気がする」


それを聞いた当時のあたしは、胸を撫で下ろした。それはグナエウスの黒い噂が自分の耳に入ってこなかった事もある。だが、事実はギリシャ神話の神々達による、気まぐれな行為よりも残酷無慈悲。少なくとも、あれを抜きにしたとしても、ゲルマニクスお父様とは天地の差。知っていれば、決して結婚などしなかった。


「ないいいいいいい!!」

「ど、どうしたの?!」

「ジュリアさんから貰った、あたしの人形がないいい!」


リウィッラのわめき。

そしてメッサリナの反撃が始まった。


続く



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