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紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
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第一章「新たな生活」第八話

「あちゃー、アグリッピナ様。結婚式の前日には、小っちゃい頃から使っているお人形が必要なんですよ」

「え?そうなの?」

「はい。ご実家の守護神であるラールを祭る寺院に、お人形を祀るんですよ」

「え、でも、あたし人形なんて持ってないよ」


するとドルスス兄さんは、突然お腹を抱えながら笑い出した。ジュリアも何も言わずニコニコしている。リウィッラと私はポカーンとしたまま。


「あははは~。つまりな、アグリッピナ。昔からお転婆で、人形遊びもしなかったであろうお前の事を考えてだ、ジュリアさんは、わざわざ作りに来てくれたんだよ」

「はい」


そういうと、また、ジュリアは仔犬の笑顔で答えてくれた。あたしは恥ずかしくなって、頭をポリポリかきながら、気遣ってくれたジュリアに感謝した。


「あ、あははは。そういう事ね」

「確かに!お姉ちゃん、お人形遊びしないもんね」


ドルスス兄さんは嬉しそうに、リウィッラへあたしの過去を話し出した。


「ああ、リウィッラ。お前がまだまだ母さんのお腹にいた頃、お前のお姉ちゃんは昔っから木登りが大好きで、トゥニカは泥だらけ、膝小僧は擦り傷だらけで、しょっちゅう母さんに怒られてたよ」

「たははは、何だがお姉ちゃん、あんまし今と変わんないや」

「そうそう、母さんからお尻叩かれすぎて、だからあんなにお尻がでかくなったんだぞ」

「もう!ドルススお兄さん、そこまでひどくなかったですよ」

「何言ってるんだよ、アグリッピナ。余りにも木登りし過ぎて、母さんが心配だからって、お護りのブルラ貰ってたじゃないか」

「ああ、これのこと?」


私はスルスルと胸元からお護りのブルラを出した。ブルラとは、子供が産まれてから、病や呪いから身を護るためのお護り。貝殻に幾多の模様が彫られている。当時は、主に男性専用で、女性には余程の事がない限り持たせなかった。つまりあたしのお転婆は、母ウィプサニアからすれば、余程の事だったのかもしれない。因みにあたしのは、お兄様達の貝殻よりも小さな貝殻だった。


「ええええ?!お前、まだずっと持ってたのかよ」

「うん」

「普通は女の子がするもんじゃないんだから、十歳になったら外してもいいんだぞ」

「何と無く外せなくて」


するとジュリアとリウィッラが、物珍しそうに、あたしのブルラを眺めている。ジュリアはとっても綺麗と褒めてくれて、リウィッラは大人びいて、やっぱりお姉ちゃんはお転婆だったんだと頷いてた。


「ああああ!とっても綺麗!!」

「あ、メッサリナだ」


リウィッラは、後からやって来たメッサリナに対して、明らかに嫌悪感を出していたが、あたしはギュッと末妹の手を握ってあげる。


「アグリッピナお姉ちゃん?それ何?」

「うん、メッサリナ。これはブルラと言ってね、あたしの大切なお護りなの」

「見せて見せて~!」


メッサリナは駆け寄って、あたしのはブルラを引っ張った。するとその勢いで、紐の部分が偶然にも切れてしまった。あたしは、まぁ直せばいっかって思ったけど。そばにいたリウィッラは違った。


「ありゃりゃ」

「メッサリナ!ありゃりゃじゃないでしょ!あんた!これはアグリッピナお姉様が、昔から大切にしていたお護りなんだよ!」

「でも、切れちゃっただけだもん」

「切れちゃったじゃないでしょ!あんたが無理矢理引っ張って切っちゃったの!」

「でも、だってだって」

「だってもくそもあるかよ!あんた悪い事しているのに、自分のことばかり!アグリッピナお姉様にちゃんと謝りなさいよ!」


ビックリ。

リウィッラは今まで、あたしにはお姉ちゃんとしか呼ばなかったのに、突然この日を境に、他人様の面前では、敬意を表してお姉様と言い出したのだ。


「うううう、うわあああああん!」

「おいおい、リウィッラ。言い過ぎだって」


ジュリアはしゃがんでメッサリナを抱っこして、頭を撫でてる。


「あらら、メッサリナちゃん」

「うわあああああああん!」

「メッサリナ!ジュリアさんにも迷惑掛けて!泣いたってダメなんだからね!」


リウィッラは泣き続けるメッサリナへ、追い打ちをかけるように怒ってる。さっきまで泣いて甘えてた末妹がだ。


「もう、やめなってリウィッラ。お前もやり過ぎだって」

「でも、お姉ちゃんの大切なブルラが」

「大丈夫だよ。紐が切れたくらい、何とかなるって。ねぇ?ジュリア」

「ええ、アグリッピナ様。直ぐに直せますよ」

「ドルスス兄さんなんか、昔、ブルラを首でクルクル回し過ぎて、紐が切れちゃって、壊した事だってあるんだから」

「ええ?そうだっけ?」

「覚えてらっしゃらないんですか?あの鼻水を垂らしてた時ですよ」


リウィッラは驚いた。


「ええ?!ドルススお兄様って、昔鼻水を垂らしてたんですか?!」

「イヒヒヒ、そうそう」

「おい!アグリッピナ!お前って奴は~。それを言いたかっただけだろ?!」

「えへへ」


ジュリアに抱っこされているメッサリナも、ようやく泣き止んで一段落。だが、次の日にはリウィッラがメッサリナに泣かされる事になる。そう、幼いながらメッサリナとリウィッラの確執は、既にこの頃から始まっていたのである。


続く





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