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紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
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第一章「新たな生活」第六話

法的な責任が伴うローマの婚約式は、花婿側から送られる結納と指輪、花嫁側から納められるドスの嫁資、契約書への調印などを取り交わし、ようやく結婚式の日取りが決められる。母ウィプサニアとネロお兄様、祖母のアントニア様と結婚相手のグナエウスが取り決めをしている頃、あたしは兄妹達とメッサリナを含んで、結婚式の練習をしていた。


「"貴方が、ガイウスであるかぎり"」

「"貴方が、ガイウスでるかみり"」

「おいおい、アグリッピナ。お前、カミカミじゃないか。何を緊張してるんだ?」

「だって、ガイウス兄さんは、本当に"ガイウス"兄さんじゃない。何か兄さんと結婚するみたいで変な気分」


兄カリグラは私の練習台だ。

何だかノリノリなのが気になる。


「これは結婚式の練習で、お前の為にやってやってるんだろう?真面目にやらないなら付き合わないぞ」

「は~い」

「ほれ、もう一回言ってみろ。"貴方がガイウスであるかぎり"」


だが、である。

私は堪えきれなかった。


「ブハッハハハハ!!」

「おーい!なんで爆笑してるんだよ?」

「アハハハ、だって。ガイウス兄さん、裏声出して女みたいで気持ち悪いんだもん」

「バカだな~。これは芝居の基本である姿勢なんだ。やっぱりリアリズムを追求しないとな」


全く、当時のあたしときたら。

この後の結婚が、自分の人生にとって、どれほどの影響があるかなんて、考えもせずに呑気だった。


「アグリッピナお姉ちゃん、頑張って!」

「メッサリナ、ありがとう」


メッサリナは庭のそばにある大理石の床から声を掛けてくれた。だが、隣にたまたま居合わせてた末妹リウィッラは、何だか膨れている。


「メッサリナ、アグリッピナお姉ちゃんの邪魔しちゃダメでしょ、もう」

「あ、はい、リウィッラさん」


何であいつがあんな態度して拗ねてるのか?次女ドルシッラも、私もその頃は分かってなかった。少し半泣きのメッサリナに対して、ドルシッラは優しく気遣った。


「大丈夫よ、メッサリナちゃん。アグリッピナ姉さんは、鉄のような心の持ち主だから」

「うわぁ!ドルシッラさん、ありがとう」

「こら!誰が鉄だって?!ドルシッラ?」

「あら?アグリッピナ姉さん、何か聞こえたの?」

「聞こえたわよ、鉄のような心の持ち主だって!」

「ええ?そんな事言ったかしら私?全く風の神の気まぐれね、ねぇ?メッサリナちゃん、フフフ」

「ネェ、ドルシッラさん」


メッサリナとドルシッラは、仲良く微笑んでいた。ったく、最近のドルシッラは、皮肉が上手くなって。だが、そばに居たはずのリウィッラが、いつの間に姿を消してる。あいつ、本当に最近変だな。


「ほら、アグリッピナ、集中しろ」

「うん、ガイウス兄さん」

「"貴方が、ガイウスであるかぎり"」


やっぱりあたしはリウィッラが気になった。そのままカリグラ兄さんを無視して、あいつが居そうな場所へと探しに行った。


「おい!アグリッピナ!どこ行くんだ?!」

「ごめんなさい、ガイウス兄さん。すぐに戻るから!」

「ったく、あいつはやる気があんのか?この高まった俺の練習意欲をどうしてくれるぅ?!」

「ガイウス兄さんも大変ね」

「うん?ドルシッラ、お前、アグリッピナの代わりになれ」

「へ?あたしが?」


リウィッラ、あたしはあいつが心配になった。何だかどことなく、昔の自分を見ているようで。庭の裏手に回ると、そこにはドルスス兄さんの太腿に座って、泣きついてるリウィッラがいた。


「どうしたんだよ、リウィッラ。泣いてるばっかりじゃ分からないだろ?兄さんに話してごらん?」

「うぐ、ううう。あたしメッサリナ大っ嫌い!」


あたしはただ、立ち止まっているしかなかった。


続く


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