表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
5/302

第一章「新たな生活」第五話

ローマの婚約式。

それは結婚式を迎えるにあたり、双方の親達が、自分の子供達を結婚させるための誓いを交わす。


不幸にも、私達ユリウス家の家父長は、ゲルマニクスお父様が亡くなってしまったので、長男であるネロお兄様が受け継いでる。一方、婚約相手であるアエノバルブス家側も、三年前に家父長であるルキウス様が亡くなっているため、事実上、家父長は私の結婚相手であるグナエウスなのだが、今回は公平性も含めて、グナエウスの実母アントニナ様の妹であり、私達の祖母であるアントニア様も参加される。


「アグリッピナ、私達はこれからネロとドミティウス氏族のアエノバルブス家へ行ってきます」

「はい、お母様」

「家のことは次兄のドルススとアシニウスに任せるので、ちゃんと言う事を聞くのよ」

「はい」


花嫁側は、ドスと呼ばれる「嫁資」を用意しなければいけない。つまり花婿側へ納める持参金の事だ。この金額は皇族同士であれば、莫大な財産が流れる。この折り合いもまた、細やかな折り合いを重ねながら、決められていくのだ。


「やぁ、ドルススくん、元気かい?」

「あ……。アシニウス様、お、お久しぶりです」


母ウィプサニアやネロお兄様と入れ替わりで、あのアシニウス様がやってきた。当時は子供心に、母とアシニウス様が不義を重ねる関係であったことは、知らぬように振舞うしかなかった。


「アシニウス様も、お元気そうで何よりで」

「あはは、お世辞もだいぶ上手くなってきたな。セイヤヌス達からならっておるのか?」

「……」

「なぜ"あいつ"の応援をしてやらない?」

「それは……」


仮にそれがアシニウス様の親心だったとしても、そして仮に母と対立するセイヤヌス一派に属したドルスス兄さんだったとしても、アシニウス様が母を、本人のいないところで"あいつ"と呼ぶ態度が気に食わないらしい。


「ドルススくん、君がお兄さんのネロくんに対して、収まりきれない蟠りがあることは分かる。だが今こそ、家族兄弟が一丸となって、あいつを守ってやるのが筋だろう」


だが、ドルスス兄さんは反論した。


「アシニウス様は国家反逆罪をご存知ですか?」

「何?」

「母や長男が対立している相手は、セイヤヌスさんではなく、我々家族の養父ティベリウス様です。そしてローマの皇帝です。いくら考え方が違うとはいえ、家族のするべきことでしょうか?立派な犯罪じゃありませんか?!」

「何だと?!貴様はよくもぬけぬけと、そんな偉そうな事が言えるようになったな?誰のお陰で、あの時君がローマの首都長官になれたと思っているんだ?!」


だが、ドルスス兄さんは口元をクイっと緩ませ、相手を論破し始める。


「それは母ウィプサニアのお陰でしょう?」

「な、何だと?」

「私の母の好意を引きたくて、いえ、貴方は母を思い通りにしたくて、そうやって私を利用したんだ!」

「貴様、聞き捨てならない言葉を!」

「母を抱けて、さぞかし満足でしょう?!」

「ドルスス!」


激情に駆られたアシニウス様は、ドルスス兄さんの身体へ暴力という手段で黙らそうとした。だが、若い兄さんは、自分の身体のバネを利用し、まるで月の弧を描くように、いとも簡単に老体を投げ倒してしまったのだ。


「ぐは!」

「ふう、ご自身を過信されない方が身のためですよ、アシニウス様。九千からなる親衛隊軍団を束ねるセイヤヌスさんから、僕はこれぐらいの護身術を身につけるよう常に教わっているのですから」


痛めた背中を抑えながら、身体を丸めるアシニウス様に対し、セイヤヌス一派に誇りを持つ兄はずっと老体を見下していたる。それはまるで、これから起きる家族の破滅を、暗示するような冷酷さを物語っているようであった。


続く




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ