第三章「籠絡と姦譎」第三十九話
それは、ドルススお兄様の告白から始まった。
「アエミリア、僕と結婚してくれないか?」
「え??ちょ、ドルスス様。それは唐突過ぎやしません?」
「そんなこと無いよ。僕は君のことが、会った時から好きだったんだ」
「まぁ!」
「そして何よりも、僕は君と一緒に生涯を通して、本気でこの活動をして行きたいんだ」
けれどアエミリアの顔には、曇りが覆い被さる。一つ気がかりな事、それは彼女の家柄とユリウス家との釣り合いだった。
「だけど、私なんかドルスス様に釣り合います?」
「十分釣り合うって!家柄だってそれほど気にすることはないさ。僕が何とかするよ」
「でも……」
「それに僕は思うんだ。僕と君はきっと、運命で結ばれた者同士なんだと思う」
「運命!」
彼女は運命という言葉に弱かった。それに、共に奉仕を続ける日々の中で、互いの心が寄り添っていくのも感じていたからだ。
「ふふ、分かりました。ドルスス様のお申し出は、謹んでお受けいたしますわ」
「えええ!!?本当に?!」
「はい!」
「やったー!ありがとう!アエミリア!」
孤児たちがいる中で、浮世離れした二人は抱きしめ合った。まるで嘘のような展開を経て、何と本当に結婚してしまったのである。密かにこの二人の結び付きを喜んだのは、母ウィプサニア一派を一掃を企むセイヤヌスとセクンドゥスだった。
「教祖、これでウィプサニア一派への、嫌疑捏造が容易になります」
「ああ、セクンドゥス。女に愛されたいドルススは、これで骨抜きに間違いない」
「そうですね、アエミリアは既に我々トゥクルカの意のまま」
「しかし、数奇な連中がいるものだな?奴隷以下の孤児たちに支援するなどと」
「どうせなら、部下に襲わせますか?」
「ああ。どうせ奴らも貴族連中には、その使い道は知られたくないはずだから、使い物にならん奴らに寄付しているのだろう」
「では、今夜にでも……」
「うむ」
しかし彼らの傲慢になった行動から、兄ドルススはキメラの存在の尻尾を掴んでしまう。
「どうしたの?ドルスス」
「いや、アエミリア。前々から不思議に思っていたんだけど、僕らの慈善活動を支援してくれる団体って、一体どんな組織なんだ?貴族の連中は関与していないんだろう?」
「ええ。彼らはアウグストゥス様の高貴な精神を崇拝し、少しでも恵まれない人々に寄付をしている人達なのよ」
「つまり、恩返しってこと?」
「そう」
「ひょっとして、元々は奴隷だったとか?」
「はっきり言って、ちゃんとした組織化されてるわけじゃないから、私も詳しく分からないんだ。私はある人を通して、彼らから寄付を募っているから」
「そうなんだ……」
「さぁドルスス。そろそろ寄付された食品がとどいてくる時間よ。今日も一緒に行きましょう!」
「そうだな!」
すると二人の住居ドムスに、慌てて門を叩く解放奴隷が訪ねてきた。息も荒く、緊急を要する感じで。
「ドルスス様!アエミリア様!大変申し訳ございません!実は本日分の寄付として用意した食品が、昨夜、待ち伏せされた怪しい連中に無理矢理に奪われてしまいました!」
「えええ?!!」
「何だって?!一体どんな奴らに奪われたんだ?!」
「それが、真夜中の出来事だったので……」
アエミリアは動揺した。しかし兄ドルススは、犯人達がクロアカの子供達に寄付する事を、事前に知っていたのではないかと予想。
「畜生!そいつらが待ち伏せしてたって事は、寄付されたものだって事前に知っていたんだ!」
「何か特徴とか分からないの?」
「目撃者の話では複数の黒衣を着ている連中としか」
「くっそう!」
「あ!ただ、奪われた現場には、こんな硬貨が落ちてました」
「硬貨?」
「ええ、これです!」
その解放奴隷が懐から取り出した物は、何と『キメラ』と刻まれていた黒い硬貨だった。
続く




