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紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
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第一章「新たな生活」第二話

「この、アンポンタン!」


ゴン!


「痛っ!」


母ウィプサニアのゲンコツは、昔もらってた次兄ドルススからのよりも痛かった。


「結婚前に大股開いて、大酒かっ食らうローマ女性がどこにいますか?!」

「つぅー。たまには息抜きもいいかな?って思っただけです」

「たまには??」

「……はい」

「嘘仰い!あんた毎晩飲みあるいてたんでしょ?」

「い、いいえ」

「親の目は誤魔化せても、あんたのお兄さんの目は誤魔化せないわよ」

「あああああ!ガイウス兄さんかぁ!」


後々第二代目ローマ皇帝になる、兄カリグラである。昔は寝小便兄カリグラとしょっちゅう喧嘩してたけど、最近は随分とあたしへのイタズラやチクリも、だいぶ影を潜めてきたと思ってた。どうやら、自分よりも先にあたしが結婚するんで、母にチクリいれたみたい。


「あのバカ兄貴め……」


ゴン!

間髪いれず母のゲンコツが頭を直撃する。


「イったーい!お母様~!そんなにゴンゴン叩かないでください。バカになったらどうするんですか?!」

「もうすでにあんたは十分にバカです。"兄貴"なんて下品な言葉遣いするんじゃありません」

「はーい」

「返事は伸ばさない!」

「はい」

「罰として食事抜き!」

「えええええ?!」


食べ盛りなのにである。

とにかくこの頃は、食事を減らされる事が多かった。後から知ったのだが、自分の娘を嫁に出すことは、最高の生贄を神に捧げるのと同じらしい。美の美しさはもちろん、素姓の品性も鍛錬させられると同時に、ローマ女性にとって一番大切な、美徳や道徳観というものもしっかり叩き込まれる。当然皇族は出来て当たり前、更に煌びやかに民衆を惹きつける存在感でもなければいけない。大体、このローマに結婚の神だけでも三つ以上あるのだから、遊びたい盛りの当時のあたしには、苦痛の何物でも無かった。


「イテテテテ……」

「アグリッピナ姉さん、せっかくお母様と仲良くなったのに、前とあんまり変わらないんじゃない?」


次女のドルシッラ。

あたしや末っ子のリウィッラと違って、お淑やかでウェスタの巫女並みの厳しさで生きてる。


「ドルシッラ、あんたそこにいたの?イチチチ……」

「お母様があんまりにも大きな声出してたから、何事かと思って来てみたらこれだもの」

「元はと言えば、あのバカ兄貴さえ、チクらなければ、こんな事にはならなかったのに~!」

「元はと言えば、アグリッピナ姉さんが抜け出して、お酒ばっかり飲んでたからでしょう?それに最近の姉さんは、本当に口悪いよ」

「そう?何か、民衆のラテン語って、どことなく格好良くない?」

「はぁー。それどころじゃないでしょう?今のお姉さんは」

「何ていうか、活気が違うってか」

「アグリッピナ姉さんって、本当に昔からミーハーだわ」


ドルシッラは飽きれて部屋の奥に行ってしまったが、あたしはそれでも構わず民衆のラテン語を練習していた。すると末妹のリウィッラが口を尖らせてやってきた。


「アグリッピナお姉ちゃん?」

「うん?おう!リウィッラかい?どうしたん?」

「何その喋り方。それよりも、さっきから、変なちっさい女の子が来てるんだけど」

「ちっさい女の子?」


ああ、メッサリナだ。

あいつわざわざ来たんだ。玄関まで迎えに行くと、仔猫のメッサリナが飛び込んできた。


「アグリッピナお姉ちゃん!」

「メッサリナ!よく来たね」


あたしは頭を撫でながらよちよちをしてあげる。あれ?リウィッラはどこに行ったんだ?いつもならあいつ、あたしと一緒にいるのに。


続く

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