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紺青のユリⅡ  作者: Josh Surface
妻女編 西暦28年 13歳
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第一章「新たな生活」第一話

第一部のあらすじ


"少女編"

勝気で男勝りで木登り大好きなアグリッピナ。最も幸せだった家族との団欒。しかし、大好きだった父親ゲルマニクスとの別離。たった一人だけローマに残り、祖母と曾祖母の大母后から多くを学び、祖母の奴隷パッラス、フェリックス、そしてアクィリアを通して階級社会の格差を知り、盟友セネカやブッルスと出会うことになります。そしてわずか三歳で、大好きだった父親の死を体験するのでした。


"乙女編"

寡婦となった母ウィプサニアを中心に、ローマは大きく揺れ動いていきます。同時にエトルリア密教トゥクルカの魔の手が、次第に身内へ見えざる脅威としてやってきます。小国の王子への初恋と奴隷パッラスとの口づけを経て、乙女へと成長するアグリッピナ。親戚や家族との亀裂。父親代わりだった叔父ドルスッスの突然死。最も仲が良かった長兄と次兄の対立。婚前での母との対立と狂奔を経て、アグリッピナはついに、結婚を決意するのでした。

「アグリッピナ様!アグリッピナ様?どちらにいっらしゃいますかー?」

「うん?あんたはアントニア様のところの奴隷パッラスか」

「はい。アグリッピナ様を見かけませんでしたか?」

「ああ、あの方なら、あそこの民衆食堂にいらっしゃいますよ」

「また、あの女は飲んでるのかよ……」


私はお酒が大好き。

どんな時だって、ローマ兵の猛者達と飲み比べしても、一度だって負けた事はない。その理由は結婚前、奴隷アクィリアの墓石が置いてある民衆食堂タヴェルナへ、久しぶりに訪れた時期にあった。


「あれれ???!アグリッピナ様じゃありませんか?!」

「ええ?!」

「ほら!八百屋ですよ!!昔、アグリッピナ様が大母后リウィア様の教室に通ってた頃、アントニア様の解放奴隷の料理人に野菜を売ってた……」

「あああ!シッラとリッラのお気に入りの八百屋さん!」

「おーい!みんな、アグリッピナ様がいらしたぞ!」

「本当だ!アグリッピナ様だ!」

「まぁ!とっても綺麗なお嬢ちゃんになられて」

「そりゃ、カエサル様の血を引いている方だもの」

「アウグストゥス様も、さぞお喜びで」


集合住宅インスラの一階。

そこには私がお気に入りの、民衆食堂タヴェルナがある。ここは父親ゲルマニクスの酒飲み友達で、番兵クッルスが生まれ育ったところ。幼い頃の私を覚えててくれた街のみんなが、結婚することになった私を祝ってお酒を出してくれたのだ。


「美味しい!なんて美味しいお酒なの」

「あれまーーー!アグリッピナ様、一気飲みされちゃったよ」

「だ、大丈夫ですか?アグリッピナ様」

「大丈夫、大丈夫。全然平気よ、クッルス」


実は結婚前のローマ女性は、色々と面倒くさい事を覚えなければいけない。毎日結婚式の礼儀作法とか、結婚した後の振舞い方とか。正直、堅苦しくて、息抜きが必要だった。クッルスには無理を言って、毎晩、母に隠れてここに連れてってもらってた。


「ダッハハハハ!!それは面白いわ!」

「でしょう?!アグリッピナ様。そしたらそいつ、牛糞に顔を突っ込んで」

「ダッハハハハ!きったな~い」


あたしだけテーブルに腰掛けて、身なりや行儀作法など気にせず、思いっきり大股開いて、街の人達を囲んでワイワイガヤガヤと、一緒にお酒を飲んで馬鹿話ばっかりしてた。


「イヤー、しっかしたんまげたな~。あのゲルマニクス様の長女が、こーんなにも大酒呑みだったとは」

「あらそう?八百屋。あんたはあたしの父と、そこにいるクッルスが明け方まで飲み歩いてるの、何回も見ているのでしょ?あたしはその父の娘よ。飲めないわけないじゃない」

「それはそうですが、まっさかアグリッピナ様がそんなにイケる口だったとは」

「あーら、あたしはこーんなに小さい頃から、大母后リウィア様の目を盗んで、ご所望のピッツィノ葡萄酒を、水で薄めないで飲んでたんだからね!」


するとみんなは、目をまん丸にして驚いた。中には顎が外れるくらい驚いてる人もいる。


「おい、みんな今の聞いたか?!ピッツィノ葡萄酒だってよ!」

「ひぇーーー!しかも水で薄めないで飲んでたなんて!!」

「大母后リウィア様ご所望のピッツィノ葡萄酒を?!そりゃまた、偉く高い葡萄酒だ!」

「え、そうなの?クッルス」

「ガッハハハハ、アグリッピナ様。あのピッツィノ葡萄酒十杯で、そこの八百屋の一ヶ月の売り上げが吹っ飛ぶんですから」

「うっそぉおお?!本当に?!!!」

「ええ。一滴だって飲んだことありゃぁしやせんよ。かぁ~!皇族の方々は、本当に羨ましいなぁ!」

「それならみんなの為に、今度ちょっとだけ"拝借"してこようかしら?」

「本当ですか?!そりゃまた嬉しいこって。ぜひともアグリッピナ様が"ご拝借"したピッツィノ葡萄酒を、あっしらに"ご杯杓"賜わりたいですな!」

「八百屋!あんた!うまい!ダッハハハハ!」


気のせいかな?

誰かが呼んでいる。


「アグリッピナ様!」

「あれ?パッラス?どうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょう?!もう!女性がそんな大股開いて、しかもそんなにお酒飲んで」

「いいじゃない、あたしもう大人のローマ女性なんだから。お酒くらい飲めないと」

「いいんですか?ウィプサニア様は、今、カンカンに怒ってますよ」


ゲゲっ!

母に暴露ちゃったわけ??どうしよう?!


続く

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