転生者は蜂 ~異世界転生者のための郵便屋、はじめました~
異世界に転生したハチ(蜂、死者のこと)。
死者との手紙のやりとりというエジプト的なやつ。
「本当にここでいいの?」
僕はテンシに聞いてみる。
隣でフワフワと飛んでいるテンシは笑いながら、
「おうっ、オレの勘が告げる!」
「また勘」
「だが、失敗したことはなかっただろう!? オレは勘の妖精、だから、今のオマエもいる」
「…まあ、そうだけど」
そして、見上げる。
「大きなお城」
「だなっ」
僕とテンシに気付いた門番は真面目な表情をしながら、
「何者だ。
王様に用があるのか? 小さくて変な虫も連れて」
「虫、虫だってよ、ミツ!」
楽しそうに笑う妖精を無視し、
「これを、江尻新さんに渡して下さい」
カバンから、1通の手紙を取り出す。
「エジリ、アラタ?
そんな奴、この城にはいない」
怪訝そうにしながら、門番は言ってくる。
「青柳さんから江尻新さんへの手紙、と言ったらわかります。
ね、テンシ」
「虫だから無視」
「アオヤナギ? エジリアラタ?
ふんっ。貴様の真面目な顔からして、爆弾ではないようだし、わかった、言ってやろう、よくわからんが」
バッ、と門番は僕の手から手紙を取る。
太陽に当て、中身を見ようとしている門番に、僕は頭を下げ、
「また3日後に来ます。
お礼は甘いものをお願いします」
『勉強について来れない奴はさっさと退学しろ』
「はあ」
オレはため息を吐く。
「王族の第七王子に転生したのに、何もできない」
ボソリ、と。
『何か趣味を見つけた方がいいよ、勉強のためだけに生きるなんて、ぼくには間違っているような気がするよ』
「全部、あいつの言う通りだった。
はあ」
また、ため息。
オレは、自殺をし、異世界に転生した。
第七王子、誰にも期待されず、自由に暮らせる。
というのに、産まれてから13年間、何もできずにいる。
魔法は使えない、いや、もしかしたら使えるかもしれない。
けど、試したことはない。
「また、中途半端な天才だったら嫌だし」
前世では、中途半端な天才だった。
だから、16歳で自殺した。自殺するしかなかった。
転生してからずっと、あいつの顔と言葉を思い出す。
「…何もする気が起きない」
グウ、と腹が鳴る。
「何か食べよ」
部屋から出ることにした。
そして、
「青柳から、手紙。
なぜ、異世界から手紙が」
『エジリ、だって? アオヤナギから?』『はい、王様』『いや、誰かな、聞いたことないよ』『イタズラでしょうか』『まあ、怖がられる王じゃなくて、いいじゃないか。はは、参ったな』『また3日後に来るらしいです』『ううん、参った』
聞こえてきた会話に、オレはドキリ、とした。
上手くごまかし、手紙をもらった。
エジリ、江尻は、オレの前世の名前。
青柳は、アイツの名前。
転生してからずっと、頭から離れてくれない、アイツの。
読みたい。アイツが何をこの手紙に書いているのか。自殺して、転生したオレに、何を言いたいのか。
読みたい、とは思う。
イタズラではないだろう、エジリなんて日本人の名前、この世界の人間に思い付ける訳がない。
ドキドキ、心臓が鳴り止まない。
深呼吸。
オレは、手紙を読む。
『拝啓、転生した江尻君へ。
この手紙を読んでいるのなら、君は異世界に転生したということだろう。第二の人生、おめでとう。
ぼくを覚えているかな、いや、ぼくは江尻君に嫌われていたから、忘れたか。ちょっと寂しいな。
…。
さて、何を書いたらいいものか。異世界転生したハチ(死者をハチって言うらしい、漢字難しいなぁ)に手紙を届ける郵便屋さんがいる、て耳にして、想いを伝えたいって思って書いちゃったんだけど。気持ちを伝えるのって難しいね。
ぼくの世界にいたとき、つまり君の前世は、勉強に支配された人生だった。勉強が全てだったんじゃないのかな? だからレベルの高い高校に進み、幼なじみのぼくたちは別々の高校に行ったんだけど。
転生した君は、今何をしているだろう。
ぼくは、江尻君が、何にも支配されていない、自由な第七王子の人生を楽しんでいたら、嬉しいし、安心するな。
返事はないんだろうな。楽しんでいたら、本当にそれでいいよ。じゃあね』
読んでいたら雨が降ってきた。
室内だから、雨なんて降る訳ないのに。
会いたい、会って、覚えていること、君の言うことを少しは聞けばよかったとずっと後悔していた、それを青柳君に伝えたい。
その想いが、手紙を濡らしていく。
盛大に手紙を濡らす。
もう会えない、オレは第七王子に異世界転生したから。その事実で、余計に濡れる。
降り止む。
「たまには、街に出て遊んでみるか」
「…まさか、本当に江尻君から来るなんて」
今朝、ポストを開けたら手紙が入っていた。
イタズラではない、だって、皆はぼく、青柳は天才だった江尻新君に嫌われていた、と思っているのだから。
『は? オレは勉強ができるんだよ、趣味なんか要らない。だって勉強ができるから』
冷たい目で、いつも言ってきた。
『高校? あそこ、県一の高校に行く。いや、ババアジジイには金がないからさ、東京の高校には行けないんだよね。けどまあ? オレ、勉強できるから。余裕で行ける』
自信満々にして。
けど、高校に行き、数週間後、江尻君が高校から飛びおりたことを知った。
ぼくは、江尻君に嫌われていたけど、自殺させてしまったのはぼくのせいだ、としか思えなくて。
ぼくが、もっと頑張っていれば、江尻君は、何か趣味を見つけたんじゃないかと。
勉強についていけなくなっても、その趣味で、死ぬことはなかったんじゃないか、と。
趣味があれば、好きなことがあれば、死ににくくなるから。
勇気を出して、手紙を読む。
紙の質が少し悪いような気がするけど、異世界だから、なんだろう。
『拝啓、青柳君へ。
手紙、ありがとう。返事、読んでくれているかな、異世界から手紙、とか、なんか不思議な感じで。
オレは、勉強ができるって思っていた。けど、高校に入ってすぐに、ついていけなくなった。
ついていけなくなって、居場所もなくなって、自殺するしかなくなってしまった。
死ぬとき、そして、異世界に第七王子として転生してからずっと、君のことが頭から離れなかった。
確かに、そっちの世界にいたときは、青柳君のことが嫌いだった、うざいって思っていた。
だけど、今は違う。君の言う通り、何か趣味を見つけていたら、自殺することはなかったんじゃって思う。
後悔していた。
でも、君の手紙を読んで、折角自由な第七王子に転生したんだし、趣味とか見つけて、遊ぼうって思う。
手紙、ありがとう。やりとりはこれで終わらないといけないって郵便屋に言われたけど、青柳君のことはずっと大切にするよ
本当に、ありがとう』
息を吐き、空を見上げる。
同じ空を、君は見ていない。
君は異世界に転生したから。
それも、なんだか寂しい。
でも、生きていることがわかって、ホッとしているし、嬉しくもある。
「ありがとう、郵便屋さん」
「もぐもぐ」
「オイッ、何だよそれ、美味そうだな。全部くれよ」
「ごくん。
やだ」
建物の中、ソファーに座りながら、手紙のお礼にもらったお菓子を食べている。テンシは隣でフワフワとしている、相変わらず。
「まんじゅうか?」
「異世界風大福」
「やっぱ全部くれよ」
「やだ」
「オレの勘がなかったら何もできないくせに」
「ぐ」
「違うかよ、オイ」
「そりゃ、そうだけど」
「ということで、全部くれ!」
「仕方ないなぁ」
「オッ!」
「はい、はんぶんこ」
「ありがてえ。
うんうんうん、美味そうだ。
って、1ミリくらいしかねえっ!」
「ノリツッコミだね」
「これが相棒に対する仕打ち、悲しくなるぜ」
「ウマウマ」
ありがとうございました!




