ホームパーティー
水上からだった、ゆっくりと耳に当てると「坂本聞こえるか?」と大きな声が響く。「聞こえているよ、相変わらず大きな声だな少し押さえてしゃべれよ」と返す。
「悪い悪い、でさ今度の土日開いてるか?うちのキッチンでおいしいものを作ってくれないか?食材はこちらで用意しても良いから」と怒涛のごとく喋る。
「お前のマンション借りているだろ、キッチンの写真をインスタに上げたら今日デートした娘が見てて実際の家を見てみたいって言ってきてさ」と続ける。
「は~ぁ、それって家にまで来て親密になりたいだけだろ」とため息交じりに坂本が答えると「それがわかっているから、大勢でパーティーしようって事にしたんだ。で俺、料理出来ないしキッチンはお前のこだわりだからメインはお前に作ってもらおうかなと思って」と言う。「都合の良い事言って他に誰がくるんだよ」
「会社の仲間数人とそれ以外に光明寺と石塚、お前も誰か連れてきても良いぞ」
「いないよ」と一言。
「今付き合っていた娘がいたんじゃないか?」とたたみかけてくる。
別れる事にしたと言いそうになってやめた。「いや、料理だけ作りに行く」とだけ答えた。「じゃあ今度の土曜日な。みんなが集まるのが午後の6時~7時にするから、作る時間を考えて来てよ、それと何を用意しておけば良いか教えてくれ」
「後でラインする」と言って電話を切った。
相変わらずだなと思いつつちょっと楽しい気分になりすこしだけ部屋が明るくなった気がした。
次の土曜日午後4時頃、剛がキッチンで料理を作っている。ピンポーンとエントランスからのベルが鳴る。水上がインターホン越しに何か言っている。
しばらくして、玄関から聞きなれた声がした。石塚と光明寺だった。
「相変わらず早いな」と剛がぼそっと言う。「良いワインを持って来たのにそのセリフは無いでしょ。早めに栓を開けて少し開かせないといけないからちょっと早めに来ただけ」と言い返してきたのは石塚である。
それ以外にも早く来る訳は分かっているがそこには触れない坂本だった。
「で今回はどんな感じで対応するつもり?」と光明寺が水上に問う。
「今回は、僕が光明寺に惚れていてアタックしている感じで今日あたり少し良い感じになる様子を見せたいと思うんだけど、どう?」と水上。
「陳腐な案ね、でもわかりやすくて良いかもね」と光明寺。
「ああ、また別れるために利用されるんだ」と石塚があきれた様につぶやく。
「しょうがないじゃないか、何となく別れようという感じを出しても相手が気が付いていないんだから」とふてくされた様に言う。
「気づいていないんじゃなくて、気づいても押して来てるの。優良物件なんだから」と石塚がたたみ込む。さらに「で、優秀で美人な静香がいる事をわからせて諦めさせるという事よね」と光明寺の方を見て頷く。「静香も何度も弘明くんに利用されていたらだめだからね」とくぎを刺す。「まあ、仕事のコネももらえるし後でご飯もおごってもらう予定だからまあ良いかと思っていますよ」と軽く答える。
「後で食事をおごってもらえるなんて本当にデートしているみたいじゃない」と目をぱちくりする。「そのくらいしていた方が相手もあきらめるでしょ」と静香が言うと「その内痛い目に合うかもよ」と石塚が冗談を飛ばす。
その間も黙って料理を進めている坂本であった。「今日は、グーラッシュとストゥンプをメインにしてみた。最初はグーラッシュでなくてカルボネート・フラマンドにしようかと思ったけどビール煮だからちょっとどうかなと思って、で今回はパプリカ風味で作りました。その他としてはおいしいパンを光明寺が買ってきた?買ってきたよね?」と静香の方を見ると「当然、昨日連絡来たからあわてたけどゲットして来ました」と自慢げな態度。「まあ、後は水上がチーズ等を用意しているからこれで完了かな」と坂上が3人を見て確認するように言った。「チーズは大丈夫」と水上。「メインは2つか?」と物足りないかの様に言ったがこの二つで結構お腹いっぱいになるぞと坂本から言われて納得。
予定通り6時頃に完成、ワインの栓も開いており準備が進む中、水上が今デートしているという女性が到着。玄関を入るなり「わぁ、すごい」と驚きの声をあげながら入って来た。水上が「僕が作ったんじゃなく友達の坂本が作ったから間違えない様にね」と一言「坂本です、初めまして」と軽く頭を下げながら挨拶する。
「井上 薫と言います。初めまして」と挨拶を返してきた。あ、まともな感じかなと思った3人。水上が光明寺さんと石塚さんを紹介する。
「はじめまして、今日は楽しみましょう」と光明寺。「食事もワインもおいしいと思いますよ」と石塚。挨拶の後一瞬だけ間があり、「初めまして、あの、お二人は」と探る様な感じで質問してきた。「坂上さんと大学時代からの友達です」と光明寺がさりげなく答えるが相手は納得していない感じである。そうこうするうちに水上の会社の同僚が3人到着して8人ほどのパーティーが始まった。井上も会社の同僚の知った顔が参加して若干緊張感がほぐれて来た様である。ただ、彼女は今日のパーティーで水上の彼女であることをはっきりさせたいと考えていた。しかし光明寺や石塚(石塚も可愛い系でモテる)がいて思わぬ状況となってあせっていた。そんな中、計画通り水上が光明寺にあからさまに声をかけているのを見て井上がさらに焦り出した。石塚と坂本がはやし立てているせいで会社の同僚も水上と光明寺が付き合っている様な雰囲気が広まり始めた。井上が水上に何か話そうとすると坂本や石塚が声をかけてくるし、さらに会社の同僚も色々と声をかける。そんな状況が続いていた。あっと言う間に楽しいホームパーティーの時間が過ぎて行った。井上は結局そのまま何も出来ずにパーティーは終わりになり、みんなが帰り始めたが井上はなかなか帰ろうとしなかった。坂本が「井上さんそろそろ帰りませんか、遅くなったから僕が送って行きますよ」と声をかけ彼女が断る隙を与えない感じで一緒にマンションを出た。歩きながら井上がうらめしそうに「光明寺さんって、水上さんと付き合っているんですか?」とドストライクに聞いてきた。こんな風にストレートに聞いてくるのもある意味気持ちが良いなと思いながら「水上がアプローチしているのは確かかもね」と今日の打ち合わせの内容に沿って答える。「えー、だって水上さん私とデートもしたのに…… 彼女は私のはずだと思ってました」とこれまたストレートにおっしゃる。「あいつ、プレイボーイだからしょうがないよ。君とのデートも1回か2回でしょ」とたたみかける。「まあ、そうですけど……」とちょっと声が小さくなる。「もっと、いい男を探した方がいいよ、俺みたいに」と冗談風に言うと。「坂本さんも顔はいいんだけど、お仕事が……」と少しためらいながら言うと
「ああ、マンションの管理人。ダメ?」とにこやかに言うと「だめじゃ、ないんですけど、私とはちょっと……」と苦笑い。「やっぱ、ダメか」と明るく言う。ちょうど駅に着いたので改札口で「じゃここで」と言うと井上も「ハイ、ありがとうございました」と頭を下げて、そのまま振り返り改札口に吸い込まれて行った。挨拶できるちゃんとした家の子なんだなと思いながら坂本は振り向いてもと来た道をスタスタと戻った。玄関を入るなり「ただいまぁ、ワイン残ってる?」とみんなに声をかける。「別のをもう一本用意していたから、開けたばかり」石塚がワイングラスを渡す。「サンキュ」と注がれたワインを一口飲む「さっきのもおいしいかったけど、これはまた特別においしいな」と一言。水上が「どうだった」と聞く「まあ、分かったんじゃないか?一応、水上はプレイボーイと言う事にしておいた」坂本がワインを味わいながら答える。「プレイボーイでもないんだけどな?」と言うと光明寺と石塚から女性を次々に変えてデートするのはプレイボーイでしょと突っ込まれる。
「だって、いい子探しているんだもん」と幼児言葉でしゃべる。
「まあ俺はダメだって言ってたから、彼女はやっぱり人柄だけで選んでいるわけじゃなさそうだね」と坂本。「あーあ、もったいないね、剛くんがいくら稼いでいるのか知ったら手のひら返すかも」と光明寺。「だから、ああいう子はいい男を捕まえられないのよ」と石塚がワインを一口。「君たちはどうなのさ」と水上が言うと「近くにいい男がいると中々他の男が寄ってこないんだわ、これが」と光明寺。「一応良い男と言う事は認めるんだ」と坂本。「そうね、いい男であることは確かかも」と石塚。4人の目が合い、同時に笑い出した。そのままワインを味わう時間が過ぎていった。




