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第9話:『監察官は小学生!? レオンの屈辱と、店長の再マッチョ。』

「……おい、密航者。いい加減にその見苦しい『脂肪の擬態』を脱いだらどうだ?」


山から強制的に連れ戻された『マッスルマート』の店内。レオンはカウンターの上にチョコンと座り、だるんだるんモードの店長・松井を冷ややかに見下ろした。


店長は、額から滝のような汗を流しながら、レジ打ちの手を止めていた。


「れ、レオン監察官……。私はただ、この時代の穏やかな揚げ物の香りに包まれて、静かに余生を過ごしたいだけで……」


「黙れ。時空警察の精鋭部隊が現代のコンビニで『唐揚げ』を揚げていい理由にはならない。……来い。未来の法廷でじっくり話を聞いてやる」


レオンがパチンと指を鳴らすと、彼の周囲の空間が歪み、高密度の重力波が店内のポテトチップスを次々と破裂させた。


「……ふぅ。やむを得ませんね」


店長の目が、一瞬で鋭い「戦士の瞳」へと変わる。


――ズ、ズズズズッ!!


過去最大級の筋肉圧縮音が響き渡り、店長の制服が木っ端微塵に弾け飛んだ。現れたのは、もはや人間というより「筋肉の重戦車」。全盛期を超えた、


**【オーバー・マッチョモード】**の松井店長だ。


「監察官……。筋肉の前では、階級など無意味だということを思い出させてあげましょう!」


店長が時速200キロを超える正拳突きを放つ。


衝撃波でコンビニの自動ドアが吹き飛ぶが、レオンは微動だにしない。


「……筋肉? ああ、200年前に流行った骨董品のことか」


レオンが軽く手を振ると、店長の拳の目の前に、目に見えないほどの極小ブラックホール(局所重力偏位)が発生した。



ドォォォォォン!!



店長の渾身の一撃が、レオンの指先一つに触れることなく霧散する。


それどころか、店長の巨大な肉体が、レオンが放った「未来の物理法則」によって、赤ん坊のように軽々と宙に浮き上がった。


「なっ……な、なんだこのパワーは……! 重力の質が……地球のそれではない……!?」


「当たり前だ。僕の体には、最新の『中性子星コア』が埋め込まれている。……店長、君の筋肉が時空を割るというなら、僕は時空そのものを握りつぶしてあげるよ」


可愛い顔で、店長を圧倒するレオン。


その実力は、あの大家さんですら「……ぬっ、あの子、広背筋を使っていないのに空を飛んでいる……新種の筋肉か!?」と戦慄するほどだった。


その光景を、レジの隅で耳栓をつけたまま眺めていたカズマは、相変わらずふわふわと笑っていた。


「あはは……すごいなぁ……店長と妖精さんがダンスしてる……。店長、宙返り上手だなぁ……。世界って、平和だなぁ……」


『ニャ、ニャアァァァッ!!(カズマ、逃げろ!! ダンスじゃねぇ、核融合一歩手前の超次元バトルだぞ!!)』


猫が必死に叫ぶ中、レオンは店長を指先で弄びながら、背後の白雪を睨んだ。


「白雪! 見てないで手伝え! この密航者の『筋肉エネルギー』を回収するぞ!」


「え~、でも今の店長さん、いい表情データしてるわよ? もう少し泳がせましょうよ」


コンビニの日常は、未来警察の内輪揉めによって、ついに物理的に崩壊しようとしていた。



ドォォォォン……!



店内の棚が重力でひしゃげる音が止まる。


宙に浮いていた店長がズシンと床に落ち、レオンの視界がカズマをとらえ、凄まじい速度で空中で反転。


着地と同時に、カズマの目の前まで滑り込みました。


「おにぃさん、初めまして! 僕、レオンって言います! 白雪おねえちゃんが、いつもお世話になっていますっ!」


ついさっきまで中性子星がどうのと言っていた冷徹な瞳はどこへ行ったのか。


レオンは頬を赤らめ、潤んだ瞳でカズマのズボンの裾をギュッと掴みました。


「ええ~……? 妖精さんが挨拶してくれたぁ……。お姉ちゃんって……天女様のことかなぁ……? うん、よろしくねぇ……」


カズマはパッシブモード継続中。


レオンの頭を「よしよし」と撫で始めました。


それを見た瞬間、背後でガントレットを構えていた白雪さんの探知機が、悲鳴を上げ始めました。



 ――ピピピピピ! ビーーーーーー!!



【警告:対象の感情指数が測定不能です。偽装レベル:神。精神汚染の恐れあり】


「……ちょっと、レオン君!? あんた、監察官としての尊厳を時空の彼方に捨ててきたの!? 何その『いい子ちゃんモード』! 吐き気がするわよ!」


「うるさいな、おねえちゃん! 僕は佐藤さんの『善良な隣人の弟』として、この時代の生活を視察エンジョイすることに決めたんだ! 文句ある!?」


レオンはカズマに見えない角度で、白雪にだけ「殺すぞ」と言わんばかりの鋭い視線を送る。


どうやら彼は、この町で最も「無害で便利な拠点(カズマの部屋)」を確保するために、カズマをターゲットにしたようです。


『……おい。嘘だろ。このガキ、カズマの「お人好し」を利用して、アパートに居座る気か!?』


猫――未来の俺は、肉まんケースの上で毛を逆立てました。


店長は、床に倒れたまま「……今のレオン監察官の『筋肉の切り替え(表情筋)』……あれこそが究極の柔軟性……」と、あらぬ方向に感動して涙を流しています。


そして、そのカオスを外から眺めていた大家の轟さんが、拳を握りしめて入って来た。


「ヌンッ! 素晴らしい! 少年、貴様、今この瞬間に『甘えという名の精神的広背筋』を使いこなしたな! その愛嬌、まさに筋肉の緩和リラックス! 佐藤、その子を連れて行け! 今日から貴様の部屋は『少年筋肉育成所』だ!」


「わぁ~……育成所~……。いいよぉ、みんなで寝ようねぇ……」


カズマの快諾により、レオンの「佐藤家・居候作戦」が成立してしまいました。


猫カズマの安眠と、耳栓奪還計画は、この「ぶりっ子監察官」の乱入により、さらに遠のいていく。


レオンが「佐藤レオン」として居候を始めてから一週間。


カズマは生活費(とレオンの高級ゼリー代)を稼ぐため、深夜だけでなく昼間のシフトにも入るようになっていた。


昼下がりの201号室。


そこには、見るも無惨な「未来の敗北者たち」の姿があった。


「あー、この時代のポテトチップス、添加物の味がして最高……。未来の『栄養カプセル』なんてクソくらえだよ……」


レオンは、カズマのベッドの上で腹を出して寝転び、ホログラムで未来のアニメを垂れ流しながらスナック菓子を貪っている。


監察官の威厳は、現代のジャンクフードによって完全に分解されていた。


『……お前、よくそれで監察官なんて名乗れるな。……まあ、俺も人のことは言えねぇが』


猫――未来の俺も、レオンの横で日向ぼっこをしながら、白雪からもらった「極楽おやつ」をポリポリと食べていた。


二人(一人と一匹)は、カズマが汗水垂らして働いている間、この世の春を謳歌していたのだ。


しかし、その平穏は「ヌンッ!」という、壁を貫通するような気合の声で破られた。



バガァァァン!!



ドアを蹴破って(鍵はかかっていたはずだが、筋肉で概念を突破して)入ってきたのは、汗だくのタンクトップ姿の大家・轟さんだった。


「佐藤が昼夜を問わず筋肉を酷使しているというのに、居候の少年と飼い猫がこの体たらく……! 貴様たちの広背筋が、怠惰で泣いているぞ!!」


「げっ、筋肉おじさん……! 僕は今、重要任務(アニメ鑑賞)の最中……」


『(ヤバい、逃げ……)』


「問答無用ッ!!」


大家が太い腕を振り回すと、二人の腰に「ガチリ」と、鈍い銀色の光を放つベルトが装着された。

「……えっ? 何これ、外れないんだけど!? 僕の重力制御ガジェットでも干渉できない……!?」


レオンが顔を青くしてベルトを引っ張るが、びくともしない。


それは、どこから入手したのか、あるいは大家が筋肉で錬成したのか、**『時空固定式・強制労働ベルト』**だった。


「それは私の家系に伝わる、魂の結束バインドベルトだ! 装着者の『怠惰心』を感知すると、自動的に腹筋を1000回分収縮させる! さあ、佐藤を助けにマッスルマートへ行け! 働かざる者、筋肉食うべからずだ!!」


『(な、なんだこの技術は……!? 未来の物理拘束具より質が悪いぞ! 腹筋が……勝手に千切れるように動き出す……ッ!)』


「あわわわわ! お腹が、お腹が勝手にシックスパックになっちゃうぅぅ!!」


レオンと猫は、強制的に体を「労働モード」に固定され、転がるように部屋を追い出された。


大家の技術は、もはや未来警察のテクノロジーすら超越していた。


マッスルマートの昼シフト。  パッシブモードからようやく覚め、現実の疲れに肩を落としていたカズマの前に、奇怪な光景が現れた。


「い、いらっしゃいませぇ……(腹筋ガクガク)」


レオンが、白目を剥きながら高速で床の雑巾がけをしている。


その動きはもはや残像だ。


そしてその横では、猫がレジカウンターの下で「高速腹筋」をしながら、尻尾でカゴの整理をしていた。


「えっ、レオン君!? 猫ちゃん!? どうしたの、そのキレキレの動き……」


「……お兄さん……助けて……。おじさんのベルトが……止まらないんだ……ッ!」


レオンの可愛い顔が、腹筋の過負荷で一瞬だけ「本来の冷徹な監察官(の苦悶の表情)」に戻る。


そこへ、奥のバックヤードから、これまた「自分を追い込みすぎて全身が発光している」ハスハラが出てきた。


「佐藤先輩! 見てください! 新しく入った少年のこの動き! これこそが、僕が求めていた『義務(仕事)への没入』です!!」


ハスハラもレオンに触発され、二人は競い合うように店内の全商品をミリ単位で整列させ始めた。


「……。……。みんな、頑張ってるなぁ……」


カズマは、首から下げた『スルー・パッシブ』にそっと手を触れた。


今の自分には、これを使う資格も、必要もないのかもしれない。


周りがあまりに全力すぎて、自分が普通に立っているだけで「スルー」されているような気分になってきたからだ。


「あら、みんな精が出るわね。これ、お裾分けの『疲労回復(という名の、ドーピング)ドリンク』よ」


白雪さんが、またしても怪しい緑色の液体を持って現れる。


大家のベルト、店長の筋肉、白雪のドリンク。


それらに翻弄される未来の監察官と、未来の俺。


僕はそれらを眺めながら、少しだけ成長した(ような気がする)精神で、レジ袋を丁寧に広げるのだった。




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