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第2部35話:『心の戦い、そして白い少女の介入』

闇が爆ぜ、 二人のカズマが対峙した。


未来カズマの身体は黒い光に包まれ、 その輪郭は“影”のように揺らいでいる。


「さあ、始めようか。 お前が逃げ続けてきた“本当の戦い”を」


カズマは深く息を吸い、 拳を握りしめた。


「……僕は……逃げない。 ここで終わらせる」


未来カズマは笑った。


「終わらせる? 違うだろ。 “始める”んだよ。 お前がずっと避けてきた、 “自分自身との戦い”を」


未来カズマが指を鳴らすと、 闇の中に“幻影”が広がった。


ブラック企業での怒号。 深夜の蛍光灯の唸り。 誰にも届かなかった助けの声。 机の下で震えていた少年の自分。


それらが、 カズマの周囲を取り囲むように浮かび上がる。


「見ろよ。 これが“お前の心”だ。 お前がスルーしてきた痛みの残骸だ」


カズマは歯を食いしばった。


「……わかってる……! でも、僕は――」


未来カズマが遮る。


「わかってない。 お前は“痛みを見ない”ことで生き延びた。 だがそのせいで、 “強さ”も“弱さ”も曖昧になった」


幻影の少年が、 カズマに向かって泣きながら叫んだ。


「どうして僕を見てくれなかったの……?」


カズマの胸が締めつけられる。


「……僕は……守りたかったんだ…… 見たら……壊れそうで……」


未来カズマは冷たく言い放つ。


「壊れたのは“俺”だよ。 お前が見なかったせいでな」


未来カズマの影が揺れ、 黒い波動がカズマに襲いかかる。


それは“スルー能力の負の側面”。 世界の情報を遮断するはずの力が、 逆に“全情報を叩きつけてくる”暴走状態。


怒号。 嘲笑。 悪意。 善意。 期待。 失望。


すべてが一度に押し寄せ、 カズマの脳を焼こうとする。


「ぐっ……あああああああああ!!」


未来カズマは無慈悲に言う。


「耐えられないだろ? これが“スルーを失った未来”だ」


カズマは膝をつきながら叫んだ。


「……僕は……こんな未来……選ばない……!」


未来カズマは影の刃を構えた。


「なら――証明しろ!!」


闇が裂けた。


白い光が差し込み、 その中心に“白い少女”が立っていた。


彼女の表情は、 これまで見せたことのないほど険しい。


「……やめて。 あなた……暴走してる」


未来カズマは振り返り、 嘲笑を浮かべた。


「暴走? 違うな。 “本来の俺”に戻っただけだ」


少女は首を振る。


「違う。 あなたは“残骸”じゃない。 カズマが選ばなかった未来の“痛み”の集合体。 でも……こんな破壊衝

動は、あなたの本質じゃない」


未来カズマの影が揺れた。


「黙れ。 お前は“優しい未来”の象徴だろ。 俺の邪魔をするな」


少女は一歩前に出た。


「邪魔する。 だって―― “彼”はまだ壊れてない」


未来カズマの瞳が揺れた。


「……何?」


少女はカズマの方を見つめ、 静かに言った。


「カズマ。 あなたはまだ“選べる”。 逃げる未来でも、壊れる未来でもない。 “自分を受け入れる未来”を」


未来カズマが叫んだ。


「甘いんだよ!! そんな未来、存在しない!!」


少女は振り返り、 未来カズマをまっすぐ見据えた。


「存在するよ。 だって―― “彼がまだ戦ってる”」


未来カズマは息を呑んだ。


カズマはゆっくりと立ち上がる。


「……僕は……逃げない。 未来の僕も、過去の僕も…… 全部、僕だ。 だから―― 受け入れる」


未来カズマの影が震えた。


「……やめろ…… そんなことを言われたら…… 俺は……!」


少女は静かに告げた。


「あなたは“消える”んじゃない。 “統合される”の。 カズマの一部として―― 未来へ進むために」


未来カズマは叫んだ。


「嫌だ……! 俺は……俺は……!」


カズマは手を伸ばした。


「……一緒に行こう。 未来の僕」


未来カズマの影が、 涙のように光をこぼした。


カズマが手を伸ばした瞬間―― 未来カズマの影が、爆発するように膨れ上がった。


「……ふざけるな……! 統合なんて……消滅と同じだ……!!」


影が咆哮し、 精神世界全体が震えた。


白い少女が叫ぶ。


「やめて! その力は……あなた自身を壊す!!」


未来カズマは振り返り、 怒りと悲しみが混ざった声で叫んだ。


「壊れてるのは最初からだ!! お前らが“未来”を選んだせいで…… 俺は置き去りにされたんだよ!!」


影が刃となり、 カズマへ襲いかかる。


カズマは踏みとどまり、 拳を握りしめた。


「……僕は……お前を捨てたんじゃない!! ただ……見ないふりをしてただけだ!! だから――今、向き合

う!!」


未来カズマの影が叫ぶ。


「向き合う? そんな言葉で……俺が救われると思うな!!」


黒い波動がカズマを飲み込もうとした瞬間――

白い少女が間に割って入った。


少女の身体が光に包まれ、 その輪郭が変わっていく。


白いワンピースが揺れ、 瞳が涙で滲む。


「……パパ……」


未来カズマの動きが止まった。


「……パパ……私、待ってるよ…… 別の世界で……ずっと…… パパが迎えに来てくれるって……信じてた……」


未来カズマの影が震えた。


「……やめろ…… その呼び方を……やめろ……」


少女は涙をこぼしながら言った。


「私は……“別の未来のあなた”の子供。 あなたが……幸せになれた未来の……娘」


未来カズマの瞳が揺れた。


「……そんな未来……俺には……なかった……」


少女は首を振る。


「あるよ。 だって私は……“あなたが選ばなかった未来”から来たんだもん。 パパは……優しくて…… ちょっ

と抜けてて…… でも、誰よりも強かった」


未来カズマの影が崩れ始める。


「……俺は……そんな未来……知らない……」


少女はそっと未来カズマの手を取った。


「だから言ったでしょ。 “パパ、絶対迎えに来てね。忘れないで”って」


未来カズマの影が涙のように光を落とした。


「……忘れてた…… 全部……忘れてた…… 痛みしか……残ってなかった……」


少女は微笑んだ。


「大丈夫。 痛みも、後悔も、全部…… “パパの一部”だよ」


未来カズマは崩れ落ちるように膝をついた。


「……俺は……どうすれば……」


少女はカズマの方を見た。


「パパを……助けてあげて。 あなたなら……できる」


カズマは頷き、 未来カズマに手を伸ばした。


「……一緒に帰ろう。 僕の未来も……お前の未来も…… 全部まとめて、背負っていく」


未来カズマは震える手で、 その手を掴んだ。


「……頼む…… 俺を……忘れないでくれ……」


カズマは強く握り返した。


「忘れない。 お前は……僕だ」


光が爆発した。


白雪のガントレットが悲鳴のような音を上げた。


「精神世界の崩壊が止まった……! カズマさんが……“何か”を掴んだ……!」


レオンが涙を拭いながら叫ぶ。


「おにぃさん……帰ってきて……!」


セツナは静かに頷いた。


「……来る。……カズマ……戻る。」


白雪は震える声で言った。


「強制介入は……もう必要ない…… 彼が……自分で帰ってくる……!」


光が収束し、 カズマはゆっくりと目を開けた。


マッスルマートの天井。 白雪の泣きそうな顔。 レオンの涙。 セツナの安堵。


「……あ……戻った……?」


白雪が叫んだ。


「佐藤さん!!」


レオンが飛びつく。


「おにぃさん!!」


セツナは小さく微笑んだ。


「……おかえり。」


カズマはゆっくりと息を吐いた。


「……ただいま。」


その時―― 心の奥で、少女の声が響いた。


『パパ……ありがとう。 私、ちゃんと待ってるから。 いつか……会いに来てね』


カズマは目を閉じ、 静かに微笑んだ。


「……うん。 忘れないよ。」


陽だまり町の朝が、 いつもより少しだけ優しく感じられた。



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