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第11話:『白雪、帰還まであと三週間。レオンの「おにぃさん独占計画」。』

第11話:『白雪、帰還まであと三週間。レオンの「おにぃさん独占計画」。』


白雪さんが未来へと連行されてから、アパート201号室は奇妙な「未来化」を遂げていた。


レオンは、カズマがバイトに行っている間に、四次元ポケットのようなオーバーオールから次々と「未来の便利グッズ」を取り出し、部屋を魔改造し始めたのだ。


「おにぃさん、おかえり! 疲れてるでしょ? はい、これ。**『全自動・疲労吸引ソファ』**だよ!」


カズマが座った瞬間、ソファから触手のようなマッサージアームが伸び、全身のツボをマッハの速度で指圧し始める。


「あ、あああ……すごい……。骨が、骨が溶けるような感覚だよ、レオン君……」


『……おい。そのソファ、危険だぞ。……そんなのでカズマを骨抜きにして、この部屋をどうするつもりだ?』


猫――未来の俺は、バッテリー切れでただのプラスチック片と化した『スルー・パッシブ』を恨めしそうに見つめながら、レオンを問い詰めた。


「ふん、猫には分からないかな? 僕はね、白雪が帰ってくるまでに、おにぃさんを僕なしでは生きていけない体に……いや、僕を『最高に都合のいい弟』としてインプットさせたいんだよ。そうすれば、監察官の仕事なんてサボって、ここで一生ポテチを食べて暮らせるからね!」


ショタっ子の顔でとんでもないニート計画を語るレオン。


さらに彼は、キッチンに**「全自動・家事ロボ:マッスル・キラー」**(※名前は物騒だが、ただの高性能調理・掃除ロボ)を設置した。


「これでおにぃさんは、指一本動かさなくていい。労働も、筋肉も、全部このロボットが『スルー』してくれる。これこそが真のパッシブ・ライフだよ!」


 だが、その「便利」が、壁一枚隔てた隣の住人の逆鱗に触れた。


「――ヌンッ!! 201号室から、筋肉の死滅する音が聞こえるぞ!!」



 ドガシャァァァン!!



いつものように、しかし、いつも以上に怒り狂った大家・轟さんが、壁(物理)を突き破って現れた。


その手には、なぜか巨大なプロテインの樽を抱えている。


「佐藤! 貴様、何だその軟弱な椅子は! 筋肉は『不便』という抵抗レジスタンスがあってこそ輝くもの! 全自動など、筋肉に対する冒涜だッ!!」


「あわわ、大家さん! 壁、壁が……!」


「黙れ! この部屋の『便利』は、私の筋肉がすべて粉砕してやる!!」


大家の丸太のような腕が、レオンの家事ロボに向けて振り下ろされた。  しかし、未来の家事ロボも黙ってはいない。


「【警告:外部からの物理的負荷を検知。除外スルーモードに移行します】」


ロボットから不可視の斥力フィールドが展開され、大家の拳を弾き飛ばした。


201号室は今、**「大家の生身の筋肉」vs「未来の全自動テクノロジー」**という、人類史上最も不毛な全面戦争の舞台となった。


「ただいまー。レオン君、大家さん、今夜は店長から廃棄……じゃなくて、特別なお裾分けをもらったから、みんなで鍋にしよう!」


 修羅場と化した部屋に、カズマが能天気な声で入ってきた。


その後ろには、ビニール袋を両手に下げた「だるんだるんモード」の松井店長が、ふにゃふにゃした笑顔で立っています。


「いやぁ、今日はいい白菜が入ったんですよぉ。あと、ちょっと賞味期限が数分過ぎただけの高級霜降り肉も……」


その瞬間、部屋を支配していた殺気が、霧散しました。


「……ヌンッ!? 霜降り肉だと? ……良質なタンパク質と不飽和脂肪酸。筋肉が、戦闘よりも摂取を優先しろと叫んでいる……!」


大家さんが、家事ロボに振り下ろそうとしていた拳をピタリと止め、鼻をピクピクとさせました。


「【警告解除。対象からの敵意消失。……献立メニュー:『至高のすき焼き鍋』を構成します】」


さっきまで殺戮兵器のようだった家事ロボが、即座に調理モードへ移行。


カズマから食材をひったくると、マッハの手つきで野菜を刻み始めました。


「ええっ!? ……まあ、おにぃさんが楽しそうならいいか。おい、密航者(店長)! ちゃんと火加減は僕の重力制御で均一にしてあげるから、感謝しなよ!」


レオンも舌打ちしながら、ポテトチップスを投げ捨てて鍋の準備に加わりました。

つい数秒前まで「部屋を壊すか壊さないか」の死闘を演じていたはずのメンバーが、一つの鍋を囲んで座るという、異常な「鍋パモード」に突入したのです。


『……おい。嘘だろ。この切り替えの早さ、こいつら全員サイコパスかよ……』


 猫――未来の俺は、カズマの膝の上で呆然としていました。


中央に鎮座した鍋からは、未来の家事ロボが計算し尽くした「完璧な出汁」の香りが立ち上っています。


「さあ、みんな食べよう! ほら、猫ちゃんにも味の付いていないお肉をあげるね」


カズマが幸せそうに微笑み、お肉を差し出します。


『……ふん、俺はそんな安い誘惑には……。……はむっ。……ウ、ウマすぎる。……悔しいが、白雪がいない一ヶ月、この生活も悪くねぇかもしれない……』


時空警察・監獄局。白衣を奪われたマッドサイエンティスト。


「――処置は完了しました。白雪、貴女のデバイス、及び全ての研究機材は一ヶ月間、凍結されます。」


現代の焼肉の香りがまだ髪に残っているというのに、白雪の目の前に広がっていたのは、無機質で冷たい、白一色の「時空隔離独房」だった。


看守ドロイドが無感情な声で告げると、彼女の愛用していた、数々の(危ない)発明品が詰まった白衣がシュンッと粒子化して回収されていく。


「ちょっと待ちなさいよ! その白衣の中には、カズマからもらった『特製おじや』のフリーズドライが入ってるのよ! それだけは返して!」


「却下。……佐藤カズマからの提供物は、『精神汚染物質』として検疫対象です。」  


看守ドロイドの後ろから現れたのは、現代に残った長官の「ホログラム分身」だった。


大家さんは「筋肉への給水!」と言いながらビールを煽り、店長は「未来の味付けは勉強になりますねぇ」と家事ロボと意気投合し、レオンはお兄ちゃんに甘えて肉をねだる。


白雪さんがいない間の不穏な空気は、カズマが持ち込んだ「鍋」という名の現代の奇跡によって、一時的にスルーされたのでした。


鍋パーティーから数日後。マッスルマートに激震が走った。


「あの……今日からアルバイトでお世話になります、結衣ゆいです」


現れたのは、未来人でも、筋肉信者でも、時空犯罪者でもない。


どこからどう見ても**「普通の、めちゃくちゃ可愛いJK」**だった。


夕方の2時間だけという、あまりにも健全で、あまりにも「この世界観に似つかわしくない」純粋な存在。


「あ、佐藤です。よろしくね。分からないことがあったら何でも聞いて」  カズマが、いつもの「仏のような微笑み」で挨拶をする。


その背後で、カズマを独占したい「かまいたがり勢」の空気が一変した。


『……マズい。マズすぎるぞ、カズマ。あのJK、お前の「普通さ」にシンパシーを感じて、一瞬で恋に落ちるタイプだ。……俺の未来の記憶には、あんな可愛い女はいなかったぞ!』


猫はレジの下で、かつてない危機感に震えていた。


だが、誰よりも早く動いたのは、店に居座っていたショタ・レオンだった。


「おにぃさーん! 僕、喉が渇いちゃったぁ。あ、そこの『お姉さん』、おにぃさんの邪魔しないで、僕にオレンジジュース持ってきてくれる?」


レオンは、最高級の「ぶりっ子スマイル」を浮かべながら、結衣の前に立ちはだかった。


その瞳の奥には、監察官時代の「抹殺対象を見る目」が微かに混じっている。


「えっ? あ、可愛い弟さん……? ごめんね、今持ってくるね」


「いいよ、お姉さんは『新人』なんだから、裏で段ボールの片付けでもしてなよ。おにぃさんの隣は、僕の指定席なんだから」


レオンは結衣をカズマから引き離すように、絶妙なポジショニングで牽制をかける。


さらに、バックヤードからは「全盛期モード」の店長が、凄まじい威圧感(と親心)を出しながら現れた。


「結衣ちゃん……。佐藤君はね、この店の『至宝』なんだ。……あまり近づきすぎると、筋肉の磁場で弾き飛ばされるよ?」


「……え、ええっ!?」


結衣は、あまりに濃すぎる同僚(とペットと居候)に囲まれ、早くも目が回り始めていた。


カズマだけが唯一の癒やしだが、そのカズマに触れようとすると、レオンが「おにぃさーん、おんぶー!」と割り込み、大家さんが壁の向こうから「佐藤! JKに筋肉の動かし方を教えるのだ!」と的外れなアドバイスを飛ばす。


『……おい。白雪がいない間に、この店が「カズマ争奪戦」の戦場になってやがる。……これ、耳栓をしてる暇なんてねぇぞ』


猫は、カズマの腕を必死に引っ張るレオンと、困惑するJKを見比べながら、この「現代と未来が混ざり合った地獄の昼下がり」に、深いため息をつくのだった。


 「ねえ、お姉さん。おにぃさんは忙しいんだから、あんまりジロジロ見ないでくれるかな?」


レオンは、カズマの前に立ちはだかり、腰に手を当てて結衣を睨みつけた。


その姿は、まるで大好きな兄を守る騎士のようであり、同時に、最高に生意気で可愛らしい「弟」そのものだった。


しかし、結衣の反応はレオンの予想とは180度違っていた。


「……えっ。……なに、この子。……めちゃくちゃ可愛い。」


結衣の瞳に、ハートマークが浮かんだ。


彼女のターゲットは、最初からカズマではなく、その足元で一生懸命「悪い顔」をしながらぶりっ子をしているレオンの方だったのだ。


「ちょっと、お姉さん? 聴いてるの? 僕は今、君に警告を……」


「きゃあぁぁ! 喋った! 怒ってる顔も天使みたい! ねえ、君、お名前は!? お姉ちゃんと一緒にアイス食べに行かない!?」


結衣が猛烈な勢いで距離を詰め、レオンの頬をぷにぷにとつつき始めた。


「ひ、ひぃっ! 触るな、現地の一般市民! 僕は時空警察の……わっ、抱きつくな! おにぃさーん、助けてぇ!!」


レオンが必死にカズマに助けを求めるが、カズマは「よかったねぇ、レオン君。


新しいお友達ができて」と、耳栓をしていないのに自力のスルー・パッシブ能力でニコニコ見守っているだけだ。


『……ハッ。そうか、そうだった……。レオン、お前がその「最強のショタ外装」を選んだ時点で、この時代の女子高生という名の「最強の捕食者」に狙われるのは必然だったんだよ……』


猫――未来の俺は、レオンが結衣に「いい子ねぇ~」と撫で回され、屈辱に震えながらも「お、おにぃさんの手前、重力波で飛ばすわけにはいかない……ッ!」と必死に耐えている姿を、高みの見物で楽しんでいた。




……よし。この壁のコーティングに使われている『自己修復型ナノセラミック』。


……これを少しだけ分解して、再構成すれば……理論上は『カツオ出汁の分子構造』に変換できるはずよ。」


彼女は、科学者としての才能を、国家反逆レベルの「食への執念」へと全振りしていた。


未来の独房は、囚人の思考を読み取ってストレスを軽減する機能がある。


白雪はそのシステムの脆弱性を突き、「おじやを食べたい」という強烈な情欲を脳波として叩き込むことで、システムにバグを起こさせたのだ。



ブォォォン……



唸り声を上げ、独房の壁の一部が変色し始める。


本来、壁を修復するためのナノマシンが、白雪の洗脳によって「旨味成分」を生成し始めたのである。


「……きたわ。……香る、香るわ! 201号室の、あの少し焦げた醤油の香りが!」



「あ、そうだ! レオン君、そんなに恥ずかしがらなくていいよ。……はい、お裾分け!」


カズマが、白雪さんから預かっていた(というか没収していた)


「未来の猫用マタタビ・キャンディ」を、間違えてレオンの口に放り込んだ。


「ん、……ふにゃぁぁ……。お姉さん……もっと撫でてぇ……」


キャンディの成分で脳がとろけたレオンは、結衣の腕の中で完全に無力化。監察官の威厳は、現代のJKの母性によって完膚なきまでに破壊されたのだった。


「……平和だなぁ」  カズマは、レジを打ちながら呟いた。


白雪さんがいない間に、アパートの勢力図は「カズマ争奪戦」から「レオン愛玩めでられ大作戦」へと塗り替えられてしまった。



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