火星旅行
火星への旅行が当たり前になったのは、私が就職してからだ。
私が子供の頃の海外に行くようなノリで、今は気軽に火星旅行ができる。
もっとも、格安スーパーのレシートを眺め、ため息をつく私には縁のないものだが。
レシートに火星産という文字が並ぶのも大分慣れてきた。
今や碌に植物が育たない地球より、人工的にテラフォーミングした火星のほうが環境はいいらしい。
火星産の文字は安心安全の証なのだ。
科学がどれだけ発展しても、私はここに取り残されている。
世界は私の知らないところで発展し、私がそれを知るのはレシートの文字だけ。
世界に取り残されているような、そんな不安からため息が出る。
購入した火星産の食材を火星産食材専用調理機に入れる。
寸分違わず作成されたこれらの食材は、機械に放り込むだけで全自動で調理してくれる。
あとは食べたい料理のボタンを押すだけだ。
味に不満はない。
塩分も脂質も最適化され、栄養バランスは完璧だ。
それでも咀嚼の合間に、理由の分からないため息が混じる。
レシートを見ると、見慣れない文字列がある。
翻訳サイトで調べてみると、地球産と書いてあるらしい。
インドにあるスーパーだと、言葉がわからなくて困る。
やっぱり英語を使っているアメリカで、安いスーパーを探すことにしよう。
火星旅行は、まだ遠い。




