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小さな物語たち  作者: ゆら


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4/5

温室の中の記憶

壊れたものは元に戻らない。

見た目はそれっぽく繕えても、実態は全く別物だ。

例えば、落として壊れたマグカップ。

例えば、破損したデータ。

そして、目の前で私の名前を呼ぶ、見知らぬ女性の記憶。


私は連休を利用して久しぶりに帰省していた。

大学を卒業して就職し、目まぐるしい日々に追われながら、もう3年になる。

駅に着いた私に声をかけてきたのは、車で迎えに来ていたはずの両親ではなく、私の中学校の同級生だと言う女性だった。

見覚えはなかったが、距離感だけはやけに近い。

一緒に植物園に行った、と静かに話すが、残念ながら全く記憶にない。

私に彼女の記憶が無いことを悟ると、少し驚いた顔をしながらも、しかたないか、と呟いた。


名前を聞いても覚えがない。

彼女の話を聞いているうちに、その名前も頭から消えていった。

車の中で両親に確認しても、中学校の同級生という情報以外は得られなかった。

一応両親との面識はあるらしい。


次の日、帰省しても特にすることはなく暇を持て余していた私は、彼女と植物園に来ていた。

確かにこの植物園はよく来ていた記憶がある。

無いのは、彼女の記憶だけだ。


「ここ、覚えてる?」


植物園をまわりながら懐かしそうに話す彼女。

何か思い出すかと思ったが、私は胸を締め付けられるようになりながら、首を振ることしかできない。

すると彼女は少し安堵したように笑った。


彼女は近くのベンチに座ると、鞄から白いマグカップを取り出す。

ひびの入った、花柄のありふれたデザインだった。


「これ、ここで落としちゃったの。」

まるで大切なプレゼントを返すように、彼女はマグカップを差し出した。

私はそれを受け取る。


「ほんとに。ほんとに辛かったんだよ。」

声が少し震えていた。

彼女は、そのひびの入ったマグカップを、ずっと手放せずにいたのだろう。


「そのとき、なんて言ったか覚えてる?」

私は何も覚えていないのに。

一部が破損したデータは正しく機能しない。

私が覚えていないのなら、その罪はもう、読み取ることは出来ない。


「忘れてくれて、ありがとう。」

彼女は泣きながらそう言った。

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