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小さな物語たち  作者: ゆら


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3/5

紙コップのゆくえ

窓の外は暗く、空気が無いためか、星々がよく映える。

永遠に続くと錯覚する暗闇、しかし今は夜ではない。

この部屋が人工的なライトに照らされているからだ。


私は紙コップを1つ置き、コーヒーサーバーのボタンを押す。

地球で注ぐよりゆっくりと落ちるコーヒーは、それだけで少し美味しそうだと感じてしまう。

少しずつ溜まっていくコーヒーを眺めながら、私の疲れも溜まってきている気がした。


この基地の開発計画や修繕計画、それに伴う予算や人員の確保など、やることは山積みだ。

デスクに戻り提出された資料を確認しながら、紙コップに入れたコーヒーを飲む。

人類が月面に基地をつくるようになってなお、紙のお世話になるとは思わなかった。


しばらく仕事に没頭していると、隣の同僚が思い出したように話しかけてくる。

「そういえば、もうすぐ返却期限だな。」


そうだな、と答えて手に持ったコーヒーを飲み干した。

紙コップの内側に、コーヒーの黒が染み込んでいる。


この基地では全ての物に返却期限がある。

古くなって壊れる前に、バラバラにして新しく作るのだ。

工事で使う道具も、機械も、コーヒーサーバーも、このデスクもだ。

月面の環境は過酷だ。

突然壊れて使えなくなりました、は通用しない。


その瞬間、天井のライトが紅く染まっていく。

オレンジ色の淡い光に照らされて、書類の文字が紙に沈んで消えた。


「おい、もう時間だぞ。さっさとかえろうぜ。」

隣で同僚が立ち上がりながら言う。


ふむ、まだ仕事はあるが仕方があるまい。


「忘れ物はないか?」

私は今日の返却期限リストを確認した。

あとはこれだけだ、とコーヒーを飲み終えた紙コップを手に立ち上がる。


返却期限は、守らなければいけないからな。

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