置き忘れたスマホ
朝起きると体がだるい。
熱があるだろうかと、体温計を使う。
…38.9℃。
コロナ騒動以来日課になっていた朝の体温測定だが、こんなにも高い数値が出たのは今日が初めてだ。
熱があるとわかると安心するような不安なような、不思議な気持ちになる。
会社に連絡をしようとスマホを探す、がどこにも見当たらない。
寝たまま部屋を必死に見渡すと、テーブルの隅にスマホがある。
どうやら置き忘れてベッドに入ってしまったらしい。
普段ならなんてことない距離だが、今日はベッドから出ることすら億劫なのだ。
由々しき事態である。
しかし会社に連絡をしなければならない、その一心で体を起こそうとするも全く体が動かない。
そうこうしているうちにスマホの着信音が鳴る。
会社からだろうか、何度も何度も聞きなれた着信音を聞きながら、もぞもぞと動くことしか出来ない。
気休めなのか、もう一度体温計を使う。
…69.6℃
こんなにも高い数値が出たのは、人生で今日が初めてだ。
何年も使用し壊れた体温計を放り投げ、置き忘れたスマホの音を聞く。
相変わらず体は怠く、一歩もベッドから出られない。
電話に出れば、上司の怒号を聞けば、無理やりにでも体を起こして出勤していたのだろうなと思う。
そのうち着信音が鳴らなくなると、世界は再び静かさを取り戻す。
近くで子供の笑い声が聞こえる。
このアパートに子供がいることを初めて知った。
積み上げたコンビニ弁当の容器の山が、がさりと音を立てて崩れる。
こんなにも清々しい朝は初めてかもしれない。




