第二話
「どうしてって、こっちが聞きたいよ。ここはどこなんだ。」
直近の恐怖もあって、少し怒り気味に聞いた。
「ここ?ここは私の異空間。無色の空間。」
平坦な口調だ。今にも消えてしまいそうな掠れた声。
無色の空間、彼女はそう答えた。確かに白、黒、灰色以外の色は存在していない。
より疑問が増大した。無色の空間に白髪の女性が一人。そんなことがあるのだろうか。
僕は立ち上がり、もう一度辺りを見渡した。
もうあの黒いモザイクはいない、気配すら微塵も感じなくなっていた。
僕がモザイクのことを聞くと、彼女は答えた。
「あれは、恐怖そのもの。それぞれの人が感じる一番の恐怖の具現。」
恐怖そのもの。僕が今までにないほどに怖がっていたのは、怯えていたのは、そのモザイク自体が[そういうもの]だったから。
恐怖の具現。
彼女は続けてこう言った。
「あれに飲み込まれると、その人は存在ごと抹消される。私は、覚えてるんだけど。」
恐ろしかった。よく人が本当に死ぬ時は誰からも認知されなくなった時だとは聞くが、その[誰にも認知されなくなる死]を実際の死のように、いや、それ以上に恐怖させることができ、それでもって存在を消す存在だというのだ。
そうして、僕は彼女が始めに言った言葉の意味がわかった。[どうして君がここにいるの]
それで僕は逆に彼女に聞き返した。
「お前は、どうしてこんなところにいるんだよ。」
「逃げてきた。」
彼女は答えた。続けて、
「[朱鷺]という組織の本部研究機関から、逃げてきた。」
彼女はこれ以上は言いたくなさそうだ。仕方ない。
僕は次の質問をしようと、口を開いた直後に、彼女から答えが返ってきた。
「帰れるよ。現実空間に、でも、特定の人にしか、認知されなくなる。この空間で生き残れた以上は。」
続けて彼女は僕の肩に手を当てこう言った。
「私の名前はエコノン。よろしくね。」
よろしく。
その言葉は、新たな出会いに笑みを浮かべるように捉えることができるが、逆に言えば、これから僕は厄介事に付き合わなければいけないことになるのだった。
そして、続けて、
「今、君に能力を授けた。[好都合な状況に変える能力]。レベルが上がれば、鬼化も夢じゃないかもね。人鬼である私の能力の一部。」
厄介事に巻き込まれることが確定した。
僕は少し、ひきつった顔をした。




