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異世界転移したら反抗期の娘もついて来た。しかもどうやら俺より強いらしい…  作者: 三毛猫ジョーラ


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第3話 星空食堂


 たき火の近くへと行くとさらにいい匂いが立ち込めていた。バーベキューなんぞ比べるまでもなく、肉汁がしたたる音が耳の傍で聞こえてきそうなくらいだ。


「パパー! この肉めっちゃうまい! 早く食べて食べて!」


 咲耶がマンガでしか見た事がないような肉にむさぼりついていた。最近はダイエットだなんだと言って、買ってきた唐揚げ弁当もほとんど残していた娘である。それがまるで海賊船の船員かのように、大股を広げてガハハと食事をしていた。


「いい食べっぷりだな! 魔物の肉は初めてか?」


 たき火を挟んでアレックスが剣を上手に使いながら肉を食べていた。咲耶よりよっぽど上品じゃないか……。


「はい! なんの味付けもしてないのにこんなに美味しいなんて。アレックスさん、そっちの魔物も食べてみていいですか!?」


「おー食べてくれ! 肉ならテルマがどんどん焼いてくれる」


 郷に入っては郷に従えとは言うが、こんなにいとも簡単にGOできる娘に感心する。小さい頃はおとなしい子で、いつもパパの後ろに隠れていた。中学に入ってアーチェリーを始めると、次第に明るくなりなんにでもチャレンジするようになった。


 だがとある出来事あってから娘はアーチェリーを辞めてしまった。それからゲームばかりするようになり、高校にはちゃんと通ってはいるが、年頃の女の子のようにメイクに興味が出たり、友達と遊んだりというような気配があまりない。父親としては複雑な心境ではあるが。


「私達もいただきましょうか?」


 ぼーっと突っ立っていたおれの顔を覗き込むようにしながら、マリアさんが声を掛けてきた。たき火を囲むように座り、おれも魔物の肉をご馳走になった。



「うまいっ!!」


 咲耶ががっつくのもわかる。魔物の肉は味もさることながら、食べた瞬間、力がみなぎってくる。体に染み渡るとでも言えばいいか、とにかくいくらでも食べたくなってしまう。


「あっちょっとパパ! 私のお肉取らないでよ!」


「ケンカしないの~肉ならまだまだ焼くし。それにしてもよく食べるね~」


 テルマさんが手をかざすと、ボンッと一瞬で魔物から炎が上がる。あっという間に良い焼き加減となり、美味しそうな焼き肉の塊が完成する。 


「美味しいですか? 初めての魔物のお肉は?」


 おれの隣に座っていたマリアさんがニコニコ笑いながら聞いてきた。いつの間に用意したのか、彼女は一人用の小さなテーブルを置き、皿に載せた肉をナイフとフォークできちんと食べていた。


「え、ええ。とても美味いです。味はもちろん、なんか食べると元気が湧いてきますね」


「魔物の肉には魔力が含まれてますからね。食べると我々の魔力も回復するんですよ」


 どうやらおれと咲耶にも魔力があるらしい。確かにさっき剣を振るった時、気というか超能力というか、そういう見えないなにかを感じた気がする。その時妙な脱力感があったが、それは魔力を使ったということなのか? 


「MPみたいなもんなんかな?」


 おれがぼそっと呟くと、マリアさんが不思議そうな目でこっちを見た。


「エムピー? なんですかそれ?」


「いえいえっ! なんでもないです! それよりそのテーブルや食器はいつ用意したんですか?」


「あ、これですか? これはマジックバッグから――」


 そう言ってマリアさんは小さな袋からグラスとボトルを取り出した。


「よかったらお飲みになります? 高級な葡萄酒ですよ」


 そう言って彼女がグラスに葡萄酒を注ぐと、芳醇な香りが漂った。


「あの~マリアさんは聖女様なのでは……?」


「まぁ! 聖女だってお酒くらい嗜みますよ」


 そう言って彼女はぐいっとグラスを傾けた。なかなか良い飲みっぷりだ。するとそれを見ていたアレックスが笑いながら言った。


「マリアのは嗜むって言わないだろ。彼女のマジックバッグには葡萄酒がわんさか入ってるぞ」


「ちょっとアレックス! 余計なこと言わない! 樽じゃないだけマシでしょ」


 アレックスとテルマが手を叩きながら笑い声を上げた。それにつられるようにおれと咲耶も笑顔になる。


 こんなに賑やかで楽しい食事はいつ振りだろう。満点の星空の下、みんなでたき火を囲みながら美味しいものを食べる。これほど自然で簡単なことが、元の世界では忘れられてしまっていたような気がする。


 たき火の光に照らされながら笑う咲耶の顔は、心から楽しそうだ。


 そんな和やかな雰囲気の中、ようやく笑いがおさまったアレックスが少し真顔になりながら言葉を発した。



「ところで君たちは一体何者なんだ?」



 アレックスの目がわずかに光る。ひんやりとした夜風を、おれは背中で感じた。







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