第12話 愛ちゃんの好きな人
「私、ロイヤルキャラメルミルクティーで」
「ミルクココアinタピオカエクストラホイップクリームプラスドライベリーで」
──何それ?
りせちゃんは、私も知らないメニューに知らないトッピングを頼む。
「かしこまりましたー。番号43番でお待ちください」
しかもちゃんと存在するメニューなんだ…
呆然とする私を他所に、りせちゃんは鼻歌交じりで窓際の席に座る。
私もすかさず、隣に座ると席に荷物を置いた
「りせちゃんってこの店来るの本当に初めてなの…?」
「もちろーん」
「初っ端からすごいメニュー頼んだね…」
「ま、時にはそういうのを選ぶ度胸も大事だからね」
なんてタフな心臓なんだ…是非とも見習いたい。
しばらくすると番号が呼ばれ、私たちはカウンターでタピオカを受け取る。
りせちゃんが頼んだものはゴテゴテした名前とは裏腹に、とても美味しそうだった。
いや、美味しくなさそうな名前って言ったら失礼なんだけど、タピオカというよりフラッペって感じの見た目ですごくオシャレ。
クリームの上にトッピングされたドライベリーが色のバランスをよく引き立てている。
私は前に美月が頼んでいたロイヤルキャラメルミルクティー。
口をつけると、あの日美月からもらったあの味と同じだった。
美月…
彼女のことを考えると少し息が窮屈になる。
そっと息を吐き出すように、私は口を開く。
「りせちゃん、ちょっといい?」
「ん?全然いいよーどうした?」
「ちょっと恋愛…相談なんだけど…」
その言葉を聞いたりせちゃんは、途端に目を輝かせ始める。
「えぇ!?愛ちゃんまさかの好きな人いる感じ!?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて…人間関係の相談っていうか…」
「ふっ、そうか。悩める乙女よ。そなたは何を望む?」
私は自分の失言に思わずうろたえる。
けれど、そのせいでりせちゃんの中で変なスイッチが入ってしまったらしい。
誤解を解こうとしたけれども、りせちゃんは恋愛相談に乗る気満々だったので結局そのまま話を進めた。
「実はさ…私仲の良い子に告白されちゃって…」
「ほう、おめでとう」
「けどその子は女の子で…私は恋愛対象というよりは友達みたいに思ってて…だから距離感が掴めないっていうか…」
話がうまくまとまらないけれども、何とか言葉を紡いでいく。
りせちゃんは態度こそ少しおちゃらけてるけれど、その顔は真剣そのままで、私に耳を傾けてくれていた。
「それで…あっちは恋人になりたいけど、私は友達でいたくて、だからどうすればいいのか分かんなくて…」
私が最後まで話し終えると、りせちゃんは真剣な面持ちで顔を上げた。
りせちゃんは少しだけタピオカを吸って、「んー」と考えるように天井を見上げる。
「愛はさ、その子のこと嫌いじゃないんでしょ?」
「うん。むしろすごく大切な人…一緒にいてドキドキするくらいに」
「……それ、私ならすぐに付き合うけどな」
その言葉が少し痛くて、私は思わず目をそらしてしまう。「まあその話は置いといて」と言うと、りせちゃんは話を続ける。
「今の愛ちゃんには、2つの選択肢がある」
そう言うと、指を2本立てた。
「2つ…?」
「そう。どちらが正解とかはない。愛ちゃんが、自分を一番尊重できる道を選んで欲しい」
りせちゃんは、真っすぐ私を見つめると神妙な面持ちで話を切り出した。
「1つは、ちゃんとその子に向き合うこと」
ぴん、と指を1本立てる。
「怖くても逃げずに、『私はこう思ってるよ』って真正面から伝えるの。あっちもきっと愛ちゃんとの距離が分かってない。だから、ちゃんと向き合って、お互いの思いを伝えないと」
「う…」
痛いところを突かれ、言葉が詰まる。
「それに多分、その子寂しがっているよ。今までそばにいてくれた愛ちゃんと上手くいかないからさ」
りせちゃんは、休憩がてらストローに口をつける。一口飲むと、再び話す。
「そしてもう1つの選択肢。それは……その子と距離を置くこと」
その言葉に、私は思わずガタッ、と椅子を引いて立ち上がる。
「それって…」
「最後まで聞いて。別に縁を切れって言ってるわけじゃない。今だけ、少し距離を置くの」
りせちゃんは、一息つくと話を続ける。
「距離を置いてからこそ、見えてくるものだってある。距離を置いて、それでもまだ一緒にいたいならそうすれば良い。そのまま自然消滅してしまうなら、別の人と付き合えば良い」
「でも……その子は?」
「……傷つくと思う」
りせちゃんはそう言って、少しだけ目線を落とす。
「きっと理由も分からないまま、ゆっくり離されて、置いていかれる。その子はしばらく苦しいんじゃないかな」
きっぱりした声だけど、どこか辛そうでもあった。
「じゃあ…」
その道は選べない、という言葉はりせちゃんによって遮られる。
「でもね、愛がその子が怖いとか無理って思うなら、逃げるのもひとつの選択。人はキャパってのがあるからさ。自分を守るのも大事だよ」
私を試すように、彼女の瞳がじっと彼女を見つめる。
でもしばらくすると、りせちゃんは肩の力を抜いて脱力した。
「ふぅ、やっぱこのキャラ疲れるわー」
りせちゃんはそのまま、タピオカを吸い上げる。「美味しー」と言うと頬を緩め、目を細める。
美月の顔を思い出す。私は、どちらの選択肢を選ぶべきか──
次の瞬間だった。
ピロン。私のスマホが鳴る。
「出ていいよ」
りせちゃんはそう言った。
ロック画面に表示された通知の主は──美月。
美月にどう向き合うべきか。
スマホに──美月のLIMEに向き合うと色んな思いが溢れてくる。
美月と出会ったあの日から、学校に行くのが楽しみになった。
美月がいてくれたおかげで、何度も楽しい時間を過ごすことができた。
タピオカも、プリクラも、更衣室のあの瞬間も、膝枕した時も──
思い出は溢れてくる。
けれど──
「ごめん、美月」
私は数秒美月のLIMEと向き合った末に──スマホをテーブルの上に戻した。
今は、美月と一緒にいるのが苦しい。
だから、すごく身勝手なのは分かってる。分かってるけど、少し距離を置かせて欲しい。
「……本当にいいの?」
「うん。これでいい。……ダメ、かな」
「別に正解なんてないよ。愛ちゃん自身が納得してるなら、それが答え」
りせちゃんのその声は芯が通って、どこか達観したような落ち着きがあった。
私を少しの寂しさを覚えつつも、どこか清々しいような気持ちだった。
私は美月みたいな重い関係よりも、りせちゃんみたいな緩い友達関係の方が生きやすい。
けど、なぜだか胸の奥は重たかった。
まるで心が黒い漆で塗りつぶされたようで。
愛に距離を置かれた美月。
最後のSOSすら届かなかった彼女の心の行方は──
次回──第13話 大好きで大嫌い
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