第9話
「週末は、三人で遊園地行くんだよね。天気、どうだろう。」
週末を前に、悠太はサークル室のソファでスケジュール帳を眺めている。
そこへ玲奈が駆け寄ってきて、ドリンクのペットボトルを手渡す。
「はい、練習お疲れ。天気予報だと晴れらしいよ。」
「それは助かる。雨だったら遊園地楽しめないしね。」
玲奈は軽く笑いながら椅子に腰を下ろす。
サークルメンバーがまだ機材を片付けている中、真由の姿だけが見当たらない。
「真由は先に帰ったのかな。最近、イラストの仕上げで忙しそうだから。」 「そうみたい。発表会用の展示に力入れてるんだって。」
玲奈はスマホをチェックしつつ答える。
悠太は「ふうん」と返事をしてから、視線を天井に向ける。
「なあ、玲奈。真由、どんな様子?」
「どんな様子って?」
「なんていうか……前より元気がない気がするんだよ。俺の勘違いならいいけど。」
玲奈は一瞬言葉に詰まったように見えるが、すぐに微笑を浮かべる。
彼女が髪をかき上げると、黒髪のロングがさらりと肩を滑り落ちる。
「真由は、ちょっと繊細なところがあるからね。自分の絵に納得いかないと落ち込みやすいし。」
「そっか……。でも、たまには息抜きもしないと。」
悠太は軽く背伸びをしながら、真由の不在をやけに意識している自分に気づく。
彼女の様子はどうなのか、玲奈は何を思っているのか——頭の中が整理できないまま時間だけが過ぎていく。
「それにしても、遊園地かあ。ジェットコースターとか乗るのかな。」
「真由がどう思うかわからないけど、私と悠太が盛り上がってたらきっと付き合ってくれるよ。」
玲奈が楽しそうに話す横で、悠太はどこか落ち着かない。
今までは三人一緒にいることがごく自然だったのに、ここ数日で三角関係めいた空気が漂い始めた気がしてならない。
「もし真由がなかなか来ないようなら、俺ら先に帰る? 外、もう暗くなりそうだし。」
「うん。じゃああと十分くらい待ってみて、それでも来なかったら連絡だけ入れて帰ろうか。」
二人が立ち上がり、サークル室のロッカーをチェックしていると、ドアが開いて真由がひょこっと顔を出す。
手にはイラストの入ったファイルを抱えていて、少し焦った様子だ。
「ごめん、待たせちゃった? ちょっとデザイン室に行って仕上げを頼まれて……。」
「全然平気だよ。そろそろ帰ろうかって話してたところ。」
玲奈が柔らかく笑い、真由はほっとした表情を見せる。
悠太はそんな二人を見守りながら、改めて思う。
この三人での時間が好きだけど、何かが少しずつ変わろうとしているのかもしれない、と。
「じゃあ、三人で駅まで行こうか。」
「うん。私も腹ペコだし。」
「それなら、途中のコンビニで軽く買い食いしてもいい?」
談笑しながらサークル室を出る三人。
だが、その笑い声の奥底には、まだ言葉にできない気持ちが隠されている。
ほんの少しだけ重たい空気が混じっていることを、それぞれが薄々感じながら廊下を歩いていた。




