第10話
「悠太。準備、もう大丈夫そう?」
「たぶんね。ギターの音も出してみたし、後はリハの集合時間を待つだけ。」
学園祭の朝。
大学構内はいつも以上に活気づき、廊下には色とりどりのポスターや装飾が飾られている。
悠太は自分のギターをチェックしながら、ステージ裏のスペースに腰を下ろしていた。
「うちのダンスの方は、ほぼ段取りできてる。真由が描いてくれたポスターも貼り出して、いい感じに目立ってるし。」
「そっか。じゃあ真由はイラスト展示の設営が終わったらこっちに来る感じかな。」
玲奈が軽くストレッチをしながら答える。
彼女の黒髪ロングがふわりと揺れ、ステージ照明のテスト光で少しだけきらめいている。
「そういえば、昨日真由からLINEが来てさ。『初めてこんな大きいサイズの絵を描いたから不安』って。」
「真由、割と繊細なとこあるからね。でも大丈夫。あの子の絵、評判いいし、今回も絶対みんな驚くと思う。」
玲奈がそう言って微笑む姿を見ると、悠太はやっぱり少し胸がチクッとする。
真由の視線や言葉が、最近どうにも頭から離れない。
そして、玲奈と真由の間に流れる空気も、どこか自分が入りきれないように感じてしまう。
「悠太、顔が固いよ。大丈夫?」
「……ああ、ちょっと緊張してるだけ。ステージ立つの久しぶりだしさ。」
「ふふ、いつも通り弾けばいいよ。私もダンス、張り切って披露するから。」
玲奈はそう言って軽くウインクする。
彼女の笑顔は明るいが、胸の奥底では何を思っているのか悠太にはわからない。
「じゃあ、リハーサル行ってくるね。悠太も自分の番までゆっくり休んで。」
「わかった。俺も音合わせしておく。」
玲奈がステージ袖へ向かうと、スタッフの一人が「次、ダンスチームリハーサル入りまーす」と声をかける。
悠太はその背中を見送ったまま、ギターの弦を静かに指で弾く。
ドゥン、という低い音が彼の心にも振動を伝え、落ち着かない想いをさらにかき立てていく。
「ほんと、やばいな……俺。」
自分の中に生まれつつある不安と、妙な高揚感。
それらが混ざり合って、学園祭の華やかな雰囲気にのみこまれそうになる。
耳を澄ませると、遠くからダンスリハの曲が流れ始めていた。
まだ観客はいないステージ。
しかし、じきに大勢の学生や来場者が集まってくるはずだ。
その中で、自分はギターを弾き、玲奈はダンスを披露し、真由は絵を展示する。
いつもならそれだけでわくわくする学園祭だが、今の悠太の胸中には落ち着かないものが渦巻き続けていた。




