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【学園初恋ストーリー】数学少年と文学少女 ~数式と詩が奏でる恋の蕾~  作者: 霧崎薫


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第2話:「月光の秘密 ~心の扉を開く夜~」

 夜の藤葉学園は、昼間とは全く異なる顔を見せる。廊下に並ぶ窓から差し込む月明かりが、静寂の中で幻想的な光景を作り出していた。


 佐伯楓は、こっそりと自室を抜け出していた。寮の門限はとっくに過ぎているが、彼には秘密の目的があった。高度な数学の問題を吟味するには、夜の静けさが一番だと信じていたのだ。


 廊下を忍び足で進む楓。突然、角を曲がったところで、誰かとぶつかりそうになった。


「あっ……」


 驚いて声を上げかけたが、すぐに押し殺す。目の前にいたのは、月城遥だった。


「遥……さん?」


「楓……くん?」


 二人は同時に小さな声で名前を呼び合った。そして、すぐに周囲を警戒するように見回す。


 楓の心臓が大きく跳ねた。図書室で出会って以来、遥のことが頭から離れなかった。しかし、こんな時間に、こんな場所で出会うとは……。楓は自分の動揺を隠そうと、冷静を装った。


「どうして、こんな時間に……?」


 楓が尋ねると、遥は少し困ったような表情を浮かべた。彼女の瞳に、月明かりが反射して揺れている。その姿に、楓は思わず見とれてしまった。


「実は……秘密の場所があって。楓くんは?」


 遥の言葉に、楓は自分の秘密を打ち明けるべきか迷った。しかし、遥の誠実な瞳を見て、嘘をつくことはできないと感じた。


「僕も……秘密の勉強場所に行こうとしてた」


 二人は思わず笑みを交わした。寮の規則を破っているという緊張感と、意外な場所で出会えた喜びが入り混じる。楓は、この瞬間の不思議な高揚感に戸惑いを覚えた。


「よかったら……私の秘密の場所、見に来る?」


 遥の誘いに、楓は少し躊躇した。規則を破ることへの罪悪感と、遥と二人きりになることへの期待が、心の中で葛藤する。しかし、遥の優しい笑顔に、楓の迷いは吹き飛んだ。


「うん、行ってみたい」


 二人は静かに歩を進め、使われていない教室に辿り着いた。遥が扉を開けると、そこには月明かりに照らされた小さな空間が広がっていた。


 窓際には、一脚の椅子。


「私、ここで、詩を書いてるの」


 遥の告白に、楓は驚いた表情を浮かべる。数学しか眼中になかった彼にとって、詩を書くという行為は、まるで異世界の出来事のように思えた。


「詩? すごいね。読ませてもらえる?」


 遥は少し躊躇したが、小さな手帳を取り出した。楓に手渡す手が、少し震えている。その仕草に、楓は遥の緊張と信頼を感じ取った。


 楓は、月明かりを頼りに遥の詩を読み始めた。繊細な言葉の選び方、深い感性。読み進めるうちに、楓は遥の内面の豊かさに圧倒されていった。同時に、自分の世界の狭さを痛感する。


「これ、素晴らしいよ。僕には真似できない」


 楓の率直な感想に、遥の頬が赤く染まる。月明かりの中で、その姿が一層美しく見えた。楓は、自分の心が激しく鼓動しているのを感じた。


「ありがとう。でも、楓くんだって、すごいじゃない。数学オリンピックの勉強してるんでしょう?」


 楓は少し照れくさそうに頷いた。遥の言葉に、自分の努力を認められた喜びを感じる。


「うん。でも、数式を見てるだけじゃ息が詰まるから、たまにこうやって夜の学校を歩き回るんだ」


「わかる。私も、言葉が詰まった時は、こうやって月を見るの」


 二人は窓際に立ち、共に月を見上げた。静寂の中、二人の心拍が少しずつ同じリズムを刻み始める。楓は、遥との間に不思議な一体感を覚えた。


「ね、楓くん。私たち、秘密の共犯者になったみたいだね」


 遥の言葉に、楓は思わず笑みがこぼれた。その瞬間、彼は自分の中で何かが変わったことを感じた。


「そうだね。でも、こんな風に秘密を共有できるのって、なんだか嬉しいな」


 遥も楓に微笑み返す。二人の間に流れる空気が、少しずつ温かさを増していく。


「また、ここで会う?」 楓が尋ねた。その言葉には、期待と不安が混ざっていた。


「うん、会いたい」 遥の答えは、迷いのないものだった。


 その夜以来、二人は時々こっそりと夜の学校で出会うようになった。楓は数学の問題を解き、遥は詩を書く。時には互いの作品を見せ合い、感想を述べ合う。


 月明かりの下で、二人だけの秘密の時間が刻まれていった。それは、まだ恋とは呼べないかもしれない。でも、確実に特別な何かが、二人の間に芽生え始めていた。


 夜の静寂の中で、二つの心が少しずつ、でも確実に近づいていく。そんな青春の一ページが、藤葉学園の月明かりの中で静かに描かれていった。


 楓と遥は、まだ自覚していなかったが、この夜の出会いが、彼らの人生を大きく変えていくきっかけになることを。月は静かに、そんな二人の姿を見守っていた。



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