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赤錆の転生リアリズム  作者: 白カラス
第一章 旅立ちの冒険者
10/11

ep.10

皇暦762年6月6日

 早朝、ライルは鼻唄をしながら上機嫌で馬小屋の掃除をしていた。


「今日は機嫌良いね」


 その様子にヒナタはいつも不機嫌そうにしているライルに何か良いことあったのだろうか、と思った。


「まーな。頼んでたものが出来る頃なんだよ」


「頼んでたもの?」


 ライルはにしし、と笑いながらこう言った。


「おう。()()()()がな」


「……聞いてないんですけど」


 曰く、前回の大儲けしたフォートレスタートル討伐で久しく見ることのなかった金貨を山分けで手に入れたことで安物の杖から性能の良い杖に代える為に、魔導具職人に頼んでいたのだとか。その際今まで使っていた安物の杖は売却しており、暫くの間素手で魔法を放っていたのはそういうことだったらしい。


「今日はバイトも休みだし、取りに行ってくるわ」


 ライルは手早く道具を片付けた後、上機嫌に軽やかな足取りで馬小屋を出て行った。


「……服、買おうよ」


 ロープに吊るされているライルの継ぎ接ぎだらけの服を見ながらヒナタはそう呟く。


(……効率厨め)


 本人に言ったら否定されるのであろうが、ヒナタはそう思わずにはいられなかった。




 ライルは魔導具店を訪れていた。


「おやっさーん、頼んでたの出来た?」


「おう。出来てるぞ」


 『おやっさん』と呼ばれた老年の魔導具職人は奥の部屋から杖を待ってライルの元へとやって来た。


「これだ」


 それは山吹色の、魔力伝導率の高い功績を用いた金属の杖だった。杖に絡みつく二匹の蛇が魔法を増強する魔力結晶を挟み込むデザインで、何処か神秘的な雰囲気を出している。

 ライルはおお、と思わず息を呑む。


「これは……いいものだ」


「へっ……杖を買い換えるのは初めてなんて言うからな。ちょっとしたサービスだ」


「……あざっす」


 安物の杖を売りにこの魔導具店を訪れた時、何だコレはふざけてるのか、とこの職人は杖を見て激高していた。曰く、〈魔法使い〉の使い勝手を何も考えていない劣悪な魔導具とのことだ。ライルは確かに使い勝手が悪いとは思っていたがここまで酷いものとは思わなかった。

 ヒナタには売却した、とは言ったが実際はこの職人によって引き取られ処分されている。

 ライルは杖を製作してもらうことを職人に頼んだが、職人は自身のプライドを掛けてこの杖を製作した。材質はライルが提示した予算内で最高の性能が引き出せるように厳選し、職人の中では今まで同予算内で作ったものの中でも最高の出来らしい。職人は常に最高を求めており、その職人気質にライルが持ってきた劣悪な杖が更なる起爆剤となったらしい。


「どうだ?」


 ライルは杖を持ち、少し振り回してみる。


(降りやすい……手によく馴染むし、重さも丁度良い)


 流石は職人だ、とライルは感嘆する。


「……魔力、込めてみても?」


「ああ、構わないぜ」


 ライルは魔力を杖に流し込んでいく。

 すると、ほう、とライルは息を漏らした。前使っていた杖と比べ物にならない程に魔力伝達効率が良い。今まで以上に早く、強く魔法が放てるであろうことにライルは思わず口角が釣り上がった。


「おやっさん、最高だ」


「そうだ、銘を付けてやれ」


「銘……?」


「ああ。剣と同じように、杖にも銘があるんだ。これから命を預ける訳だから、良い銘を考えてやれよ」


 ライルは杖をじっと眺める。


(……見た目から、これしかないよな)


「……カドゥケウス。コイツの銘はカドゥケウスだ」


 絡み合う二匹の蛇の造形からギリシア神話のヘルメス神が携えていた杖の名前を銘として採用した。元は〈魔法使い〉の主神が従えている使い魔が蛇であることから、それにあやかる為に職人が蛇の装飾を施したのだが、それの見た目が似ていた、というものが名付けの理由である


「……いいんじゃないか? 大事に使えよ」


 ライルは提示された代金を支払う。金貨四枚に銀貨五枚とかなりの出費ではあったが、この杖はそれを取り返せる程のポテンシャルを秘めているはずである。


「毎度あり。……整備は定期的に来いよ」


「ウッス!!」


 ライルは小躍りしながら魔導具店を出ていった。




「よし、討伐依頼を受けに行こう」


「……今日はやる気凄いね」


 馬小屋に戻って来たライルは新たな杖、〈カドゥケウス〉を握りヒナタにそう言った。大方、彼が言いたいことはヒナタは何となく理解していた。


(……試し撃ちしたいんだろうなぁ)


 一年以上冒険者生活を続けて初めて手に入れたまともに使える武器を手に入れたのである。そう考えるのも無理もないだろう。


「まー、いいよ。どうせ任務は受けるしね。それにまとまった稼ぎが出来たとはいえまだ油断出来ないわけだし」


 二人は冒険者ギルドへと向かった。


「……来た」


「おや」


 ギルドではラスティとフェイがかなり距離を開けて二人を待っていた。

 ふと、ラスティはライルがその手に持つものに目を止める。


「杖、新調したのか?」


「おう。値は張ったがな」


 かなり出来のいい杖にラスティはほう、と息を漏らす。


「とっとと依頼受けに行くぞ。試し撃ちしたいし」


 本音が出た。

 はいはい、とばかりにヒナタはいつも通りティタノボア討伐依頼を受けるのであった。




「……これで!」


 ライルが杖から放った水の突撃槍〈アクアランス〉が大型個体のティタノボアの胴体を二頭まとめて貫通し、死に追いやる。

 今回は大型個体七体と、かなり難易度が上がったがものの数分で片付けてしまった。


(……凄いな。前の杖とは比べ物にならない使い心地だ )


 魔力伝達効率が格段に上昇しており、魔法攻撃の威力を高める魔力結晶により火力は以前の比では無い。変に力む必要も無く、途中で突っかかるような感触も無い。本当に職人は良い仕事をした。

 基礎性能で負けているのならば、道具で補えばいい──これはライル自身の考えである。戦術を工夫し、魔導具バックアップを行い格上と渡り合うことが出来れば無問題なはずである。


「凄いねライル」


「凄いのはこの杖だぜ? 俺はいつも通り魔法使ってるだけだ」


 そう、凄いのはこの杖である。これを持ったからといって何か直接的にステータスが変化するわけではない。それくらいはわかっているし、彼自身奢っているつもりは無い。



「魔石はろくなものが無いな」


 あらかた調べ終えたラスティが戻ってくる。

 〈シグナル〉で信号弾を撃ち上げ、回収業者を呼んだ後、パーティー〈レネゲイダーズ〉はノルン市へと戻って行った。




 深夜、ヒナタは馬小屋をこっそりと抜け出しとある場所へを訪れていた。

 煌びやかなその外装にごくり、と生唾を飲み込む。


「ここが……()()()


 彼女はカジノに来ていた。以前街を歩いている時にカジノを見つけており、前々から興味があったのである。

 武者震いするその手で財布を握り締め、意を決しヒナタはカジノへ入っていく。

 中では色々な賭博が行われていた。

 パチンコ、スロット、ポーカー、ルーレット……喧しい音と共に人々の狂喜と慟哭が響いていた。


「……凄」


 ヒナタは導かれるようにスロット台の方へと歩いていき……座った。


「おお……おおおおお!?」


 始めて数分。人々が集まってきた。


 大当たりである。


 彼女は初めてのカジノで、大当たりを引き当てたのである。


 これは彼女がギャンブルにのめり込み、やがて魔王を倒したり倒さなかったりしてしまう───そんな物語である。


次回も読んで頂けると幸いです!

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