パラドクス
自分で言うのもなんだが、私は天才だ。飛び級もして15歳で大学に入学したし、その大学も出席はほとんどせずに論文の提出と環境汚染なんかの社会問題を解決する機械の発明とか、成果だけで単位を取ってきた。今、目の前でバリバリ稼働している酸素生成装置なんかもそのうちの一つだ。植物と同じで二酸化炭素を主成分に酸素を生成することができる。ただ植物と違って酸素の生成に必要なのは日光ではなく電気だ。それの隣では、その電気ですら空気中の成分から作り出せる装置もある。こっちは稼働させるのこそ手動であるが一度動き出せば1週間は勝手に動くし、電気を蓄えておくことも出来る優れモノだ。その他、社会問題を解決する機械は沢山作った。まぁそれで社会問題が解決しても酸素の供給源の新発見による森林伐採の加速、新たな発電装置の導入による雇用の減少、賃料の引き下げなど新たな問題は必ず台頭してくる。人間は本当に話題性に欠かない生き物だ。問題を1つ解決するとまた1つ、あるいはそれ以上の数の問題が浮き上がってくる。恐らく我々は問題を提起するために問題を解決しているのかもしれない。
我々が長年探してきた永久機関はここにあったぞ!
考える時間が増えた今なら私は声を大にしてそう言いたい。永久機関の一人として…。
まぁそんな冗談はさておき、そんな私にもどうしようもないこともあった。それは予想しがたい大きな脅威だ。そうつまりは「天災」だ。天才も天災には叶わないって?残念ながら本当にその通りだ。天才は天災を予測する術は数多く獲得したが未だに、それを防ぐ術だけは獲得出来ていない。起こることが分かるだけでそれを止めることは出来ないのだ。ある日こんな報道が流れた。
【2日後 大規模な隕石の衝突有】
最初は目を疑った。一体どういうことなのだろうか?いつもは耳が寂しいので垂れ流しているだけのテレビのニュース画面に私は久しく引き込まれた。色々言っていたが、簡潔にまとめるともう地上にいる限りどうしようもないくらいの規模の隕石が降ってくるらしい。普段は天文学なんて触れないが私も戯れ程度の知識はある。早速、空の様子を見る。ずっと自室に引きこもっているので太陽の出ている空を見るのは久しぶりだ。なるほど、確かに太陽が二つある。この大きさの隕石だと地球の裏側まで逃げたって、そもそも地球がもつかどうかすら怪しいレベルであることは計算せずとも分かった。幾分か周りが騒がしかった。道路はもう車で溢れているし空港なんてとんでもないことになっているだろう。
次の日、町は静かだった。人類滅亡を目前に大荒れするかとも思ったが、そうする気も起きないくらいに空は明るかった。
私は一縷の望みに賭けて自室に引きこもった。私の自室は研究室も兼ねている。それなりに危険の伴う実験も行っているので耐久性はある。重要な論文や発明した機械もここに保管しているので外からの衝撃にも強い。私は出来るだけ自室を補強した。それが生き残る一番現実的な策だった。
ズドン! 大きな音がなって地震なんて言葉じゃ言い表せないような揺れが私を襲う。地面が揺れるから「地震」というのであれば、それはまさに空間そのものを揺れされている感覚だった。(私がこれを「空揺」と名付けよう。)地面に足をつけておくことは出来ず、どっちが上でどっちが下なのか、それさえも分からなくなった。そんな衝撃が5分ほど続いた。自室はぐちゃぐちゃで、体の節々まで痛みが襲ってくる。だがこの痛覚こそが生である。私は生きていた。ドアは歪んでしまって開かない。まずはここにあるもので外に出られるような機械を作らなくては、それと酸素と電気を供給する機械もだ。幸いその2つは前に作ったものがあったので先ほどの衝撃により壊れた箇所を手早く修復する。よし、しっかり動いてくれそうだ。
それから数日後、私はどうにか外に出ることが出来た。そこにはかつて形があったであろうものが全て無になっていた。果てしなく向こう側が見えた。これが地平線というやつなのだろう。私は大人しく自室に戻った。まずは食料を作る機械を作らねばならない。
30年は経ったであろうか、あれから様々なものを作ってきた。ある日、空撮のためのドローンを作ったこともあった。それに映し出される風景をみて再度気づいた。恐らくもう人類は数人しかいないのだろう。もしかしたら私ひとりかもしれない、仮にいたとしても見つけ出すのは日本全域から1匹の蟻を探し出すのに等しい作業であろう。それでも私は私の為に開発を続けた。私が正しければ、本当に天才なのであれば私は私を信じて開発を続けざるを得なかった。これだけは作り上げねばならなかった。
ある日、ドアを叩く音が聞こえる。最初は風のいたずらかと思ったがどうやらそうではないらしい。確かに人によるものだった。私は久しく心躍る感覚を思い出した。ドアを開けるとそこには若い青年が一人いた。確かに人であった。私は正しかったのだ。
やはりそっちも完成させてくれたか。私は涙ぐみながら私の最後の発明である「簡易シェルター」を若き時の自分に渡す。
この終わらせ方でいいのか迷った。