とっておき
300字SS。
「買ってもいいけど値はつかないよ。質の保証も相場もないからね」
店番は客の眼窩をじっと見つめた。目の前には青白い火の玉が浮かんでいる。
髪、眼球、若い皮膚、それに臓腑も。順に手放し、それが最後の売り物なのだろう。店番は大きくあくびをして、客を追い払おうとした。
店の奥からチリリリリン、と音が鳴る。
ひょっこり現れた店主は手を伸ばし、火の玉をつまんで口に放り込んだ。客は音を立てて崩れ、転がった骨は砂となって店先に散る。
いいお味、と評しながら火の玉を飲み下し、店主はふうっと息を吹き出した。
「追い返そうとしてたでしょう。何度も行き来させた方がいい味になるから」
ばれたか、と店番は肩をすくめた。