第4話「合衆国陸軍騎兵───追撃!」
チュドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!
人生初体験となる、お城大爆発を経験したエミリア───。
──ビリビリビリ……。
空気が震え、大地が泡立つ。
「あわわわ……」
これには豪胆なエミリアも、さすがに驚いた。
あの堅牢な魔族が建造した城が一撃で崩れたのだ。
当然の反応だろう。
城はいまや、まるで火山の様に火を噴き、ゴウゴウと燃え盛っている。
「うそ……でしょ」
バラバラと構造材を撒き散らし、帝国兵だったものを満遍なくローストにしていた。
……アレでは生き残った者はいないだろう。
たったの一発で───??
エミリアは呆然とそれを見守る。
帝国兵が燃え、もはや黒焦げなった人だったモノが断末魔の叫びをあげながら飛び出してくる様を見つめる。
あぁ……城が燃えていく───。
燃えおちていく───。
あぁ、魔族の象徴が──────……。
『野郎ども起きろッ! 追撃するぞッ』
カッポッカッポと、蹄を鳴らして馬が指揮官にすり寄った。
この爆発の中でも、よく訓練された馬は平気だったらしい。
人間なら、誰もが腰を抜かすと言うのに───。
『騎兵準備よし! 行けます───』
『いいぞ! 突撃ぃぃいい!!』
な、なにを?
『『『───カラヒィィイ!!』』』
あ!!!!
青服の男たちは一人ひとりが馬を乗りこなすらしい。
サッと華麗なる仕草で騎乗すると拍車をかけた。
ドドドドドドドドドッ!
走りながら綺麗に進軍隊形を整えていく。見事だ……。
『『『タリホォ!』』』
掛け声も高らかに、彼等騎馬が物凄い勢いで走り出したかと思うと、その先には帝国軍の生き残りがいた。
いや、違う!
奴らは生き残りじゃないッ。
近傍を巡回していた動哨だろう。
殺戮した魔族の首を誇らしげに馬の鞍に結びつけてやがる!!
「アイツら──────!」
巡回の帝国騎兵は城が燃え落ちる姿に呆然としていたが、危機管理はできているらしい。
『アメリカ軍』の数とその気配を敏感に察知すると、踵を返して逃げ始めた。
「くそ───逃げるのか?!」
帝国軍の連中は、騎馬とはいえその数は少ない。
今しがた追いかけていったアメリカ軍の騎兵隊より少し多いくらいか───。
いや、
「まって、私も行く───!!」
エミリアがヨロヨロと起き上がると、指揮官が手を差し伸べた。
『前に』
エミリアは、散らばる剣を一本拾うと、剥き身のまま騎馬に跨る。
未だ薄い体を晒したままだが、それどころではない───。
ボロボロになりつつもエミリアは、アメリカ軍と共に駆ける。
……駆け抜ける──────!
さようなら。
お城───。魔族、ダークエルフたち。
そして、私の家族……。
ふと振り返った視線の先には燃えていく城がある。
積み上げられ腐っていく死体がある……。
───きっと、もう戻らないだろう。
だって、あそこには何もないから……。
ゴウゴウと燃え盛る焔は、いずれ城と、その周囲にばら撒かれている魔族の遺体も燃やし尽くしてくれることだろう。
どこかにある、エミリアの両親とダークエルフ達の亡骸すら区別なく───。
「……行こう!」
───ドドカッ、ドドカッ!!
猛烈な勢いで駆けるアメリカ軍騎兵は、すぐに帝国軍の巡視隊に追いつく。
帝国軍軽騎兵───精鋭だ。
彼らは城のあり様をみていたので、全速力で逃げる!───……も、アメリカ軍の方が早い!!
馬の質というよりも、装備と覚悟の差だ。
『撃てッ! 背中からでも構わんから撃てぇぇ!!』
ジャキジャキジャキッ!!
アメリカ軍騎兵隊は指揮官騎を入れて10騎ほど。
一方で帝国軍巡視隊は20騎いるかいないかといった数。
数の上では帝国軍が優勢だが、アメリカ軍に危機感はないッ!!
『射撃用意ッ!』
男達は足だけで体を支えると、スチャキと魔法の杖を構える。
『ってぇ!』ッッパァァァン!!
ブシュ!
「ぎゃあああ!!」
一騎落馬───!
落ちた帝国兵を無造作に轢断しアメリカ軍は追う。
『各個自由射撃!』
パパッパパパパパン!!
更に追いついた先では、騎兵銃から拳銃へ。
パパッパパパパパン!!
パパッパパパパパン!!
「がぁっぁああ!」
「ぐぁ! な、なんだぁっぁ?!」
そして、その連射力で帝国軍を次々に撃ち落とす。
その技量は神技クラスだ!
都合、落馬5騎!!
「くッ!───ジェイク、サンディ、ガーランズ! 反転して足止めしろッ!!」
(───……はんッ! 足止めのつもりか。逃がすものかよッ!)
帝国軍の指揮官は、仲間を捨て石に自分だけ助かろうとする。
もちろん、死に体の部隊でそんなことに従う義理はないが、帝国軍では抗命罪は死を意味するのだ。
だから、足止めを命じられた彼らはここで死んだも同然。
ジェイク、サンディ、ガーランズとやらは覚悟を決めて反転する。
どうせ死ぬなら軍人らしく──────。
パパパパパパパパン!!
「あーーーーーーーー!」
「うぎゃあああ!!」
そして、覚悟は2秒で潰えた。
落馬さらに3騎!!
『総員抜刀!!』
指揮官の声にアメリカ軍騎兵隊がサーベルをシュラン、シュラン! と鞘引く。
ギラリと輝く白刃が魔族の地に映えた。
彼らはそれを肩に担ぐようにして一気に加速すると、帝国軍の騎兵に追いつきすれ違いざまに切り裂いた!!
『突撃ぃぃぃい!!』
ブシュゥゥウ!!
「ああああああああああああ!!!」
切り裂かれた兵の首が、叫びながら大地を転がる。
それを後続の騎兵隊が踏みつぶし、更に追撃。
容赦のない一撃が、彼らを殲滅していく!
アメリカ軍10騎の突撃で、帝国軍10騎を殲滅──────残り一騎!!
指揮官騎のみ!!
『『突撃ぃぃいい!!』』
勇ましく突進するアメリカ軍騎兵!
───うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
だけど……──────。
まてッ!!
待ってちょうだい!!
あれは……。
あれは!
あれは───!
「───あれは、私の獲物だぁっぁああ!」
騎馬突撃の勢いを生かしたままエミリアは跳躍する。
激痛の走る足に鞭打ち、最大の一跳躍ッ!
バサバサと髪をなびかせて纏ったボロ布が悪魔の羽根のように羽ばたいた。
シャキン!
空中で反転、抜き身の剣をギラリと構えるエミリア。
そのまま慣性の法則を得て、踏み込みの一足を加えた高速をもって──────帝国軍の隊長騎に飛び掛かった。
「ちぃぃぃいい!! 売女がぁぁぁぁぁあああ!!」
さすがに逃げ切れないと判断した帝国軍の隊長は、剣を引き抜くと、エミリアを迎撃しようとするが───。
は!
舐めるるなよ、人間!
「───貧弱ぅぅぅうう!!」
ダークエルフの膂力は、伊達じゃないッ!
パッァキィィィィィイイイン!!───ズバァァァア!!
「ぎゃああああああ!!」
膂力と速度の合わさったエミリアの一撃が隊長を切り裂き、剣を折り、そして馬から突き落とす。
痛々しく傷を負った体のまま、エミリアは隊長の身体をクッションにして、ズザザザザー! と地面を滑る。
「ダークエルフを舐めるなぁぁぁあ!!」
「ひぃぃいいいい!!」
わざと急所は外したので、落下の打撲か骨折。
それと、小さな切創くらいなものだろう。
ゴリゴリと野菜でもおろすかのように隊長の顔面で地面を耕し、停止───。
落下の衝撃が消えたのを見計らって、エミリアを隊長に跨ったまま剣を振り上げるッ。
「や、やめろぉぉぉぉおおおお!!!」
やめろだと?!
やめろだぁ?!
はッ──────ふざけろッ!!
お前らは、
お前らは!
「───お前らは、そう言われて止めたのかしらぁぁァア!」
エミリアは叫ぶ。
全ての理不尽に慟哭しながら───!
「私たちを弄び、切り裂き、八つ裂きにしておいてぇぇぇえ──────」
今さらぁぁぁア!!
…積み上げられる魔族の死体と、
……ぶちまけられた腸とぉぉぉおお、
───皆の頭の転がる音とぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「や、やめ!! うわぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!」
思い知れぇぇぇぇえええ!!
「ひぃぃいいいい!!」
グサッ──────。
「ひ、ひぃ?」
剣は──────……。
「───今だけは、やめてやるよぉぉぉおおお!!」
ゴキィ!!
──エミリアの剣は、隊長の頭の傍に突きささり、代わりに強烈なパンチを鼻っ面にお見舞いしてやった。
「はぶぁぁ……!」
メリメリと拳が沈み込み、鼻底骨が砕けたのだろう。
プクプクと血の泡が隊長の顔から噴き出している。
だが、殺さなかった──────。
まだ、殺しはしない。
……まだな!!!!!