第20話「殲滅」
「………………きも」
若干ひいているエミリア。
だが、この男には利かない。
「気持ち悪くなどなぁぁぁぁぁああい!!」
今すぐ。今すぐ。今すぐ!!!
「───今すぐ、君を組み敷いて、何度も何度も何度も、私の愛を囁きたぁぁぁあい!」
もう堪らんと、ばかりにブルブルと震えるロベルト───。
「一つになろう! 君がいれば、私は世界を滅ぼしてもいい!! なるべきだ! そうだ、私と君は夫婦に……いや、一つになるべきなんだ!!」
ああああああああああああああああああああああああ!!
そうか!!
そうだ!!
食べよう!!
君を食べよう!!
食べたい! 食べたい!! 食べたい!!
君が食べたい!!
「喉を、胸を、心臓を!! そして頭を食らいたぁぁぁああい!!」
ロベルトは懐からエミリアから引きはがした呪印入りの皮膚片を取り出すと、口に含みついには齧り始める!!
「ふひひひひひひひひひひひひひひひひ!」
うん…………………………キモイ。
「ロベルト──────」
ニコリ。
「なんだい。愛しの君よ」
「キモイからもういいわ」
え?
「命令する───」
『『『傾注!!』』』
蹂躙せよ。
『『『はい、閣下!!』』』
「行きなさい、愛しのアメリカ軍───」
一つの取りこぼしもなく。
一切の容赦もなく、
一辺の慈悲もなく、
一欠片の憐憫の情もなく!!
「アイツを殺せッ」
『『『了解、お任せをッ!』』』
全軍!!
───すぅぅう……。
突撃ぃぃぃいい!!
ギャラギャラギャラギャラ!!!
スチュアート軽戦車が、死者の群れに突っ込み蹂躙する。
『蛇行運転しろ!!』
グシャグシャ!! と戦車の車体と履帯が死者を引き裂き潰していく。
「うひゃはははは!! エミリア───!」
君の愛情を感じるよぉぉおお!!
ロベルトは更にさらに死者を起こして対抗する。
なんせ今の帝都は死者だらけ。
ホムンクルスの宿主には事欠かない。
「ほーーーーーーんと、キモイったらないわ───撃ちなさい」
『撃てぇ!!』
ドカン、ドカン、ドカン!!
37mm対戦車砲が、キャニスター弾で更にさらにと薙ぎ払う。
「うっひょーーーーーー!! あああああああ、私のホムンクルスを通して、ビクンビクンと感じる!!」
涎を垂らし、歓喜にふるえながらロベルトが狂ったように笑い続ける。
「欲しい欲しい欲しい! 欲しいったら欲しいぃぃぃいいい!!」
「悪いけど……。散々色~んな目にあっただけど、アンタだけはお断り……───生理的に無理」
ジト目のエミリア。
だが、それすら堪らないとばかりにロベルトが体を揺する。
───マジでキモイ。
「汚物を消毒して頂戴」
『了解!』
きゅごぉぉおぉおおおおおおおお!!
工兵の火炎放射器が、ロベルト目掛けて物凄い火炎を放つ。
「君の愛が熱いよぉぉぉぉおおおおお!!」
バチバチバチ!!
ロベルトの前に魔方陣が浮き上がり、炎を防ぐ。
───高位魔法結界!?
ち……。
魔法で防ぎやがったか───。
あれでも、腐っても賢者。
いえ、腐ってる大賢者か。
「ひゃは、ひゃはははぁ! 私の愛ならいっぱいあるよぉぉぉおお! ほらぁ!!」
ヒャハハハハハ!
バラバラと汚い粘液を撒き散らすホムンクルスを何匹もばら撒き、死体を起こす。
そして、帝国軍の死体が、帝都の住人がまだまだ、まだまだと迫りくる。
「───ふん…………」
懲りないやつ。
だが、エミリアの無尽蔵の魔力から生まれる魔法陣からは続々と兵が送り出される。
戦車を送り出し、工兵を送り出す。
スクラムを組んだ軽戦車と、間隙を埋める工兵たち。
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!
戦車の車載銃が死者を薙ぎ払い、工兵の火炎放射器が丁寧に清めていく。
キュバァァァァァァアアアッ!!
キュバァァァァァァアアアッ!!
キュバァァァァァァアアアッ!!
「さぁ、私の可愛いお人形さん───エミリアを迎えに行っておくれ、さぁさぁさぁぁぁぁああ!!」
さぁぁぁああああ♪!!
…………。
……。
あれ?
しーーーーーーーーーん。
……………………………な、なんだ?
静まり返った周囲にふと我に返るロベルト。
「……品切れよ」
ロベルトの背後には、グッチャグチャになったロベルトのお人形がたっくさん。
「え? あれ? え?」
「10万の帝国軍──────そのなれの果てよ」
お生憎様……。
「ふふふ。アメリカ軍ってね? ゾンビ退治がと~っても、大好きなのよ───」
パチリ♪ 茶目っ気たっぷりにウィンクして見せるエミリアに、ロベルトがついに白目をむいてぶっ倒れる。
「あふ~~~ん……」
恐怖や驚愕よりも、ただただ、エミリアの魅力に昇天してしまったらしい。
…………容姿には自信のないエミリア。
彼女からすれば複雑な気持ちだろう。
───だってそうでしょ?
ボロボロの身体。
拷問の果に、強行軍。
連戦中のダークエルフの少女の特徴的な三白眼はドロリと濁り、
不健康そうな眼付の下には、くっきりと隈がつき眠たげな表情。
灰色の髪に、同族より薄い褐色の肌。
…………そして、あの日、帝国軍に反撃を開始した時より奪ったマントと薄いボロだけを纏った姿。
垢にまみれ、泥と硝煙と返り血で薄汚れている。
とても美人とはいえないだろう……。
──汚れに穢れたヨゴレたダークエルフ。
そう、それが私。
エミリア・ルイジアナ。
でもね、そんな私にだって好みはある。
だから無理。
生理的に無理。
………………とくにロベルト。アンタだけは死んでも無理。
打倒されたロベルト。
その意識が闇に落ちる前にエミリアはきっぱりと言い切った。
「───……御免ね。お付き合いできません」




