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勇者に捨てられた死霊術士~彼女が最強に這い戻るまで~  作者: LA軍@呪具師(250万部)アニメ化決定ッ
第3章「帝国の賢者」

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第2話「会議は踊る」

「軍を招集しろッ!! 違う───演習じゃない実戦だ!!」


「武器が足りない?! 市内の武器屋と鍛冶屋を総ざらいしろッ。金は後払いでいい!」


「予備役も根こそぎだ! 退役した将軍も全部連れてこい!……誰をだぁ?! 全部だ、全部だ!!」


 わーわーわー!


 帝都中央───。

 皇帝の居わす、城の会議室は怒号に包まれていた。


 高価な椅子がひっくり返り、大量の地図とインクがそこかしこに転がっている。


 まるで泥棒にでも入られたような有様だが、違う。

 これでも、現役バリバリと今も使用中なのだ。


 伝令が出たり入ったり、大臣に軍の高官が大声で罵り合い、場を取り仕切る座長が頭を抱えている。


 議題はもっぱら軍の招集と、防衛ラインの構築だ。

 だが、それ以外にも喫緊の話題はいくらでもある。


 公共事業に、農業改革。

 治水工事に城壁の拡張工事。

 港の拡充に、他国との外交交渉───それこそいくらでも。


 戦勝パレードや、戦利品の分配もまだ終わっていない。


 そんな時に軍の緊急招集などやってみろ。足りない人手と、常に貧窮している国庫があっという間に払底する。


 内政関連の大臣は、頼むからウチの事業から人手を貫くな、金と資材を吸い上げるな、と懇願するが、軍の高官は緊急事態を告げて取り合おうとしない。


 もう何が何だか……。


 大臣は皆が頭を抱えていた。

 魔族との戦争は完全勝利で終わりを告げたんじゃなかったのか?


 街角に晒されているオーガや、トロールの首は、なんなんだ?


 作り物じゃないなら、戦利品なんだろう?


 実験室送りにされた、ダークエルフの身体もどう見ても本物じゃないか?


 何で今さら。

 しかも帝都近傍で戦争準備をしている?


 ──誰か教えてくれよ!!


 軍人の支離滅裂な妄言など、もう聞きたくないと大臣連中が噛みついているが、軍人は軍人で大真面目。


 会議室は踊るだけで何一つ進まない。


 わーわーわー!!


 わーわーわー!!!


 わー……───。



「───お静まり下さい」



 そこに威厳ある声量が降り注ぎ、会議室が一瞬にして静まり返る。


「はぁ。……帝国一の頭脳である皆さんと、帝国一の猛者である皆さまが揃いも揃ってこの(てい)たらく───」


 はぁ……。


「陛下もお嘆きになっておられますよ」


 ヤレヤレ嘆かわしい、と芝居がかった仕草で入室してきたのは「賢者ロベルト」……。

 魔族を滅ぼした勇者小隊の一員で帝国一の英雄だ。


「お、おぉこれは賢者殿!」

「おや? 「大」が抜けておりますよ───将軍」


 そう。ロベルトは、魔族滅亡の功を認められ、「大賢者(アッカーマン)」の称号を賜ったのだ。


「こ、これは申し訳ありません───なにぶん、浮世から遠のいておりまして……」


 しどろもどろになりながら謝罪する将軍───いや、かれもじつは「大将軍」なのだが……。

 ペコペコ頭を下げているのは、征魔大将軍───ギーガン・サーランド。


 ……魔族領侵攻部隊の責任者だ。

 つまり、魔族を滅ぼした部隊を率いていた男である。


「し、して……。陛下は何と?」

「善きにはからえと、いつも通りですよ」


 あーそういうことか。

 皇帝陛下は暗愚ではないが、下々の者に一々口出しをしない。


 特に最近では、ハイエルフの信託に従い、勇者を召喚して以来めっきりと口数が減ったと聞く。


 信頼しているのは、ロベルトくらいだろうか。

 実際、彼を除いてまともにコミュニケーションが取れている者は……。


「で、では……?」

「えぇ、将軍の好きにされてください。軍のことは私にはわかりませんので」


「お、おお!! それはありがたきお言葉───おい! すぐに軍議だ。戦力を集められるだけ集めろッ!…………急げ!!」


 ドタドタドタと、足音高く軍人達が出ていく。


 残ったのは一部連絡員として残る高級軍人が数名と、内政に携わる大臣のみ。


「そ、そんな?! ぐ、軍の好きにさせていたら国庫は破綻しますよ!」

「賢者───大賢者どの! 我らにも言い分が!」


 何とかしてくれと縋りつく大臣たち。


 それをやれやれと言った様子で振り払うと、

「分かっていますよ……。何も遠征軍を指揮するわけではありません。これは防衛戦です。───敵を駆逐すればすぐに予備役は解散させ、あなた方の下に返しましょう」


「ほ、本当ですか?!」


 まだ懐疑的な大臣たち。

 それに、資金のことも解決したわけではない。


「確かに一時的にとは言え、軍を編成すれば莫大な支出になるでしょう。ですが、逆に考えるのです───」


 ……逆?


「例えば、港湾大臣」

「え? は?」


「本、(いくさ)準備では、大量の船が必要になるでしょう。敵は川沿いに南下してきているといいます。先日、我が軍の水軍が迎撃に出たので、もしかするとそこで決着がつく可能性もありますが……」


 ふむ?


「……わかりませんか? 今、帝都では船が不足しているということ───戦準備には輸送用の船ならいくらあっても構いません。つまり、船の需要が、」


 ……ピーン!


「そ、そうか!!! こ、こここ、こうしちゃおれん!! おい、伝令! 今すぐ、大森林のエルフどもと交渉だ。建材を大量に確保するぞ───ぐひひひひ」


(やれやれ……。儲け話があると知ればすぐに食いつく……。戦争で金づるが奪われることを心配しているのでしょうが、まだまだですね)


「皆さんもお分かりですね? 技術大臣、農業大臣───」


「お、おぉ! そうか!! こうしちゃ居れん、ワシもドワーフ鉱山と交渉だ! 大量の武器を買い集めるぞ!」

「そ、そうですな!! 私は麦と塩と食肉を買い占め……げふんげふん。もとい、隣国と交渉せねばなりませんね」


 大臣連中はそれぞれの分野で私腹を肥やすべく、慌てて会議室を出ていった。


 国庫がどうの、資金だ、資材だ、人手がーー!! っていうのは、当然建前だ。


「さて、ここも静かになりましたね」


 あっという間に空っぽになった会議室。

 ロベルトとしては、こんなとこで油を売っている暇はないのだ。


 ポツンと残った座長と連絡員を尻目にロベルトもさっさと退出する。

 大臣連中を追い払って、すぐにでも軍議に移るべきなのだ。


 まったく嘆かわしいと、頭を振りつつ軍の作戦室に向かうロベルト。


 ───帝都の危機は十分に把握している。

 既にいくつもの街が燃え、滅び、大量の難民が帝都へ帝都へと流れ込んできていた。


 派遣した軍はほとんどが壊滅し、いくつかは消滅した(・・・・)


 だが、断片的とはいえ情報は集まりだしている。


 つまり……。



 バン!

「お待ちしておりました」


 重厚なドアを開けた先の作戦室。

 軍人だけの軍人のための聖域だ。


 余計な雑音の入らない作戦室では、高級将校と将軍、そして伝令だけがいる。


 ロベルトを迎えたのは、大将軍ギーガン。


 大臣の無理難題に辟易していたところを助けてやったのだ、この対応は当然だろう。


「こちらへ」


 一番奥、簡易椅子ではあるが、作戦室が一望できる座長席だ。

 そして当然の様に、そこに座るロベルト。


 ドッカと腰かけると、まさに殿様だ。


「では、はじめましょうか───」

 

 不敵な笑いを浮かべるロベルトの前に、ザ! と敬礼する軍人達。



 それを受けて、作戦会議は始まった。

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