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第3接種「クァ・コゥターヴル」

昨日はワクチンの副作用でめちゃしんどかったです……

 その後の展開は紆余曲折あって、なんとか俺は魔王ルートに進むことは回避できたのだった。なにやら街の中でも一番大きな屋敷へ案内されて、俺は事情聴取的なものを受けていた。


「なるほど、星幽者アストラルの方は、破鬱はうつというのですね。そして、私たちに危害を加えるつもりはない……と」


――申し遅れました、私はファイザと言います。一応この街の町長を務めています。


 いかにも長老といった風貌のファイザという男。矍鑠かくしゃくたるこの人が落ち着いて俺の話を聞いてくれて助かった。一時はどうなるかと思ったぜ……


「いきなり、あんなことしちゃってすみませんでした」


 自分でも信じられない。まさか【魔法無詠唱状態】ってのがあれほどの力があるなんて。魔法なんて迂闊に使うんじゃなかったぜ。


「にしても……死の森(アナフィラキ)を抜けてきたという話は本当ですか?」


 死の森(アナフィラキ)、やはりあの霧の世界を人々はそう呼んでいるようだ。


「本当です。気が付いたら俺はあの森にいて……」


「なんと……」


 ファイザは瞠目どうもくして言った。そしてこう続けた。


「あの森では人は生きられないはずなのです……あの森に一歩でも踏み込もうものなら……舞踊病ゼネカにかかってしまいます……」


舞踊病ゼネカ?」


 どうやら舞踊病ゼネカとは、手足が自分の意思に関係なく動き、延々と森の中を彷徨い続けるというものらしい。

 たしかに、その話が本当なら誰も近づかないはずだ。そして、森に人っ子一人いなかったことに説明がつく。


 そして、俺がその舞踊病ゼネカってのにならなかったのは……


――俺が、【状態異常無効】だから、か……


「非常に、言いにくいのですが……」


 ある程度の話を聞いた後、ファイザは少し間を開けて言った。他に何か気になることでもあるのだろうか……


「チィ・ウォナンジュという言葉なのですが……」


 隣で黙々とパンを頬張るチオ。余程お腹がすいていたらしく、俺がファイザと話をしている間はいつものあの「チィ・ウォ」という呪文のような言葉を口にしていなかった。


「チィ・ウォナンジュって一体どんな意味の言葉なんですか……?」


 この幼女チオがただ者でないことはなんとなく分かっていた。死の森(アナフィラキ)に入って無事な人間はいない、それなのにこのチオは元気だったからだ。


「チィ・ウォナンジュとは……食屍鬼エンドと呼ばれる、呪術師の成れの果てとされる生き物です……あくまで言い伝えの話でしかないですが……」


 チオは伝説上の生き物ってところなのだろうか。しかも、食屍鬼エンドなのだから人々に幸福をもたらす類の生き物ではなさそうだ。


食屍鬼エンドは霊体『チィ・ウォナンジュ』と、肉体『クァ・コゥターヴル』の二つから成ると言われています。この少女がチィ・ウォナンジュだとすると……」


「『クァ・コゥターヴル』がどこかにいるってことになる」


 俺はファイザの言葉の続きを先走って口にする。


「そうです。そして、この食屍鬼エンドが現れた時、『災い』が訪れるといわれております……」


 おいおい、それってこれから災いが起こるってことじゃ……


――ドガガガガガガ!!!!!!


「ほら、みたことか……」


 完璧なタイミングで災いってやつがやってきた。一体どんなものなのか、お手並み拝見といこうじゃないか。


「何事だ!」


 急いで外に出て状況確認を試みようとしたファイザ。俺も一緒になって外に出ると……


「いやいや……序盤に出て来て良いモンスターじゃないだろ……」


 どこからどう見ても翼竜、つまるところのドラゴンだった。


「ゴアアアアアアアアア!!!」


 けたたましい雄叫びを上げる翼竜。チュートリアルをすましていない勇者が戦う相手じゃない。


「まあ、俺勇者じゃないけどさ」


 俺の中には二つの選択肢が浮かんだ。一つは再び【魔法無詠唱状態】ってのを使って強そうな呪文を使って倒すこと。

 だが、それはリスクが付きまとう。俺が無事だったとしてこの街が無事だとは限らない。ファイアと唱えるだけであの威力だったのだ。翼竜討伐のために気合を入れちゃったらどうなるか、想像もつかない。

――だから、却下だ。


「じゃあ、もう一つを試すしかないよな!」


――【身体能力強化】


「いけええええええええ!」


 俺の跳躍力はヒトの限界を軽く超え、あっという間に上空にいる翼竜まで辿り着いた。翼竜はその突然のヒト種の接近に一瞬怯んだように見えたが、大きな牙を剥き出しにして威嚇してきた。


「ガアアアゴオオオオオ!!」


 翼竜の口内から湧き出た火炎かえんが直撃する。きっと高温で、鉄だって簡単に溶かしてしまうくらいの威力なのだろう。ヒトなんて即座に焼き殺せるほどの怪力ちからなのだろう。


――だが、俺には効かない。


――【自動回復付与】


 攻撃を食らった瞬間に回復行為が体内で行われているようで、全く痛みを感じない。炎を全身に浴びている感覚はあるのに、それが空想のものであるかの如く、俺には無力だ。ワクチン打ってこれだけの力を手に入れたら気分爽快ってもんだ。


 俺は、翼竜に飄々と言ってやった。


「ふん、効かんな」


 拳を強く握り、力を集中させる。一撃で決めてみせる。俺にはそれだけの力がある。翼竜なんて、ワンパン余裕ってやつだ。


「歯ァ……食いしばれよォ!!!!」


 竜なのだから牙と言った方が良かったか。そんなことを考えながら翼竜を全力パワーでぶん殴った。


 竜はその瞬間に、体勢を崩し地に堕ちた。凄まじい音が街中に響き渡り、戦いが終わったことが示された。


「いや、にしても、俺、強すぎ……」


 自分の力が過剰すぎる。翼竜をワンパンできる勇者なんているのだろうか。これから始まる破鬱はうつの冒険譚は味気ないものになりそうだ。


「破鬱さん……本当にありがとうございます……」


 これで、俺が危害を加えないということが証明できた。一件落着だ。そう思っていると、ファイザが一言つけ加えてきた。


「助けてもらって恐縮なのですが……元凶である、食屍鬼エンド、つまるところの『クァ・コゥターヴル』を、探してきてはもらえませんか……?」


 まあ、そうなるよな。食屍鬼エンドってのが何者なのか解明しない限り災いは続く。俺だってそんなのは困る。早く災いってのが終わるのを願うばかりだ。


「よし……」


 俺は依頼であれ仕事であれ、ワクチン接種であれ、何でも受けるんだ。だから、俺は、いつものように、考えなしに言った。二つ返事、お安い御用さ。


「その依頼、請け負った!」


 破鬱はこの先にどんな結末が待っているのか知る由もない。


 破鬱が軽々しくこの選択をしたことを、後悔するのはまだ先の話である。


まいにちこうしんがんばるぞいぞい!

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