Ep-692 彼なりの強さ
ジェラルディンは、シロと共に駆けていた。
綺麗に晴れていたはずの空は曇天に曇り始め、やがて土砂降りの雨が降り始めた。
だが、シロは結界を自分の周囲まで広げて、雷雨の中を突き進む。
「こりゃ、中々....きついな!」
地面はぬかるみ、シロの速度は自然と落ちる。
しかしシロが止まることはない。
一日で走れる限界まで走り、喋ることのできない自分に代わってジェラルディンを送り届けるためだ。
ジェラルディンも、速度による疲弊からは逃れることはできない。
しかし彼は、食らい付くようにシロの背を離さない。
その覚悟を認め、シロは再び小高い岩山を駆け上がる。
「.......!」
ほぼ垂直の壁を、シロは岩棚を足場にして飛び上がるように昇る。
ジェラルディンはその動きについてこれずに振り落とされそうになるが、
「気にすんな、行け!」
「オン!」
岩山の山頂まで昇ったシロは、下を見渡す。
森林がずっと広がっているが、大きな河川がそれを分断している。
「行けそうか?」
「オオン」
シロは岩山を再び駆け降りる。
反対側は絶壁ではなく急斜面になっており、シロはそこを速度を上げながら森に突っ込む。
再び衝撃波で木々をなぎ倒し、川を越えるために助走をつける。
「ぐ、ぉおおお......」
「キューン!」
音速に達したシロは、その四本足で地面を蹴り飛ばす。
地面に大穴を開け、川を越えたシロ。
地面に着地し、二の足を踏む前に地面を蹴って加速する。
「.....大丈夫か?」
「クゥ~ン.....」
ジェラルディンはその眼で、空を見る。
陽が沈もうとしていた。
「どこかで休もうぜ」
「オン!」
シロは森林地帯を抜け、荒地へと出る。
そして、ある程度進んだところで立ち止まった。
「クゥン」
「ここで休むのか....?」
「オン」
当然だとばかりに、シロは軽く咆えた。
ジェラルディンは溜息をつくと、その場に寝転がる。
「オン」
「え、餌? 知らねーよ、その辺で取ってこい」
「....ガルル」
使えない奴め、とシロは咆え、ジェラルディンから離れていく。
ジェラルディンは閉じていた目を開け、星空を見上げた。
「......ったく、久々だなぁ。一人で夜空を眺めるのは」
黄昏が終わりに近づき、星々の世界が始まる。
ジェラルディンはしばし、それを見つめた。
「.....それでよぉ」
数時間後。
焚火をしていたジェラルディンは立ち上がり、背負った剣を抜く。
その剣は普段の安物ではなく、不思議な青色を帯びていた。
「来いよ、隠れてる奴ら」
ジェラルディンがそう言った直後。
夜空に、巨大な赤い魔法陣が開いた。
「.....オイオイ」
ジェラルディンはその魔法陣を、見る事しかできなかった。
『ジャッジメントライト!』
直後、光の柱が荒野に落ちた。
「ふ、死んだか........」
少し離れた丘の上で、魔族数人が立っていた。
「凄まじい速度で逃げるものだから、追いつけないかと思ったが......」
「やはり、大したことはないな」
しかし、その時。
魔族の一人が、結界を張る。
「お前、何を!?」
直後。
闇夜を紅い光が照らした。
「おおっと、流石魔族。魔法の詠唱も速いんだな!」
「貴様.....生きて!?」
「危ない所だったぜ?」
ジェラルディンは大剣を構えて笑う。
大剣からは、赤黒い炎が噴き出していた。
「それは....魔剣か!?」
「いやぁ高かったんだぜ?」
「死ね、スマートファイア!」
「チェインライトニング!」
「グロットスピア!」
「やべっ!」
ジェラルディンは急いで魔法を回避する。
そして、二歩踏み込んで魔族の一人に肉薄した。
「おらぁっ!!」
「くっ!」
結界を張る魔族だが。
ジェラルディンは勝気な笑みを浮かべた。
「パワースラッシュ!」
「ぐ.....ぁあああっ!?」
結界ごと魔剣が魔族を切り裂き、鮮血が舞う。
「無礼んなよ」
「なんだ、その力はっ!」
「何、隠していた.....いや、ユカリが強すぎるだけか」
ジェラルディンは剣を腰に溜めるように構えた。
「フェニクスバーン!」
放った炎が、鳥のように変化し結界に衝突する。
「久しぶりだな、俺が俺でいられる戦いはよ」
ジェラルディンはニヤリと笑っていた。
そして、次の瞬間唐突に背後へと下がる。
「馬鹿め!」
「どっちがバカか、思い知らせてやる」
ジェラルディンは剣を持っていない左指を翳す。
「結界魔石!」
左指の人差し指に嵌めていた指輪が光り、飛んできた魔法を受け止める。
「俺とリュートはな、ユカリに比べりゃ弱いさ。そりゃな.......だけどな、人の枠の中では、そこそこ強いんだぜ? ――――ファナティックムーン!」
直後。
月が紅く光り、ジェラルディンがその月光を全身で浴びる。
「馬鹿な、その魔法は!」
「魔法じゃねぇよ、スキルだ!」
次の瞬間に、ジェラルディンは魔族の一人の前へと現れていた。
「ま、守れ!」
「クロススナッチ! ブランディッシュ!」
「ぎゃあああっ!」
ジェラルディンは魔族の一人を両断する。
その魔族は、抵抗する間もなく絶命する。
「俺とリュートはよく似てるんだ。ただし、それぞれ別の側面でな」
ジェラルディンは、素早く後退して呟く。
「何を世迷言を!」
「リュートは、剣の天才だ。対して俺は――――」
再び、ジェラルディンは姿勢を低くした状態で、魔族へと肉薄する。
「手加減が出来ねーんだ」
その剣が、振り抜かれる。
肉も骨も断ち、真っ二つに両断する。
「ぶ、ぶぁかぁな.....」
最後に残った一人。
彼は、自分の力に絶対的な自信を持っていた。
まさか、たった一人の人間に覆されるとは思わなかったのだろう。
「あ、これを言っておかないとな.......俺が人間全体だと思うなよー? 俺が天才だからって、全員がそういう訳じゃないからな」
「ば....化け物....」
「はぁ? 化け物?」
ジェラルディンは心底呆れたような顔をした。
「化け物ってのは、ユカリみてーのを言うんだよ!」
「し、死ね! アルティメットフレア!」
一つの魔法陣を素早く描き、魔族は赤黒い火球を放った。
ジェラルディンはそれを悠々と躱し、
「た、頼む! 命だけは!」
「言っただろ?」
ジェラルディンは魔剣から炎を噴出させ、魔族を焼き切った。
「俺は手加減が出来ねーから、剣士として三流なんだよ」
そしてジェラルディンは残心の後、遥か背後にいるシロを見た。
「少しは味方しろよ、駄犬」
「オン」
少しは強いと認めてやろう、とシロは軽く吠えたのであった。
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