Ep-632 パーティーの始まり
そして、ついに当日。
私は城内の控室で巫女服に着替えていた。
「........やっぱりこれ恥ずかしいな...」
「ユカリ様、素敵です」
「そ、そうかな....じゃあいいや」
自分でデザインを選んだとはいえ、人前でする格好じゃないよね。
巫女って言うから日本風のものを想像してたのに、実際は踊り子みたいな服装だった。
いくら温暖なセスティアでも、ちょっとこの格好は寒い気がするなぁ。
「お待ちしておりました」
「ユージーン、この格好はどうですか?」
「とても良いかと。少し奇抜に映りますが、王妃様であれば何をしたとしても許されるかと」
「.......ジルになんて言われるかな」
若干後が怖いけど....まあ、何とかなるよね。
リュート、ジェラルディン、アルセインの三人は既にお呼ばれしており、会場にて伯爵家から直々にもてなされている。
「ジルベール王が嫉妬なされる姿ですか...恐らくそれが本当にあり得るのならば、会場にいた人間は全員消されるかもしれませんね」
「...ですよね」
「誰だって伴侶の肌は隠しておきたいものですから」
まあでも、これもセスティアを救うための儀式の一環だ。
私は諦めて、会場に向かう事にした。
その頃、リュートは会場にて貴族達と会話を楽しんでいた。
楽しむ、と言っても実際に楽しんでいるわけではない。
グラスに注がれた酒は減っていないし、新鮮な野菜や海鮮を使った料理は手付かずのままだ。
「(つまらないな...)」
リュートは心の中で思う。
やはり貴族など、どこに行ったとしても利権の事にしか興味がない。
伯爵である自分にも、そういった話しかする輩がいないのは当然だ。
「(ジェラルディンに感謝しないとな)」
リュートに比較的少ない人数が集まっているのも、玉の輿狙いの令嬢をジェラルディンが惹きつけているからだ。
招聘された商人達は皆、アルセインの元で商談を兼ねた雑談をしている。
「そういえば、アルバン伯爵様は漁獲量の減少についてどうお考えですかな?」
「? ああ、把握はしているが...現状放置しても問題ないだろうと思っている」
リュートは投げかけられた質問に一瞬固まる。
無難な答えを返したが、相手の不信を買ったのは間違いない。
リュートが反撃の一手に出ようとした時、扉の前にいた護衛が叫ぶ。
「ユカリ・A・フォール様のご入場です!」
王妃様、などとは言わなくても分かる。
出世に必死な貴族なら誰でも知っている事だ。
「...!」
その声を、リュートとは別の感想で迎えた人間がいた。
エルドリアン・ラシン・セステアである。
彼にとって、ユカリは生まれてきてから会った数人の異性の中でも一際輝く存在であったのだ。
母親やメイドなど、もっての外。
その優しさに愛しさを覚えたことはあれど、メイドに好意を持って仕舞えば叱られてしまう。
しかし、ユカリは違った。
彼にとって、「恋してもいい対象」であり...
「きれいだなぁ...」
そんな感想を抱かせた。
だが、そう思わない人物もいるようだ。
座っていた椅子を跳ね除け、叫んだのは...
「バカな!」
「伯爵様! 落ち着いてください!」
「これが落ち着いてなど居られるものか! これが...!」
アルベルト伯爵とて、満月の巫女の存在を知らないわけではない。
むしろ、ルーンを育てた自分の祖父は、その存在を絵や文章に残していた。
自らの祖父が信仰した満月の巫女の格好を、よもやその巫女を見捨てた王家に類する人間にさせるとはと、憤ったのだ。
人の尊厳を踏み躙り、嘲り笑う行為だと。
その視線を受けたユカリは...
「...ぐ!」
挑戦的な笑みで返した。
伯爵はその笑みを嘲りと踏んだが、すぐに嘲りではないと判断する。
これは宣戦布告なのだと。
ルーンについては過去に過ぎ去った歴史の1ページであり、現代を生きる者が気に留めるものではないのだと。
「...ならば、示してみるがいい」
アルベルト伯爵は佇まいを正し、椅子に座る。
そして、自らの息子とユカリが話を交わすのを見つめていた。
「あ.....あの!」
「ええ、今日はよろしくお願いしますね」
ユカリはエルドリアンと握手を交わすと、広間の中央に進み出た。
本人としては隅に下がっておきたいのだろうが、このパーティーの主役はエルドリアンだ。
よって、中央にて貴族たちに挨拶をしなければならない。
「エルドリアン様、ご立派になられましたな」
「は、はい...えーと....」
貴族の名前を思い出せないエルドリアンに、ユカリが耳打ちする。
「...ミルデン子爵家の方ですよ」
「ミルデン子爵様、どうもありがとうございます、じ、次期当主としてこれからも励みます!」
「ええ、楽しみにしておりますぞ」
貴族は列を作り、順番にエルドリアンに挨拶をする。
このような場では挨拶しかできないが、互いに面識を持っていればいずれは.....という訳である。
当然ユカリも、その余波を受けるわけだが...
「リュート!」
「ああ、来たぞ。......綺麗な格好だな」
「そ、そう?」
リュートに格好を褒められ、ユカリは安堵する。
どうやらそこまでおかしい格好ではなかったのだと。
「ああ。普段だったら派手すぎるかもしれないが、パーティーなら許されると思うぞ」
「そうだよね、やっぱり」
即座に否定され、ユカリは少し落ち込む。
普段からすれば奇抜だが、祝いの場であるので目に留まるほどのものでは無いのだ。
「王妃様、お飲み物をどうぞ」
「ええ、ありがとう」
ユカリとエルドリアンは渡されたグラスを持って歩く。
一通り挨拶が終わると、ユージーンの指示で机が端に片付けられる。
「それでは、余興と行きましょう...エルドリアン様、私の手を」
「は...はい!」
演奏団が前面に出て、ユカリとエルドリアンが広間の中央で手を取り合う。
今から始まるのは、ユージーンによる「貴族式:満月の舞い」である。
静かな曲調の曲が流れ始め、ユカリはエルドリアンにリードされて動き始めるのであった。
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