Ep-612 〈人化〉?
その頃。
ブラックルーンドラゴンはシリルと睨み合っていた。
ブラックルーンドラゴンの魔力は3割程度減少し、シリルの呪力はほとんど減っていない。
ただし、シリルの目からは狂ったような怒りが消え失せ、代わりにシリルが封印によって失った感情が燃え滾っていた。
「アハハ、ハハ、ハハハ!」
「不気味に笑うな...もっと楽しげに笑えぬのか?」
ブラックルーンドラゴンは不満げにつぶやく。
直後。その背後から何かが襲い掛かる。
「ギギ.....ギギ!!」
「洒落臭い!」
ブラックルーンドラゴンはそれを引き剝がし、ブレスで焼き滅ぼす。
「アマノジャクか」
先程シリルが召喚していた式神であった。
だが、天邪鬼は死体から増殖しブラックルーンドラゴンを覆っていく。
「ふざけた真似を......!!」
ブラックルーンドラゴンは上空に飛び上がり、前足で魔法陣を描いた。
そして、黒い魔弾の雨が天邪鬼に降り注ぐ。
だが、天邪鬼は死ぬたびに増えていく。
そして、合体し巨大な姿となる。
「クッ.....」
天邪鬼とは、ブラックルーンドラゴンの”恐れ”を食らって増殖し、姿を変えて襲い掛かるのだ。
シリルを殺してしまったら?
そんな恐れが、天邪鬼をより強力にしていた。
「グオオオオオオ!!!」
ブラックルーンドラゴンは天邪鬼に圧し掛かり、その腹を食い破る。
だが、天邪鬼は傷口からさらに増殖し、二体になってブラックルーンドラゴンを取り囲む。
「(迷いがあるというのか.....我には)」
ブラックルーンドラゴンは口腔に黒い光を収束させ、一気に放つ。
「グオオオオオオオッ.......!!」
ブラックルーンドラゴンは首を動かし、まるで剣のように天邪鬼を袈裟斬りにする。
もっとも、それが致命傷になることはなく、天邪鬼は更に三体になりブラックルーンドラゴンを取り囲む。
そして、群体へと戻りブラックルーンドラゴンに絡みついた。
「は、離せ!」
ブラックルーンドラゴンはもがくが、天邪鬼はその数を増やして彼を飲み込んでいく。
「アハハハハ!! 楽しい!!」
「――――なに、が......」
ブラックルーンドラゴンは視界が埋め尽くされていくのを感じる。
そして、その身体は完全に天邪鬼に埋め尽くされた。
動くこともできない。
「せめて....人化できれば.....」
ブラックルーンドラゴンは後悔する。
自分が人化を習得できなかったのは、力不足などではなかった。
慢心していたのだ。
自らの強さをもってすれば、あらゆるものを守ることができると。
だがしかし、その巨体にも恐れはあり――――こうして敵にそれを利用されてしまった。
「ホロリン.....貴様が何故人化を覚え、何故裏切ったのか.....我はようやく理解したぞッ....!!」
ブラックルーンドラゴンは目を瞑った。
全身を侵食しようとする天邪鬼を無視し、その身体の内に意識を向けた。
「我の.........本質は何だ?」
魔物は魔技を習得することができる。
それは何故か?
――――望んだからだ。
「人ではダメだ」
主は人の姿を取ることができる魔物であったとしても、傍には置かない。
ならば、主人の隣に立つことのできる資格とはなんだ?
ブラックルーンドラゴンは考え、答えを導き出した。
「我は巨体と力強さを捨て...小さくも凛々しき強さを手に入れる! 変体!!」
人化とは違う魔技が、ブラックルーンドラゴンの内に芽生えた。
それと同時に、ブラックルーンドラゴンの身体は黒い粒子となって消滅し、その中心に一匹の黒猫が現れた。
「む...我の思っていたのとは少し違うのだが...まあ良い」
ブラックルーンドラゴンは獅子を想像していたのだが、黒き獅子のイメージが薄かったために近しい黒猫になってしまった。
彼はそれを気にした様子はなく、そのままその背の翼をはためかせ、天邪鬼の群れを突破する。
「ふむ...小さな体であると、魔力消費は少なくて良いな」
ブラックルーンドラゴンは感心したように呟く。
結界などは自分の巨体をカバーするために膨大な魔力を使っていたが、子猫の今の姿であれば消費は最低限に抑えられる。
「...か、わいい...」
「我に惚れたか? ならば、追うが良い。貴様の気が済むまで、な!」
「捕まえるっ!!」
直後、シリルはブラックルーンドラゴンの真正面に現れた。
ブラックルーンドラゴンは流し目でシリルを見ると、遠くに逃げ出した。
「式神召喚、霊鬼っ! あの猫を追ってっ!」
『ヴェハアアアアア...』
シリルは召喚した巨大な頭蓋骨に乗りブラックルーンドラゴンを追う。
ブラックルーンドラゴンは空間を引き延ばして距離を稼ぎ、魔力を纏って反転する。
「――――〈闇夜煌路〉!!」
本来であれば竜体全体を魔力で包み、音速で突進する技である。
だがそれは、命中率のわりに魔力の燃費が悪い側面を持つ。
「まさか、コントロールまで効くとはな!!」
シリルはブラックルーンドラゴンを躱すが、ブラックルーンドラゴンは魔力を纏ったまま直角に上昇、落下を生かして角度を変えシリルに再度突撃する。
まさか反転してくるとは思わず、シリルはその身体に突進をまともに喰らった。
「グッ.......!?」
「まだまだぁ!!」
ブラックルーンドラゴンは更に反転、急降下にてシリルに直上から頭突きをかます。
シリルはたまらず、着地して逃げ出す。
「逃がさんぞ!」
翼を真っすぐに広げ、ブラックルーンドラゴンは音速を越えて飛翔する。
流石のシリルも、音速で飛翔するブラックルーンドラゴンには追随を許してしまい――――
「あの三人に全てを委ねるのは聊か悔しいものだが――――行くぞ!〈闇夜吶喊〉!」
ブラックルーンドラゴンが纏う魔力が、これまでより強く輝く。
昏い光が膨れ上がり、ブラックルーンドラゴンがより速く加速した。
そして――――ブラックルーンドラゴンはシリルに向けて流星の如く体当たりをかました。
「グオオオオオッ!!!」
「ギャアアアア――――!!」
轟音と衝撃波が空間を揺らし、闇域の床に巨大なクレーターが発生した。
「グ........ど、どうだ....!」
闇域が揺らぎに耐えきれず崩壊し、ブラックルーンドラゴンとシリルは元の空間へと戻ってきた。
ブラックルーンドラゴンの姿はそのままだが、シリルは退化して元の姿に戻っていた。
もっとも、しばらくは戦えないだろう。
それはブラックルーンドラゴンも同じだが。
「.....全く、ユカリ様にだけは知られたくないものだな.....」
ブラックルーンドラゴンは気だるげに黒珠形態へと戻り、その場に倒れ込んだのであった。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




