Ep-502 対ドミニオン攻略戦 part2
雨の中、轟音が響く。
G・O・S.......ゼーレが、ドミニオンを殴りつけた音である。
空は晴れているが、未だ雨が収まる気配はない。
「今だ!」
「ガアアアアアアアッ!!」
ゼーレが身を屈め、背後からブラックルーンドラゴンが現れた。
その口には、黒い球体があり――――直後、幾何学模様を描いてそこから黒い波動が放たれた。
ブラックルーンドラゴンのブレスはドミニオンを撃ち据え、その身体に凹みを入れる事に成功した。
「やりますな、ブラックルーンドラゴン」
「G・O・S殿こそ」
しかし、小さな凹みだ。
今のブレス、ブラックルーンドラゴンの全力だとすれば、結構な時間が掛かる。
「だから、私も頑張らないといけないんだよね――――クリエイトウェポン、指揮杖タクティカルワンド! スキルセットチェンジ、セットコマンダー」
私はスキルを〈司令官〉に入れ替え、スキルを使う。
「サモン・シップ!」
空を飛ぶ船が作り出され、砲門をドミニオンへと向ける。
昔はこれで旅をできないかと思ったものだけれど、このスキルは船を持たない武器使いの為のオリジナルスキルで、作った船はすぐに消えてしまう。
「砲撃――――開始!」
轟音を立てて、船の砲門が火を噴く。
放たれたのは、インベントリにあった「ミスリルの砲弾」。
今世では作ることが出来ない為、在庫の1300発を使い切ればもう二度と使えない。
アダマンタイトの砲弾2000、オリハルコンの砲弾1500、ミスリルの砲弾1300、鉄の砲弾898、鉛の砲弾211発が残弾になる。
「サモン・シップ! サモン・シップ! サモン・シップ!」
次々と船が現れる。
その形は、かつて私と肩を並べてランキングを競い合った友人たちの船と同じ。
性能まではコピーできないが、見ていて少し懐かしい。
「一斉砲撃!!」
船団の砲撃がドミニオンを打つ。
しかし、ミスリルの砲弾ですらドミニオンにダメージを与えられていない様子だ。
「砲撃中止! 次弾装填!」
私は杖を振るい、砲弾をオリハルコンへ替えるように命じる。
直後、ドミニオンの顔がこちらを向いた。
「――――ッ!」
寒気を覚えた私は、その場から跳躍した。
直後、閃光が私の乗っていた船を貫く。
「あー......」
貫かれた船はそのまま真二つになり、光の粒子となって消えた。
「これが本物だったら、一生口をきいてもらえなかったかもね」
私は遠くに置いてきた仲間たちの事を思い出す。
彼らは船をとても大切にしていて、ボス戦にはわざわざ失ってもいいカスタム船を持ち出すほどだった。
今貫かれたような目に遭えば、引退を決意するだろう。
それが少しおかしくて、私は微笑んだ。
「――――――一斉砲撃!」
残った船から、砲火が上がる。
凄まじい反響音を立てて、ドミニオンが後退る。
その身体には、無数の凹みがついていた。
「.....陣形変更、砲撃対象変更!」
再び放たれる光線を誘導しながら、私は急いで攻撃を支持する。
船団が狙うのは、ドミニオンの頭部。
身体は堅いが、頭部ならもしやと思ったのだ。
「...........ダメか」
しかし、次の瞬間、
ドミニオンの眼を囲んでいた三つの長方形。
そこから放たれた無数の魔法弾が、船団を襲った。
一瞬、船団の弾幕と魔法弾が交差する。
「ッ!」
魔法弾が船団に着弾し、殆どの船舶は撃沈または破損して消滅していく。
「このままじゃキリがないか........」
私の魔力は無限じゃない。
三氣相剋は負担が大きいうえ、一度の魔力に使いきるには得られる魔力が多すぎる。
「アラドが居ればいいんだけどな...」
アラドの無限魔力炉があれば、超位魔術を連発できる。
とはいえ、無いものねだりは出来ないよね。
「なけなしのMPポーションっと」
ダンジョンで作っているとはいえ、素材が手に入りにくいのもあって生産数は少ない。
私はちょっと躊躇いつつも、中身を飲み干した。
即座にMP.....魔力が回復していく。
「よし、行こう」
私が翼を広げ、移動を始めると、ドミニオンもまたその動きを追う。
しかし、伸びた腕が胸ぐらを掴んだ。
「どこへ行くのだ?」
ドミニオンの頭部が光り輝く。
ゼーレを攻撃しようとしているのだ。
「ふんんぬううううううううあ!」
ゼーレはそのままドミニオンの足に自分の足を引っ掛け、胸元を掴んだまま地面に叩き付けた。
大外刈りである。
轟音と共に凄まじい衝撃が巻き起こり、瓦礫の山と化したドミニオムに無数のクレバスが走る。
「.........」
それを尻目に、私は魔法陣を構築する。
魔法陣に突き立てられた魔皇剣の属性は土。
「〈虚王破城槌〉!」
大地が盛り上がり、一つの石像が姿を現した。
その石像は黄金で作られたハンマーを持ち、それを倒れたドミニオンに叩き付けた。
破砕音がして、ドミニオンの背中が大きくへこむ。
「まだ壊せないか...!」
へこむだけで壊れない素材、凄いなあ...
結構重そうだけどね。
「ん、素材...?」
その時、私は唐突に閃いた。
あれが金属の塊なら、〈虚王錬変〉で中に入れるんじゃ?
「〈虚王鑑金眼〉」
私は魔眼に魔術を重ね、ドミニオンの全体を見る。
すると、不思議なことに足の付け根、一番重要そうな場所の組成が脆弱になっていた。
「.........行こう!」
私は一気に急降下し、ドミニオンに向けて低空飛行する。
ほぼ同時に、ドミニオンから無数の霧の衛兵が現れた。
『護............様.........ル』
『.........除......許......』
『滅......支......姫.........』
ノイズの掛かった言葉を発しながら、それらは一斉に向かってくる。
まともに相手をしている暇はない。
どうしようかと迷った時、霧の一団に黒いブレスが突き刺さった。
「ブラックルーンドラゴン!」
「ユカリ様のお通りだ、道を開けよ!」
ブラックルーンドラゴンは私と並走し、次々と現れる霧の衛兵を蹴散らしていく。
『無...............』
『.........北......』
『...出来.........』
消滅していく衛兵たちは、悔しさでも怒りでもなく、皆後悔に顔を染めて消えていく。
それが少しだけ、私にとって辛かった。
「さぁ、早く!」
「うん、ありがとう!」
城のような大きさの脚に辿り着いた私は、その付け根に潜り込む。
「〈|虚王錬変〉」
そして、活路が開かれた。
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