Ep-06 学園、そしてこの世界について
(11/10)ちょちょっと手直し
(22/10/5)内容を大幅に改定しました。
後日。俺は父さんの執務室に呼ばれていた。
理由はなんとなく察せられる。ゲーム中ではいい夫婦としての設定だったが、
実際は俺が怖くて仕方がないはずだ。”今まで見せなかった”強力な力を持ち、そしてそれを”今までとは比べ物にならないくらい”自由に操る。さらに、“急に変わった”振る舞い。
そう、後で判明したのだが、ユカリは...なんと女だったのだ!
ゲーム中の性別は確かに女性にセットしていたが、現実となった時にそれが適用されてしまっていた。元はなんかボクっ娘だったらしい。
なんでもいいけどスカートとか股間がスースーして変な感じだ。
今はとりあえずクローゼットにあったズボンを着用している。
「———それで、お前の事なんだが...」
「はい(来た...!)」
「お前のその力は正直言って俺たちの手に余る。だから————」
「(勘当イベント来たー!しかしそんなんアリかなあ...)」
「アルマージ魔法学院にお前を入れることにした。」
「え?」
一瞬、固まった。追い出しイベかと思ったら、まさかの学園生活イベの始まりだった。まあ、別にイレギュラーではない。本来のイベントの流れでは、主人公は自暴自棄になっているところでアルマージ魔法学院への招待状を見て、興味を持つ。
...だが、大体の職業ストーリーで全員が行く場所なので、実質チュートリアルである。
「それは、どういう意図で?」
「お前が何かに目覚めたのなら、こんな場所で燻っている暇はない、学び、そして何かに気づくといい」
俺が魔法学院に行かなければいけない意図を聞くと、父はそう答えた。
言外に、「お前も政略結婚なんかで道具として使われるの嫌だろ?」と込められている。
「だからって、魔法学院に追いやるの?」
「ああ、そういうわけではない。誤解するな、だから魔法学院に行って婿を見つけて来い、という話だ」
「そういう事なら...」
どうやら俺の心配らしい。
それならば、問題ない。本来のイベントチャートとあまり変わらないからな。
「わかった。お父さん、僕は魔法学院に行くよ」
俺はそう宣言した。
◇◆◇
俺は書斎で本を読む...ふりをしてメニュー画面にあるヘルプを読んでいた。
この世界の一般常識がオークストーリーのものと相違ないかを確かめている最中である。しかし、今のところ変わりはない。強いて言えば、国の歴史がちょっと濃くなっている感じだけかな。
「ふふ、ユカリ様は勉強熱心なのですね」
「別に、それほどじゃない」
「お茶のおかわりをお持ちしましたよ」
時々メイドが褒めてくれる。それに謙遜で返すと、誤魔化してしまう。
見事な対応である。一定以上の関わりを持たず、それでいて丁寧に給仕する。
俺はメイドが淹れてくれたお茶を啜る。
...紅茶じゃない、緑茶や
見た目はどう考えても紅茶の緑茶だった。
「...これってなんて名前?」
「アルボン地方産のミルウェイ茶ですよ?」
わからん...が、ゲーム中でも登場していた地名ではある。
ヘルプを見てみると、田園地帯が広がる温暖な土地らしい。
そういえば、アルボン地方といえばレイドボスの舞台にもなったな。
まだお茶が来ているということは暗黒帝王の天空牙城はまだ墜落してないのかね?
「メイドさん」
「はいはい、なんでしょう?」
「このお茶、持って行きたいから確保しておいてもらえるかな?」
「確保も何も...屋敷の倉庫にいっぱいありますけどね」
「あれ...?そうだったかな」
「ええ。御館様のお気に入りでしょう?」
ユカリのストーリーについては知り尽くしていたが、その更なる詳細についてはよく知らなかった。ましてや父親の好みなど分かるわけが無い。
いや、フレーバーテキストをしゃぶり尽くすように調べればそれもわかったかも知れないが、生憎俺はそういうプレイヤーでは無かったから...
「と、とにかく...僕はこれから鍛錬に行ってくるから、お茶を荷物に入れておいて」
「承知しました。あ、ちょっとだけ貰ってもいいですか?」
「一杯分だけなら誰も気づかないと思うし、いいんじゃない?」
「ありがとうございまーす! あ、外ってどこらへんですかー? あ、待ってください!」
「ちょっとそこまで~!」
俺は速攻で誤魔化して、外に飛び出した。
鍛錬かぁ...、この周辺の狩場ってどこがあったかな…?
あ、そうだ。レベル10エリアの火焔底窟があったな。ここから近い所にある、溶岩脈が近い場所にある洞窟だ。魔力が滞留してて、火炎系の魔物が棲息しているという設定だったはずだ。
ちょっと厄介な敵が多いけど、序盤にしては経験値効率は良かったかな。
そんな事を考えつつ、ドアを開けた。
外の風が屋敷に吹き抜け、光と共に外の光景が露になった。
「うわ...」
辺り一面は田園が広がっており、遥か向こうに樹海が見える。
森ではなく、もはや樹海である。そして霞むほど向こうには、山々が聳え立っていた。
辺りは都会の喧騒ではなく、大自然の静謐に溢れていた。
ゲームの時に1回見たけれど、これだけはやっぱり見飽きないな...
俺は風を切って走り、目的の場所を目指した。
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