Ep-298 作戦の本意
今日は早めです。
また、迷宮胎動編の章分けは削除しました。
「え? ギルドマスターに会いたい、ですか?」
「はい」
「まあ、Bランク冒険者であるユカリ様なら可能ですが…」
虐殺するとは言ったものの、それは中に入った者だけ。
外にいるものを無意味に虐殺するほど、私も非情じゃない。
以前の討伐隊を葬ったように、必要な犠牲は払ってもらわなければいけないけれど。
私のダンジョンを恐ろしく、近寄り難いものと認識してくれればいい。
最終的には中に入れば死ぬが、外まで魔物が出てくることはないダンジョンを攻略しようとするバカは村八分にされるだろう。
これが、表層に浮上してしまった私のダンジョンを守る術だ。
「はぁ? S-08ダンジョンの攻略をやめて欲しいと?」
「はい、あそこは危険な場所ですから......以前私が訪れた時は、入り口で瀕死にされましたわ」
「入り口で瀕死に!?」
「余計な死者を減らすためにも、やめておいた方がいいと思うのです」
「.......話は分かりましたが、あなたはBランクですので、Aランク冒険者なら無事に突破できるかもしれません」
「お話が見えて居ないようですね、私は手を引いて欲しい、そう言っているのですよ?」
「ならばこちらも本音を言いましょう、何百人死のうと、それほどのダンジョンに眠る宝物を我々冒険者ギルドは諦めるつもりはありませんな」
ギルドマスターは、下卑た笑いを浮かべて言った。
まあ、だよね。
このギルドマスターは、禄でも無いからな。
暗黒帝王の天空牙城が落下した時も、欲望のままに冒険者を向かわせて最悪の結果を招いた。
そして王国に断罪される運命だ。
彼の野望は、ダンジョンから出る魔道具を使って王国を支配することだ。
到底現実的じゃないけれど、教養がなく金とコネだけでギルドマスターになったこの男にはそれが実現可能に見えているのだ。
「はぁ.......どうしようかな」
ギルドを出た私は、ため息を吐く。
このままでは人間が大量に死んで終わる。
近寄り難いダンジョンで済めばいいが、最終的に人類の敵になってしまう可能性もある。
ダンジョンを封鎖することも考えたが、完全に封鎖することはシステム上できないようだ。
入り口を限定することは出来るが.........
『悩んでいるようだな、お嬢さん。恋の悩みか?』
「違うよ?」
その時、背後に神聖陣が開き、そこから嫌味なイケメンが姿を現す。
『だろうな、貴様は容姿こそいいが、どうも鈍臭くて敵わん』
「誰が鈍臭いって?」
『怖い怖い』
私は神を召喚できるようになった。
もっともインターホンのようなもので、向こうが応じてくれないとダメなのだが。
太陽神は何故かこの法則を無視して、勝手に現れる。
「私の悩みを聞いてくれそうな神も居ないしなー」
『.......居るには居るぞ?』
「教えて?」
『.........俺より美男だぞ? お前を奪われたくない』
「好きでもないのによくもそんな事言えるね」
『いや、冗談だ.......』
太陽神が項垂れる。
ちょっときつく言っちゃったかな?
仮にも相手は神だし.......
『まあ、俺様が人間に言った言葉は諺になっている様だ、「夜明けを待て、さすれば答えは訪れよう」....事が起こってから考えたほうが良いのではないか?』
「......そうだね」
この太陽神、意外と頼りになる......?
『まあ、分からないことは最高神に聞くがよい、全能者ではないが、やつは人を導く智慧に長けているからな』
「ありがとうございます」
困ったら最高神を呼べって事か。
私は安堵して、アレックス邸に戻った。
戻ると、ジルが居た。
何の冗談だ、と思ったが、どうやら幻影ではない。
「ジル、何の用?」
「用が無くては来てはいけないのか?」
「それは........」
「まあそれはいいとして、ユカリよ......そろそろ王宮に住まないか?」
「王宮に? それはいいけれど.......どうして?」
「それは勿論、この家に住んでいてはアレックス伯爵とユカリ、両方の立場が危ういからな」
「それは確かに.......じゃあ、王宮に引っ越そうかな」
アレックス邸にはお世話になったけれど、私はもう次期王妃だしね......
アレックスにはちゃんとお礼を言って、心残りなく引っ越そうかな。
『して、汝如何なる知恵を我に乞う?』
「.................私が現在直面している問題について、アドバイスを頂きたいんです」
『ふむ........互いに譲る事が出来ぬが、どちらかが譲らねば終わらぬ争いか.........ならば、その中心に汝が赴け』
「私が.......ですか?」
『そうだ、人間側と魔物側、両側に立って争いを鎮めよ』
「.................分かりました」
最高神のお導きなら仕方ない。
恐ろしい難易度だけど、やってみよう。
「ヒアデス、聞こえる?」
『はい、何用でしょうか?』
私の付けている腕輪はヒアデス=ウルの身体の一部だ。
様々な機能があり、ダンジョン全体への通信からダンジョン内部への直接転移、ダンジョン結界の管理などが出来る。
こうしてダンジョン内に安置されているウルとも会話が出来る。
「作戦会議で決めた通りの事を実行していい.....けど、私が割り込むからくれぐれも魔法に巻き込まないでね」
『伝達します』
ヒアデス=ウルはゲーム内でも登場しなかった、魔導技術、錬金技術、魔法技術の融合体だ。
デッドアクシズと同じく参謀役だが、ウルはデッドアクシズよりも頭がいいらしい。
頭がいいというのは直接的な表現だが、単純にウルはあの身体の中にスーパーコンピューター一部屋分丸々を持っていると言っても問題ない。
空間魔術によって歪曲・縮小された魔法陣を何百、何千と重ね高速の演算を可能にしているのだ。
それをウルという魔導思考体が操っているのだから、ほぼほぼ決戦兵器だよな。
なんか波○砲みたいな事も出来るらしいし?
「ウル、〈星繋魔金門〉」
『了解』
人間は転移を複数回行うと転移傷が出来る。
その弱点を補う機能も、ウルには搭載されているのだ。
それが〈星繋魔金門〉。
腕輪から魔法陣が展開され、そこから流体金属が噴き出す。
金属は私より少し離れた場所で二対の金属構造体に変化する。
その後、魔力を周囲から吸収して二対の金属構造体、その間に黒い穴を作り出す。
一見攻撃魔法だが、まあこれが門だ。
私がその中に足を踏み入れると、一瞬にしてダンジョン第十階層に飛ぶ。
背後を見ると、黒い穴が収縮していくのが見える。
その穴が消える直前に、流体金属が飛び出してきて、ウルの腕輪が展開した魔法陣の中に消える。
「やっぱり便利」
テレポートやポータルアローはダンジョンの転移妨害立体魔法陣に阻まれてしまうので、こうして直接飛べるのは便利だ。
私はパレス・ユニオン.......パレスユカリは恥ずかしすぎたので改名した.......に向けて歩き出した。
「ギルドマスター、手筈が整いました」
「よくやった、報告を訊こう」
「はっ、王国軍を説得し、冒険者だけで攻略を行うことを取り付けました。更に、臨時特例として冒険者の回収した魔道具については鑑定の為にギルドへの報告・引き渡し義務、それが危険だった場合、ギルドで押収する、という方向に持っていきました」
「よろしい」
「それで..........その、貰えるんでしょうか?」
「ああ、勿論だとも」
ギルドマスターは、給金や報酬にしては明らかに多い額の入った袋を机に投げ出す。
「王国を支配できそうな魔道具が手に入るやもしれん、こんな端金などくれてやる、フフフフフ、愚かな王族など断罪して、俺が真に望む、全てが俺の為に生き、そして死ぬ国を作るのだ.......!」
ギルドマスターは、静かに笑った。
その傍らでは、その言葉など耳に入っていないサブマスターが、溢れんばかりの白金貨に目を輝かせていた。
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