Ep-762 結界狼と魔術師
転移した直後。
ベルとシロは同じ場所に転移してくる。
地面に転がったベルを、シロは心配そうに見る。
「クゥン.....」
そして同時に、地響きと共に魔力が動き出す。
魔力を感じ取れないシロでも感じ取れるほどの魔力が動いているのだ。
『人間と....魔物のあなた方には、神の裁きを――――』
空間にパレシアの声が響き渡る。
そして、天井からゴーレムが落ちてきた。
そのゴーレムは白銀の輝きを纏い、その拳を以てベルに攻撃を仕掛けた。
「アオォオオーーーンッ!」
シロが遠吠えすると、結界が生み出され、その拳を受け止めた。
巨人は引き続き、その結界に拳を叩きつける。
だが、何度やっても無駄である。
シロの結界は、流れ弾とはいえ神の一撃すら受け止める。
「オン.....」
しかしながら、永遠に張って居られるわけではない。
それを知るシロは、ベルを前足でひっくり返すと、その顔をぺろぺろ舐め始めた。
「っ、ひゃっ、つめ、冷たっ!?」
「ワォン!」
「ああ.....シロ、どう.....冷たっ!」
ベルは強引に起き上がると、シロを撫でまわす。
満更でもなさそうにシロは小さく呻く。
そしてベルは、結界を叩くゴーレムを見た。
「.....起こしてくれたのね、ありがとう」
ハンカチで顔を拭くと、ベルは周囲を見渡す。
魔杖ダンタリアンがない。
即ち、
「持っててよかったわ」
ベルは〈空間収納〉より一本の古びた杖を取り出す。
その名は「古代魔杖」、ユカリから貰った古武器シリーズである。
「教えてあげるわ、私がダンタリアンなしでどこまでやれるか」
その杖の先端から、魔法陣が描かれる。
ベルは、ダンタリアンの言葉を思い出す。
『力なき魔族は、自らの魔力を練り上げた上で魔杖を創り出す術を知っていた。お前にもできる筈だ、出来ない筈がない』
エンシェント・ワンドを起点に、自分だけの魔杖――――外付けの魔力補助道具を作り出す。
今は結界があるため、その時間は充分にある。
「この際、デザインはどうでもいいわ。使えればいいんだから」
そう言いつつ、杖の形状は元のエンシェント・ワンドの形状に似せて形成される。
その術式には、終わりがない。
終わりとは、詠唱の完了を指す。
「私の役に立ちなさい、〈魔杖創造〉」
完成した魔杖を握り締めたベルは、シロの上に跨る。
「シロ、戦えるわね?」
「ワォオオン」
シロがひと咆えすると同時に、結界が消え去る。
それを狙い、ベルは待機していた魔法陣を起動する。
「ノワール・チェインバインド!」
地面の陰から黒い鎖が飛び出し、ゴーレムの身体を拘束した。
だが、ゴーレムの身体が光り輝くと同時に、魔法の効果が打ち消された。
「嘘っ!?」
「アォオオオオーーンッ!!」
シロが咆え、ゴーレムの殴打を結界が受け止めた。
「魔力が効かないのか、それとも打ち消すのか.....確かめないと分からないわね」
「クゥン」
「〈替智魔術時針〉!」
ベルの背後に、掛け時計と砂時計が組み合わさったような形状の魔力構造物が出現する。
それと同時に結界が消え、シロはゴーレムの背後に回っていた。
「〈閉鎖領域〉、ウォーターフォール! コキュートス!」
複数の魔法と魔術の連続行使。
替智魔術時針により可能とされた複合魔術陣で、ゴーレムは閉鎖領域の中で凍り付いた。
だが、また光り輝くと同時に閉鎖領域と氷が消え去る。
「やっぱり、無力化してるわけね.....」
知りたくなかったことを知ったベルは、悔し気に歯を噛み締めた。
だがすぐに、次の魔法陣を組み上げる。
ユカリほど速くはなく、効率的でもない。
だが、ベルの魔術はただの人間の中であれば最高峰と言えるものだ。
「魔法がダメなら、足場を崩してやればいいわ! グランドクラック! ソイルスワンプ!」
ゴーレムの足元が砕け、その直後に流体化して液状へと変化する。
足を取られたゴーレムは、その膝を折って沼の中に半ば沈み込む。
「...私にも魔眼があれば、楽なのよね...〈調査狗鳥〉」
結界を抜け、数匹の魔力でできた鳥がゴーレムを取り囲む。
何をしているのか? それは、ゴーレムの魔力の核を探っているのだ。
ゴーレムには必ずコアがある。
そこを破壊すれば、停止させられる。
「オン!」
「何か来る...?」
その時。
ゴーレムの全身が輝きを帯び、次の瞬間光が視界を埋め尽くした。
その光によって、周囲を飛んでいた鳥はまとめて消し飛んだ。
そのフィードバックを受け、ベルは頭を抑える。
「ぐっ...」
鼻血を出しながらも、堪えるベル。
そして、叫んだ。
「そこよ! 〈轟雷砲〉!」
ゴーレムの魔法打ち消し効果を破るように、魔王の魔術が放たれる。
事実それは、ゴーレムの打ち消しを突き破り、左胸を撃ち抜く。
そこから、魔力コアが露出する。
「やった!」
『聖なる兵士に唾を吐く真似をする背教者よ、聖なる力により貴方を罰します』
だが、同時にその傷は即座に修復され、壁面から小さいゴーレムが何匹も現れて、結界を襲い始めた。
破壊できないと知るや、光と共に自爆した。
「グルルゥッ!!」
結界にヒビが入った。
ベルは限界と知り、
「走って、シロ」
と呼びかけた。
結界を消したシロは駆け出す。
その背で、ベルは考えた。
「修復には少し時間がかかる...だから、その間を取れば破壊はできる...けど、コア自体修復可能だとしたら、全体を破壊しないといけない...コアを破壊すれば守りは失われると考えて...私の魔力も残り少ないわけだし...」
「ワォン!」
「わかってるわ、シロ! 再展開!」
「アォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
先ほどより長く、シロは咆哮する。
その瞬間、ベルはある魔術を使った。
結界は展開されず、シロは走り続けている。
壁から飛び出した小さいゴーレムが、走るシロに追いすがり、爆発するが...
それらをシロは悉く回避し、ベルは〈轟雷砲〉で攻撃するものの、ゴーレムには効いていなかった。
『ああ、なんと無益な労力。堕ちた神の取り巻きたる背教者と魔物は、ここで裁きを受けるのです』
『自業自得』
『自業自得』
『自業自得』
天井から、壁から声が降ってくる。
そんな中、ベルは笑った。
「あら、無益? 労力? こんな簡単な魔術に騙されるなんて、程度が知れるわね?」
と。
途端、周囲の風景が変化する。
走っていたシロとベルの姿が消え、ゴーレムの反対側にベルが出現する。
『はっ、幻術。背教者の考えそうな児戯です。そのような愚かな考えもまた、裁きを遠のかせるだけの足掻きに過ぎません』
「裁き? 違うわよ」
ベルはシロの背の上で、杖を横に構えて不敵に微笑む。
その周囲で、魔力が渦巻きながら、巨大な魔法陣の姿を顕にする。
「裁くのは私! 行きなさい、〈絶対破壊轟雷球〉!」
稲妻と共に魔法陣が砕け散り、紫電の雷球が放たれた。
それは、ゴーレムの放つ光を一切無視し、その体に直撃する。
『馬鹿な...あり得ません、あり得ない! あなた方の魔力では不可能です!』
「そうよ、ちょっと無理したけどね」
ベルは口から漏れる血を、ペッと吐き捨てた。
雷球はゴーレムの身体とコアを破壊した後に炸裂し、空間そのものを雷撃で埋め尽くす。
『...ですが、あなたも死ぬ! 愚かな背教者に相応しい末路です』
「忘れたのかしら」
幻術が解け、ベルの周囲に結界が現れた。
稲妻が壁中に張り巡らされた立体魔法陣を粉々に打ち砕き、魔力波を無理やり遺跡内部の魔力回路に流し込み、内側から破壊していく。
「私もユカリも、やることの本質はそう変わらないわよ」
そして、天井と壁と床が、同時に爆散する。
その中で、ベルは断言した。
「力押しよ」
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