Ep-09 アスキー
複数の話に分けるとどうしても文字数短くなるのなんとかしなきゃな...
(11/10)アスキーの屑度を上げました
(2022 3/24)アスキーの表現を少し修正。
食堂に着くと、そこには十数人の人がいた。
ぼっち旅かと思ったが、客室に入らず共有スペースで泊まる客が沢山いるようだ。
飛行機ならばご飯は席の上と決まっているが、飛行船はそもそものサイズが超巨大なので食堂もそこそこ広い。お昼のメニューはパンとスープ、パンは米と取り替えも出来るらしい。
「すいません、パンとスープください」
「はい、鍵はお持ちですか?…確認しました。ドリンクや追加注文は降りる時までツケなのでご注意ください」
なんか凄いデジャブ…
海外の冷蔵庫で一度酷い目に遭ったことがある。
まあ、国が運営してる船でそういうことはまず起こらないんだろうけどさ。
「席は自由か」
まあバイキングやレストランでもない限りは席を指定する必要はないよな。
酒やドリンク、つまみなどは中央のキッチンで注文できるらしい。
本当に日本のフードコートそっくりだが、ゲームが元なのだから当たり前ではある。
席に座ってパンを齧ってみる...普通。
スープはまあまあ美味しかった。昼食なのでこんなもんか。
しかし、それに納得できないやつはどこにでもいるようだ。
「おい!俺を誰だと思ってやがる!こんな粗末な食事を出しやがって!」
「...お、恐れながら、追加で注文していただければ...」
「ああ?俺様に金を出せってか?俺が誰だかわかってるのか?おい!」
列に大人しく並ばず、どけどけと言って迷惑そうにされていた男が、
出されたパンとスープを見てキレだした。
事前に何が出るかも確かめなかったのか...
しかも、きちんと教えてくれた乗務員に向かって横柄な態度を取り始めた。
...止めないよ?止めたら面倒なことになるって一番俺が分かってるからな。
「お客様、困ります」
「うるせえ!船長を出せ!汚らわしい下民どもが俺に口出しするな!」
「船長はただいまお休みになっておりますので...」
「貴様、汚らわしい庶民の分際で口出しするのか!黙って船長を出しやがれ!俺は貴族だぞ!」
しかし、時間が経つにつれて騒ぎも大きくなってきた。
男は相当に偉いらしく、この場の人間では彼を止められないらしい。
仮に止められても、貴族らしいし目を付けられたら長生きできなさそうだ。
しょうがないので、俺が止めることにする。
◇◆◇
男の名前はアスキー。侯爵家の家に生まれ。
魔法学院の理事長である男であった。しかし、実際は能力を伴わぬ地位で、
自身の父親で、貴族でもあるクレインに縋りついて得た地位であった。
それにも関わらず鼻を伸ばし、逆らえない部下を見下して不利益を生み出すのは、
やはり男が無能であることを如実に表していた。
そして、アスキーは貴族である自分を蔑ろにした乗務員に怒りを覚え、制裁のために拳を振り上げ、乗務員を殴りつけようとした。
その手を、華奢な、それでいて筋肉のよくついた腕がつかんだ。
「が!?」
「そんなにこのパンが要らないというのならお...私が貰ってやろう。ぱく...美味いな、麦の香りがする」
そしてその正体である女は男の手にあったパンを掴み、どうやってかは知らないが一口で平らげた。男はしばらくあっけにとられたように女を見つめていたが、
ハッと我に返り、叫びながら殴りかかった。
「てめえ!なに勝手に俺の飯を取ってるんだよ!」
「お前が粗末な食事というから、食ってやったまでだが?いらないんだろ?」
「だから何だ!それは俺のだ!」
しかし、女はそれをヒョイと避け、微笑みながら反論を口にした。
姿勢を崩し、男が無様に床に伏す。
周りは女のした怖いもの知らずな行為に顔を青ざめさせる。
「く...クソ...!おい!護衛共!こいつをやれ!殺しても構わん!!」
周囲はその言葉に、更に顔を青ざめさせる。
どう考えても丸腰の女に、フル武装の護衛が4人もやってきたのだ。
無残に殺される以外に未来など存在しない。周囲は思わず目を瞑る。
しかし...
「やれやれ...ゲーム時代とNPCの攻撃パターンが変わらないのは問題じゃないかな」
「「「「ごぼああああああ!?」」」」
女は護衛の攻撃を全て避け、全員を片手で振り払った。
振り払われただけで護衛達は吹き飛び、壁にぶつかってその身をめり込ませ、気絶した。
「な...なあ...」
「おっと...スープが冷めちゃうな。貰っておくよ」
「がっ!?」
最後に女は男を蹴り飛ばし、昏睡させて席に戻ったのだった。
しかし、倒れる瞬間、男が女を睨み付けたことに誰も気づいていなかった。
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