8 二重苦な下級貴族に転生しました
ヤバいぞ、ヤバい。このままだと、敵に処刑されるか自軍に反逆罪で殺されるか、それとも名前を偽った怪しいデブデブ。
「今日は流石に無理だろうから、明日動かすとして、何日取れるかな?」
両親のどちらの甲冑を使うにしても、ある程度体になじませておきたいところ。なじませずにいると、死亡フラグか脂肪フラグの二択となってしまう。
確か二十日後迄に集結とあるが、ここから柳営迄だと四、五日かかるはず。出発の準備等考えると一五日程度の余裕ではなにげに厳しそうだ。
こういうときは、ヴォイチェフに確認するのが一番だろう。
「そうですな、直接向かう事になろうかと思いますが……
ご存じの通り甲冑での行軍の場合、僚兵や徒歩兵も同行致しますから、彼らの歩みにあわせる必要がございます。ですので、馬車や甲冑のみでの移動の倍は最低でも想定せねばなりません」
「倍か……」
一〇日は見ておく必要があると言う事は、準備を急がせたとしても、せいぜい二、三日と言う事か。
「そういや、男爵家って、僚兵いたっけ」
「……直属にはございませんでしたね」
「僚兵動かたかも知れないけど、お前はダメだぞ」
おい、何目をそらすんだよ。まさか行く気満々?
確かに従者こそ増えてきたとは言え、流石に家の事を任せられるとなると、ヴォイチェフくらいのものだ。
「どちらにせよ、徒歩兵は連れて行く必用がございますし、補給もせねば」
「補給ねぇ」
そのとき、ふと思いついた。市場に連れられていくのでは無く連れて行ってくれる存在がいたことに。
「なあ、牛車で運ばせるのはどうだろう。馬車より遅いとは言え、ロバ以上に運んでくれるし」
「前例がございませんが?」
「禁止されてる訳で無いし、ロバと違ってダメって事は無いだろう」
どうも微妙に地球の中世西洋とはズレたこの世界でも、ロバはマヌケの象徴らしく騎士や貴族の乗るモノとは認められていないらしい。なので乗り物としては庶民専用と言って良い。もっとも、ロバの特性上馬のように二頭立て以上の連立てが難しいと言う事もあり、荷馬車の積載量制限がある事だろう。かといって、持久力こそ上だが牛以上の力を持っている訳でも無い。
だが、逆に牛は輸送手段としては早い段階で一度廃れたせいで、乗り物としての印象が極めて薄く、逆に驢馬や騾馬とは異なって奇異なモノ以上の拒否反応も存在しない。
なので、我が家で始めた牛を使った一種の駅馬車も、近隣では王都に近いと言う矜持が邪魔して導入する貴族はまだいないが、地方だと噂を聞いた上級貴族が郎党に似たような事をさせていると家令経由で聞いている。家令のネットワーク、この時代にしては思った以上に有効なので、ついついヴォイチェフに頼ってしまう。
紅茶の販売でも、何だかんだで最近真似しだした領地があると真っ先に教えてくれたのも彼だから、我が家には勿体ないほどの万能執事というのも間違っていないだろう。
「では、予備の荷車と牛を用意させます」
「ああ、人選とかは任せる」
ヴォイチェフが人員をどうするか言い出す前に丸投げ。あまり褒められた事では無いが、家令が優秀で執事と言うよりもはや執権と呼ぶべきだから仕方ない。
それにしても、勘弁してほしい。
このゲームな世界。正確には世界をモチーフにしたとしか思えないゲーム。
そのゲームは、所謂シミュレーションゲームで、ファンタジー世界を題材としていた。
学生時代にはまっていたゲームなのだが、凝りに凝った設定や美麗かつ詳細な画像以上に、思考ルーチンが凝りすぎてターン制な所為で待ち時間が異様に長いことでも知られていた。貧弱なパワーだと、数日は言い過ぎだが、二昔前のゲーム機な如く数時間かかることはざらだった。
だが何よりも驚くべきは、ベースのゲームがじつは乙女ゲームだったと言うことか。ゲームのおまけなはずのミニゲームとして戦術級シミュレーションが付いてるってのもアレだが、後に単体で販売されるほどバランスが優れていた。そんなこんなで、おまけの方が豪華絢爛と言う事で付いた別名が、元祖おまけが本体の食玩の名前。もっとも個人的には、プラモのおまけにガムが付いてくるって言われたアレもだが、少女マンガという媒体でガチのSFを描いてた諸先生を思い浮かべたりしますが。
それはさておきこのゲーム。乙女ゲームの本体時代含めて異常なまでに、ハゲ・デブ・チビの性能が高いのだ。攻略対象外な連中も見栄え重視で揃えると、難易度が勝手に上がるという仕様。
……嫌がらせだよな、これって。
さて、そんな中で自分の容姿はと言うと……
デブ・チビが該当すると言う、それなり以上の強キャラだった訳で、更にチュートリアルと大勝利から想定すると相当以上の実力者なはず。
それ故に、慣れる必用があった。なんとしてもで、フラグを叩きおくためにも。




