6. 少年時代の浪漫あふれる世界に転生しました
「……なんじゃこりゃ」
流れ込んできた情報を処理しきれず、マジかよと頭を抱えながら絶叫するのをなんとか抑える。
一段落ついたところで、手紙を一旦置いてきたヴォイチェフを呼んだ。
「先ほどの手紙だが、使者殿に渡す前に甲冑を確認しておいた方が良いと思うのだが、どうだろう」
「そうですな、確かに今回は前線の可能性が高いと思われますので、一度ご確認頂いた方が良いかも知れませんな」
最近、下で働く従者が増えた事もあり、あえて威厳のある言葉を使うようになってきた家令を見て、思わず吹き出しそうになるのを抑える。
何か含むところがあるのかも知れないが、何時もと違う態度が、なにげにおかしい。
「馬車に致しますか、それとも馬の支度をさせましょうか」
「ああ、使者殿を待たせているから、手間のかからない様に簡易馬車でもこの場合は良いのでは無いかな」
「あまり褒められたものではありませんが、確かに。
では、そのように致しましょう」
どうも、記憶によると元々馬は苦手だったらしく、一頭二輪馬車を多用していたみたいだ。
まあ小柄なだけに普通の男性と比べると手足も短い方だから、農耕用の中小型馬に対し貴族が使う大型の馬だと確かにまたがりにくそうだ。
かといって、女性向けの鐙は横乗可能な様に明らかにそれとわかるので、流石にかっこ悪い。
それもあってか、時間が無い場合は下級貴族の場合だと勲爵士や郷紳同様に馬に直接またがる事も多いらしいのだが、かっての私は二輪馬車よりも手軽だが貴族はあまり用いない簡易馬車を結構使っていたらしい。
そのため、二輪馬車や簡易馬車はすぐに動かせるよう準備してある。
もちろん正式な馬車ならともかく簡易馬車に御者など雇えるはずも無く、ヴォイチェフや過去の私自身が操っていたようだ。
自分で操っても良かったのだが、場所が不明なこともあり、ヴォイチェフに手綱は任せる。
領主の館から簡易馬車で約10分走らせたところに、その建物はあった。
「ここに甲冑が?」
「はい、表面の蠟塗りを定期的に行うため、この倉庫に保管しております」
目の前の建物は、いまにも崩れ落ちそうなゴシック教会と言った趣。
流れ込んだ記憶からして、ほとんど訪れたことは無いと言うところだろう。
感情は相変わらず流れ込んでは来ないが、冷淡な対応から嫌っていたことはうかがえる。
しかし、ワックスがけもしていたとは、まさに万能執事そのものだよなぁ。
さて、一歩建物の中に入ると、そこには思った以上の空間があった。
体育館は大げさだが、ちょっとした玄関広間位の空間は確実に存在する。
更に、高さも三階分位はあるので、余計大きく感じる。
そして、その空間に甲冑はあった。
名前こそ甲冑だが、機甲とでも呼ぶべき、なんとも浪漫《厨二心》にあふれる存在が二体、鎮座していた。
要するに、平たく言えば……巨大ロボット!
まあ巨大は言い過ぎかも知れないが、悪鬼と呼ばれる5メートルを超える魔物退治も想定されたらしいだけあって、見上げる位には大きい。
膝をついた状態でも3メートル以上はあるだろうから、立てば六メートルを超えるだろう。
一応、巨大ロボットでウソにはならないと思うのだが?
形状は西洋騎士の様で、流れ込んでくる知識からすると、標準型とでも言うものだった。
同時にこの造形、見覚えがある。
元の記憶でなく、私の過去の記憶でだ。
はっきりと言えば、ゲームで出てきた機体、その一つによく似ているのだ。
しかし、ファンタジー世界とロボット。
ミスマッチなようで案外古典的な設定だが、なんにしろロボットに乗り込めるのだ。
この年になって、おらわくわくしてきたぞ。
しかし、どうも元々の記憶からすると、乗り込んだ事はあまり無いみたいだ。
しかも、片方にだけ。
なぜ、こんな浪漫あふれる存在を無視しているのだろう?
相当嫌っていたのだろうが、理由がよくわからない。
家風とかそういうものなのだろうか。
貧乏男爵にもかかわらず二台存在するわけだが、両方共になかなかに無骨な格好良さを持っていると思うのだが。
「さて、どうしたものか」
「何が、ですか」
「ああ、どちらにすべきかなと思ってな」
「……どうなされたので?……
まさか、御父上の甲冑で無く御母堂様の方をお使いに?」
父の乗っていたと言う銀色の右手に騎槍左手に盾を持ったロボットでは無く、母が乗っていたらしい弩弓と思しきものを構えた黄色いロボットを指し示す。
亡くなった父親はあまり戦場に出ること自体を好まなかったようだが、母親はどうやら武勲で騎士の称号を受けていたようだ。
命婦と言うやつで、その所為で甲冑もガンガン使いこなしていたようだが。
それで二台存在するわけだが、父親の方は領地経営と称しもっぱら母親の方が徴集時《いざ鎌倉》には参加していたらしい。
「どうした、意外か?」
「いえ、あれだけ嫌がっていたのに」
ヴォイチェフが意外そうな顔で問いかけてくる。
ホントに驚いたんだろう、もったいぶった言い方で無く今まで通りのしゃべり方で。
「確かにそうだが、今回は山間に攻め込んできたと聞く。
ならば、騎槍しか無い父上の鎧では不利だからな」
肩をすくめるようにしながら、応える。
そうなのだ、父親の鎧は騎槍以外の武器を一切持たず、精々が盾を持った側に短剣を持つ位だ。
もっとも短剣と言っても、人間だと両手持剣としても大きいサイズだが。
鎧の防御力は高く、それでいて機動性は悪く無い。
鎧のおかげで防御力は高いのだが、可動範囲が比較的狭く動きが制約されるが、直進での突撃速度はかなりのもの。
結果として、多少の攻撃ははねのけての騎槍突撃に特化している様だ。
母親の鎧は、まさにその逆。
要所要所に施された防御は運動を妨げない様になっており、逆に言うと漏れも多い。
速度は父親の鎧と同程度以上で、可動域が広いだけあって運動性も高い。
それ故多彩な武器を使い分けることも可能となっている。
ヴォイチェフはまだいぶかしげな様子でたずねかけてくる。
「ならよろしいのですが。
御母堂の陣中鎧を使うことになりますが」
その言葉と共に流れ込んでくる記憶。
いつまでも慣れない感覚だが、それ以上に記憶の中身でぞっとした。




