5. いざ鎌倉な貴族に転生しました
美少女と兵器と戦闘を消費する子供の世界から、
労働と生産と生活がある大人の世界へ。
前回とは異なり他領の紅茶を混ぜることで、我が領の紅茶に足りない香りを補った新しい茶葉は、やや癖があるものの確かに薫り高いと称することが出来るものだった。
「うん、前回とは違い、美味い」
妻に微笑みかけたところで、新しく雇った従者が飛び込むように部屋に入ってくる。
「何事だ!」
妻に下がるよう伝えると、若干強い調子で従者にたずねる。
「早馬にございます」
好事魔多しとは良く行ったものだが、早馬などという異常事態に私は正直うろたえた。王都からおとがめを受けるようなことをした覚えこそないものの、基本的に東欧型の封建制度が社会基盤のこの世界。何があって不思議無い所。
そこまで考えた所で、従者の顔におびえと怒りのどちらとも取れる色が浮かんでる事に気づいた。それを見て、ようやく言葉が詰問調になっているのに思い至り、改めて丁寧に問い直す。
「都から早馬が届いたようだな。しかし早馬など珍しい。内容は確認したか」
「いえ、封蝋がされておりましたので、そのままお持ちしています」
硬い表情をした従者から、丸められて封蝋がされた手紙を渡す。
「なるほど、封は確かに問題無い。よろしい、そのまま下がってよろしい」
ほっとした表情で一礼する。どうやら普段と違うキツい言葉に怯えていた可能性の方が高そうだ。
「使者殿は、返信をお待ちです」と若い従者は伝え、再度礼をしてから下がろうとする。
「待て、使者殿には返信を待つ間、我が家の紅茶でも嗜んで待って頂くように」
「心得てございます」
「妻に、そう伝えてくれ」
従者は、一瞬きょとんとした表情をして、そしてようやく合点がいったのか納得した表情になり「そのように」と再び礼をし、慌てて駆けだした。
それなりに潤いだした事から、貴族としてはかなり少なかった我がバラージュ家の家人も、ようやく少しだけとは言え最近は増えてきている。とは言え、家政婦長迄は余裕が無いと言うのが正直なところ。なので、妻が采配せざるを得ない。もっとも、本人も喜んでやっている節もあるのだが。
しかし、細かいところで齟齬があるのは仕方ないところか。勤め出してすぐなのだから、これまで唯一の家令だったとヴォイチェフ比べて能力的に見劣りするのは仕方ない。
それにしても、メールみたいにすぐに見てすぐに返信という訳にはいかないが本当に急いでいるのだろう。伝えてきた使者がそのまま返信を待っていると言うことは、待っている間使者になにも応対しないという事はあり得ない訳で、少なし次の日までには返事を寄越せ、そういうことだ。
あまり待たせては儀礼上も金銭的にも拙いので、早速書斎に籠もると封を剥がして撒かれた手紙を広げてみる。
どのように書くべきか、実に悩ましい。だが、書く答えは決まり切っている。
届いた手紙は、儀礼や修辞等を省いて言うと『辺境にある領地が攻められたから首都に近い我が領からも王国軍として戦力を出して貰うぞ。二〇日後に集結だ、遅れるな』と書かれている。
そんなもの諾以外に答えようが無いのだが、コレを儀礼や修辞加えた婉曲表現で書こうとすると、ホントにめんどくさい。
いつの間にかやってきていたヴォイチェフが、すっと厚手の紙を差し出してくる。家人が増えたこともあり、筆頭家令となり執務の手伝いをして貰う機会が増えている。しかし、実にラノベとかアニメに出てくる万能執事じみた男で、何かあるとツイ頼ってしまう。
さてこの世界では羊皮紙も存在する。存在する事は存在するのだが、どうも魔導書とかそういった類いでの使用がメインで、普通の手紙等であれば紙が主流だ。安いパピルス紙もあるが、それなりに紙すきした紙もきちんと存在している。文化程度が中世な世界という事もあり使用量が少ないため、値段が高いという問題は如何ともしがたいところで、つまり書き損じが怖い。なので、比較的表面を奇麗にした木片で練習してから清書となる訳で、どうしても時間がかかってしまう。ホント、e-mailは便利だよなぁ、手間から考えても。
書き終えた返信を一旦家令に渡す。そして、家令が私から印章指輪を借りて、使者の前で改めて封印する事になる。直接使者に渡した方がよっぽど良さそうなのにと思った事があるが、記憶として『過去に、わざと封を破った返信を「問題無いな」と威圧と共に使者に渡して無効化をはかった事例が散見された事から、同格とされる家令と使者とで確認した上で受領する形に落ち着いた』と子供の頃に習ったことが浮かんできた。意識しないと現れない、全く便利なようで不便な記憶である。
しかし、戦争か……
よくある話で、我が国も強大国以外の隣国と接している領土があり、中堅王国どうしのもめ事はしょっちゅう起きている。とは言え、普通なら火種が大きくなる前に双方共に捨て台詞を吐きつつ矛を収めるのがほとんどで、辺境伯や公爵と言った上級貴族の軍勢が出張ることは希であった。
だが、今回は違っていた。当初は敵の攻撃に対し、我が方も適当にあしらっていたらしいのだが、相手方の子爵が功を焦ったらしく普段は温存しておく魔法兵を戦場に投入したらしい。しかも、一気に殲滅出来るだけの兵力が投入出来るのであればともかく、所詮子爵が保有する程度の戦力。
現代戦で例えれば、紛争地帯に機甲師団や航空兵力で殲滅するならまだしも、唯一所有する一発こっきりの巡航ミサイルを予告無しに発射したようなものだろうか。
そんな過剰な兵力で対応した事が発端となり、戦火が拡大。ついには辺境伯自らが動く羽目になった。そして、我が軍の大敗北の知らせ。1割程度の軍勢の奇襲攻撃により、辺境伯自身が傷を負い、撤退に追い込まれたのだという。
そのため、国軍による援助の検討がなされ、私も配下の従士とともに、それこそいざ鎌倉とばかりに首都にはせ参じる事になった訳だが。
後ろで控えている予備兵力になるだろうが、魔法のある中世世界だけにどのような戦場か想像もつかない。そういえば、家族伝来とかの甲冑もあるはずだが、全く気にしたことも無かった。
戦争自体、小競り合いはしょっちゅう起こっていたみたいだが、本格的動員となると案外少ない。我が領が王都に比較的近いものの、直轄にするには旨味が少ない鶏肋な土地柄と言う理由もあるだろう。また憑依前は、どうも戦場よりも幕僚になりたがっていたようだ。甲冑に乗り込んで戦場を駆け回るより、陣中鎧のみで将軍達の元にとどまる事が多かったようだ。要するに、謀を帷幄のなかにめぐらし千里の外に勝利を決す、をやりたかったって事か。
って、陣羽織で無く、陣中鎧?甲冑を駆るってなに?
そう考えたところで、突然記憶が一気に流れ込んできた。
記憶の中に現れたものは……
「……なんじゃこりゃ」




