29. 舞踏な武闘世界に転生しました
母親が使っていたという武器で破落戸の頭部を払うと、改めて周囲を見回した。
先までいたいかにも暗部組織といった風体の連中はあっさりと引いており、路地には脳しんとうでも起こしているらしく倒れてピクリとも動かない無法者が転がっている姿だけがあった。
ほっと一息吐くと、武器を一旦盾、というか板のような形状に変形させる。そしてそれを巻物のように巻いて、腰の鞘に戻した。実際には板状にせずとも筒状にすることも出来るはずなのだが、要するに私が慣れていないので一旦基本である盾状に戻しているだけだ。西部劇でホルスターに戻す時に視線をホルスターに移すのかそれとも前を見たままか……いや、タイピングで時々指先を見るのか完全なブラインドタッチか、と言う方が近いかも知れない。
それにしても……
誰に似たんだ、家の子は。少なし、私で無いことは確かだ。
お姫様抱っこされた女の子は、明らかにうっとりした表情してるし、頑張って走ってきた男の子からは、何というか憧れじみた視線を出してる。
唯一、おんぶされてる女の子は、家の子よりもおぶられてる男の子に意識向いてるけど、それでも時々視線をよこしてるし。どちらかというと、敬意に近い感じかな?
まあ、確かにピンチを助けてくれた王子様だから当然と言えば当然だが……息子がラノベの主人公だった件。
うん、タイトル変わったな。
正直言うと、ちょっとだけ羨ましい。
……ちょっとじゃ無いかも知れない。
「大丈夫、安心して良いよ。もう少ししたら、衛卒も来るだろう」
とりあえず、脅威は去ったと言うことで、まだ緊張が解けていない感じの男の子に声をかける。
男の子は、一瞬何を言われたのかわからなかったみたいだが、すぐに女の子をおぶっていることを思い出し、ゆっくりと下ろす。女の子は、いわゆる女の子座り状態で、ぺたりとお尻を落とした。
男の子に合わせて、家《なろう系》の子《主人公》も慌ててお姫様抱っこの少女を地面に立たせようとする。が、少女の方がバランスを崩してよろけてしまう。
息子《ラノベ主人公》もいきなり重心位置が変わったせいで、慌てて持っていた短剣から手を離し、少女を支えようとし……そのせいで、かえって強く抱きかかえるようになってしまったのはご愛敬。まあ、左の手が胸の位置にあったの含めて、ご愛敬としておこう。
……ほんと、だれに似たんだ、ラッキースケベまで実装しやがって。
「おっと、危ない」
心の中で血涙を流しながら、息子が小女を抱く時に落としたむき身の短剣を、街路で反射した所で拾い上げる。
そのときになって、息子が手に持っている短剣の鞘が無くなっていることに気づいた。腰に付いていないと言うことは、鞘付きで振り回しているうちに抜け落ちたのか。さすがに剥き出しで走り回ってはいないだろうから、先程の乱闘でどこかに吹き飛んだのだろう。それはさておき、むき身の刃物は危ないよなぁ。どうやって持とうかしら。
「げっ」
暢気な感想の直後、そのやばさを突然理解する。鞘がないイコールむき出しの刃。其れは刃物を抜いたという事に等しく、そして王都で刃物を抜くと言うことは……
そのとき、道の向こうからガチャガチャという音が聞こえてきた。どうやら衛卒が到着したらしい。思ったよりも早いのは、嫁が思ったより早く通報出来たと言うことか。
「逃げるぞ」
そうと決まれば、即断即決。
男の子に「良く頑張ったな。後は衛卒に任せるんだ」と肩に軽く手を置きながら声をかけると、息子を抱きかかえて一気に駆けだした。息子も結構大きくなってきたので、道中着を着ていても結構重い。自分で走らせた方が早かったかもと、今更ながらに思った。
道の角で振り向くと衛卒が少女を保護すべく駆け寄っているところだった。あの少年も、なぜか反対方向に駆けだしている。そして、何か気づいたのかこちらに顔を向けると、例の顔を振るポーズを少しだけして、さらにスピードを上げていった。
「待て」と言いつつも、衛卒は人数が少ないのとそれなりの装備で走るのが難しいこともあり、誰何するに止めて追いかけてくることは無かった。
……ところで、去る瞬間に息子の方に向けた男の子の表情が羨ましそうに見てたのって……気のせいだよね?
それと息子よ。抱かれながら微妙な顔をするんじゃ無い。
路地裏を出て、生活道と呼ぶべき少し細い通りを暫く走ったところで、嫁が馬車の前で舞っていた。
いや、道の端に寄せた馬車の斜め前、馬の横付近で、嫁がほんとに舞っていた。誤変換でなく。
其れも、三拍子の宮廷舞踊のような煌びやかな感じというよりも、なぜか歌舞伎舞踊にしか見えない動きで。
うん、何を言っているのか判らないと思うが、私も何がなんだか判らなかった。
「お母さんの踊りも、凄くきれい……」と、息子も見入っている。
それはさておき、種を明かせば、馬車で待っている娘をあやすために舞を見せていたらしい。
待っている間に、微妙に退屈だった所為なのか、娘が今にも馬車で泣き出しそうな顔をして来たので、この国に伝わる舞踏を舞っていたと言う事だ。
実際、馬の側に回って見ると、馬車の座席にチョコンと坐った娘がキャッキャと手を叩いて喜んでいた。
そうは言っても、最初はちょうど馬車の後ろから近付いていたので、嫁が舞っている姿だけが飛び込んで来て愕いたのも事実だ。しかも動きが歌舞伎ライクなところが、相変わらずの謎仕様。この国、絶対おかしい。
「お帰りなさい。
あら、お持ち帰りはうちの子だけなのね」
私たちに気付いた嫁が、踊るのを止めると、馬車の娘を抱き抱えながら声を掛けてきた。其れは良いんだが、とんでもない事を言いながら微笑むのは止めて欲しい。
「いや、最初に言う言葉が、何でお持ち帰り?」
娘を一度私に渡すと、馬車の座席に座り、同時に手を私に差し出すと一言。
「ほら、女の子の尻を追っ掛けていった息子《方》と一緒に、追っ掛けられた女子《方》もお持ち帰りするのかなって」
意図を察して娘を嫁に手渡すと、膝へと乗せる。そんな嫁と娘を見ながら、ため息をつくと、私も右側の席に座る。
「色色と言いたいが、旦那をなんだと思ってるんだ」
言葉と共に手綱をゆっくりと握り馬を進める。蹄が石畳を叩き、カッポカッポと音を立てるのが心地好い。
「あら、だって以前、騎士団をお持ち帰りした事あったじゃない」
そう言って、手を口元に当てて、実に愛らしくケラケラ笑う嫁。畜生、反論させずにからかう気満々だ。何というか、転生した当初の微妙な余所余所しさはどこ行ったと言うくらい、実に私を突いてくれる。最初こそ肉体関係優先だったのに、これが心地よく感じている自分もいるのも、まああれだが。
しかし娘までも一緒になってケラケラ笑って喜んでいるのは兎も角として……
息子よ、一緒になって笑うんじゃない。お前も女の尻追っ掛けていったってディスられてるんだぞ。
改めて町屋敷に向け、ゆっくりと馬車を進めていく。
気がつくと、娘は愛らしい顔ですやすや眠り、息子もうとうとと舟を漕いでいた。
馬車なのに舟を漕ぐとは、これ如何に。
などと、眠気覚ましにこの世界の言葉に訳すと意味が通らない事を考えているうちに、目的の建物に到着。
なぜ弱小男爵にも関わらず一戸建て化というと、周囲が比較的整備されている中に取り残されたようになっているためだ。
いわゆる再開発失敗と現代日本なら言われていただろう状態で、周囲にぽっかり空き地が出来ている。
有る意味、実に広々として使いやすい状態なのだが、周囲は建物こそ無い物の、明らかに荒れ果てた状態となっている。
これは、男爵程度が購入できた建物なんぞ、ろくでもない物件だったと言う事が根柢にある。
元元の建物は、旧城壁の延長と、市街地の拡張による城壁の新設により三方向を壁に囲まれた、とてつもなく不便な状態に有った。馬車など結構離れた所に預けるしか無いし、食料とかも遠くに馬車を停めて人手で運ぶしか無かった。
それが、更なる市街地の拡張と新城壁の建築により、旧城壁を取り壊して環状道路とする構想が浮かんできた事から迷走が始まった。紆余曲折で何回折れ曲がったんだろうと言うくらい曲折しまくった結果、我が町屋敷を残して城壁が壊された居間の状態が発生したと相成った訳だ。
もう少し道が奇麗になったら大型の馬車で来ることも出来るので、騎士団の連中も町屋敷を利用しやすくなるのだがなぁ、と思いながら玄関の前に馬車を横付けする。
しかし……お茶会をするのは良いが、どうも風景がいまいちだなぁ。まあ、部屋の中でするのだから問題ないと言えば問題ないが。
先ずは、先行して送って貰ったジャガ芋の調理方法を料理長に教えないと。一時期と違い最近は使っていなかった事もあり、新しく雇いなおしたシェフなので、自宅と違い一から教えないとだめなのもなにげに厳しい。女性の言うことも聞く耳持つタイプだと嫁から説明して貰えるから楽なんだがなぁ。
はい、私って説明下手です。しかも、自分の興味ある部分だと早口になりますよ、当然。
遅くなってすみません。なにげに仕事がドタバタしており、ほんと時間がとれません。
せめて土曜が半ドン(死語)ならなぁ〜




