iv) 取り巻き少年はボーイズミーツガールを見る少女と出会う
章の分け方、見直した方がよいのかなと考えています。
街路の反対側で、両手を軽く広げたいわゆる通せんぼの格好で立っている二人組は、身なりこそ破落戸よりもまし程度のように見えるが、明らかに動きが訓練されたものだった。そして、その後ろにも湧き出すように人影が現れた。
背後の少年少女はもちろんのこと、彼女も気づいていないが、荒くれ者だが腕は立ち実は治世能力もそこそこ持ち合わせている戦国武士のような騎士団にもまれてきただけあって、彼には二人組の訓練された兵士の持つ連携が見て取れた。
彼は、短剣を躊躇無く抜放つと、道中着のベルトに鞘を付け、一気に駆けだした。
一瞬木漏れ日を浴びて輝く刃を見て、彼女ははっとする。
道中着の助力により大人でも叶わないほどの速度で二人組の男へと一気に近づくと、短剣を前にかざす。
同時に、男達の一人が背中側から棍棒を手に取り、振り上げた。男とも女ともとれる華奢な体つきとは裏腹に、先端の鉄塊はかなり禍々しい。
まさにその瞬間。彼は体を沈めながら、足下に滑り込むような蹴りを放つ。そしてバランスを崩し倒れてきたところで、首筋に反動を利用して立ち上がりながらの肘打ちを当てる。それは、父親がかって騎士団と行っていた模擬戦での動きの再現。小柄な父の一撃で、大柄な騎士団員が見事に吹き飛んだのを覚えている。
そして、子供とは言え道中着で強化された肘打ちにより、父親の一撃を受けた騎士団員のように吹き飛んでいく。
そして、その勢いでもう一人の男に向かい蹴りを放とうとして……
横殴りの衝撃を腹に受ける。
道中着でも殺しきれない衝撃で、今度は彼が吹き飛び、少年と少女の前に飛ばされ、胃液を口からまき散らしながら石畳を何度もバウンドする。
口にたまった胃液で咳き込みながら、涙でかすんだ目で見ると、いつの間にか男の手には六尺棒握られ、父親のとは異なる重厚な構えで立っていた。
完全に退路を断たれた。
彼が倒れるとともに、少年の心も倒れた。絶望的な顔をした少年は、同様の顔をしてその場に立ちすくんでいる少女の横に、そのままへたり込んだ。
だが……
だが、彼女は違った。
強気な表情を曇らせながらも、彼女は震える少女を守るように一歩前に出る。
僕だって。
そんな彼女の脚が顔以上に笑っているのを見て……
少年は少女達を守るべく、震える足で必死に立ち上がった。そして、一歩。動かない足を、無理矢理動かす。先ほどの彼がそうだったように。
そんな少年に気づいたのか、男がそちらに視線を移す。
同時に、彼はその隙を逃さないよう、再び低い姿勢からかけだした。今度は腰の鞘に戻した短剣を、逆手でつかんだ状態で男に近づき、走り抜け……
る前に、再び腹部に衝撃が走った。
力強い一撃に、再び短剣とともに吹き飛ばされ、石畳でバウンドした。一応道中着を身に纏っているといえ、子供用の簡易型に過ぎないため、このように強烈な衝撃はころしきれない。鼻を強く打ったのだろうか、今度は血がとろりと垂れてきた。
「全く、たいしたガキだ」
忌々しげに、吹き飛ばされた華奢な方が、大ぶりの棍棒を振りながら近づいてきた。
クソ、ダメか。と思ったとき、少年が震えながらも二人を守るべく短剣を構えているのに、そして道の向こうの破落戸に気づいた。
同時に、騎士団から教えて貰った、戦場で放ったという父の言葉が思い浮かぶ。
「しってますか。『あきらめるのにおそすぎることはない』んですよ」
やや舌足らずながらもしっかりとした彼の言葉を聞いて、明らかに反応が分かれる。遠巻きにニヤニヤ笑うだけのごろつきとは異なり、明らかに騎士としての訓練を受けたとおぼしき男達の方は、顔を振りながら悲しげに告げた。
「その言葉は正しい。
……だが、子供の戯れ言だな」
しかしその横立っている少年が、精一杯の気力をかき集めたのだろう、はっきりと変わった事に彼は気づいた。震えてはいるが、もう大丈夫だ。
「あいずしたら、その子といっしょに、走るんだ」
彼は、小さいがはっきりとした声で少年に告げる。少年は、頭を軽くふり、肯定の意思を告げる。
だが男は、そんな彼らに対して冷たく言い放つ。
「奇跡は起きない、当然な」
「ええ。知ってます。
でも、別のも知っています」
怪訝な表情を浮かべる男に、彼は続ける。
「おきないきせきは当然と言い……」
言葉とともに彼が立ち上がると、合わせるように少年は力強く前を向く。
「ああ。今流行っている諺だったな。
……まさか?」
心配そうに、少年を見つめる少女。少女に安心を与えるように、少年はそっとうなずく。
そんな中、彼から最後の言葉が吐き出された。
「そして、おきたきせきは必然と言う」
言葉とともに、心配げに横にやってきた彼女を、いきなり、今度はお姫様抱っこの要領で抱き上げる。これが合図と悟った少年はいきなり少女を背中に負うと、薄暗い通りのそこだけ明るい入り口に向かい、脇目も振らずにかけだした。
いきなり抱きかかえられた彼女が入り口に顔を向けると、一体の黒い影が暴漢《ならず者》の間を華麗に舞ってる、そんな姿が目に飛び込んできた。
その黒い影は、華麗なステップで地面どころか壁までも蹴るようにして走りながら、手に持った四角い小型手持盾のようなものを振るっている。そのスピード故の目の錯覚か、振るわれる板が槍のように伸び乗馬鞭のようにしなって見える。自在に変形する板が振るわれるたびに、ごろつきどもが倒れていく。
逆行で道中着の家紋がほとんど見えない為どこの家中かまではわからなかったが、それでも相当の手練れである事は少女にもわかった。同時に、公達の護衛なのだから当然と言えば当然か、とも思う。
「お、おのれ、名誉特権の男爵か」
その影の正体に、男は気がついたのか、吐き捨てるように言う。
完全に、ごろつき達は浮き足立っていた。
そして、子供達を追いかけようと動き出しかけ……動きを止めた。
「あの命婦がいて、あの言葉。
そういうことか。
引くぞ」
「何故です」
男とも女ともとれる片割れが、質問と言うよりも明確にする意図を持った口調で尋ねる。
「例の男爵だろうがそうで無かろうが、どうでもいい。
あの撓る盾は厄介だが、我らが三人以上で当たれば、時間内に制圧できる。
だが、奇跡のことわざを知っているのは、この国ではあの忌々しい騎士団だけだ。
ならばあの少年が、誰かの息子に違いない。
だとすれば、当然あの騎士団のろくでなしどもも、一人か二人は近くにいるはずだ」
その言葉にうなずいた。男爵旗下の騎士団として有名かつ勇名だが、先だっての戦場で一躍名を上げ騎士団に昇格する前からすでに、自由騎士《ヤクザ者》として柄は悪いが実力は本物と言う評価を得ている連中だ。面倒程度で済めば良い方だろう。リスクが高すぎる。
男が腕を振るとともに、華奢な方が消え去るようにして離れる。そして、男も彼に一瞥すると、反対側へと走り去った。
「……しかし、たいしたものだ。やはり息子と言うことか」
つぶやきだけ残して。
本来は二つの平行した物語が交わったことにより、運命の歯車が、確実に一枚以上狂った。
だが、そのことに気づいたのは、誰もいない。
Hybrid Interface for Logical Optimization system と言う言葉が思い浮かんだので、ひろ☆らいだーシリーズも、そちらに統合?




