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Fw: 王子の取り巻きの父親に転生しました  作者: 製本業者
茶会事変(前編)

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26. 三月ウサギになりに転生しました。

 ふと見ると、息子がどうにも居心地悪そうに、もじもじしている。

「おまえも一緒にいただいて良いのだぞ」

 本来なら特に言う必要も本来は無いのだが、こういった場所は息子は初めてだし私自身あまり経験が無いため、確認の意味も込めて言葉に出しておく。

 その言葉に促されて一口紅茶で喉を潤すと、苦かったのか顔をしかめた後、おもむろにお菓子の一つに手を伸ばす。

 息子のその行動に、最大手商会の名代が咎めようと何か言いかけたところで、機先を制すようにしてこの店の商会長であるアティッラが「そういえば、ご子息はオナラブルの称号を許されていましたね」と続けた。周囲の表情が凍てつくと同時に、代理人の顔が一瞬沸騰しかけ、すぐさま真っ青になり、そして安堵の色に変わるのがみてとれた。男爵の息子とあなどっていたのだろうが、グランデのおかげで息子は既に下級貴族として扱われるべき立場なのだ。大多数が集まる様な場所ならともかく、公にでこそ無いが男爵家の名前が出ている集まりともなれば、流石に知らなかったでは済まされない。

 名代が赤くなったり青くなったりするのを眺めながら、惜しいことをしたなと思い、小さくため息をつく。ここで息子をとがめていたら、貴族にたいする礼儀がなっていないとなり、最大手商会に対して弱小の男爵といえど主導権が握れたかもしれない。せっかくのチャンスをふいにして下さりやがったアティッラを軽く睨んでやると、軽くいなされてしまった。どうやら自分がその恩を使うつもりだなと、ようやく気づく。なかなか抜け目ない男だ。しかし、再度顔を青くしたり赤くしたりと忙しい男を見ると、最大手という割にはかなり杜撰としか言い様がない。どこぞの幕僚でもあるまいに、商売人が運だけでのし上がり維持できるとも思えない。となると商会長自身というよりも誰かが男爵如きと侮って、名代を見場優先にした可能性も否定出来ない。商人として杜撰と言わざるを得ないのは、他の商会の人間達も名代の方をみてニヤニヤ笑っていることから窺える。まあ、安堵や引きつった笑顔も混じっているが。

 そういえばこの商会は国軍の御用達ということもあり幕僚達と昵懇にしていた、と記憶が偏頭痛とともに流入してきた。大した情報でも無かったからか眉を顰める程度で済んだが、いつまでたっても慣れない感覚だ。しかし、そちらからの茶々入れという可能性もあるのか。相変わらずめんどくせー。

 そんな大人達の対応を理解しているのかいないのか、手に取ったクッキーの一つを口に含むと、最近家でしているように蜂蜜で甘味がついた紅茶を口に入れる。ちょっとあつかったのだろうか、慌てて紅茶をフウフウ吹いて冷ましている。

「どうぞ」

 私の声に、商人達もゆっくりとお菓子に手を伸ばし、息子のまねをして紅茶を含む。

 最初は意図を掴めず、取り敢えずお茶とお菓子を食べていた商人達も、次第にお茶とお菓子を楽しみ出す。

「ほう、なかなか紅茶に合いますな」

「先に牛乳を入れると乳臭くなるかと思いましたが、なかなかこれはこれで」

「カップが空いたら、新しいお茶をどうぞ」

 給仕役の女性職員があいたカップにお茶を注ぎ足すと、各自が無意識にお菓子に手を伸ばす。

 狙いはまさにそこにあるわけで。なんと言っても、実に美味しそうにお菓子を頬張って紅茶を飲んでいる息子を見れば、大多数の人間はそれだけで美味しいと感じてしまうものだ。そして実際のところ、その策は見事にハマった。

 気がつけば、商人達も菓子をつまんだり紅茶を飲んだりしながら、磁器についてや菓子について、販路を絡めた話に華を咲かせている。

「話の腰を折って申し訳ないが、諸君、どうかなお茶の味は」

 頃合いと感じて、商人達に話しかける。

「ええ、今までのものと異なり、なかなか芳醇な香りですね。少しある苦味も、まさかミルクでここまで変わるとは思いませんでした」

 私は大きく頷く。

「いまので想像ついたと思うが、最近はやってきているお茶会だが、どうも物足りない。お茶自体が会話を当てに飲んでも酒と違いどうも味気ない。

 何が、と考えて気づいたのが、飲み方だ。

 一緒にお茶を楽しむという方法自体はめずらしかった事もありはやっているが、今までの様に、お茶自体の味を楽しむためにお菓子を一口つまんだ程度で、あとはお茶だけ飲んでいる」

 一旦言葉を切って、カップのミルクティーを口に含む。

「これまでも薫りを楽しむお茶は存在していたが、逆に薫りを楽しむために菓子をつまむことや飲みながら話す事は寧ろ邪魔とされてきた。

 だが、紅茶は薫りを楽しむと同時に味を楽しむ、どちらも可能なお茶だ。全く違う楽しみ方があって当然では無いかな。

 こと宮廷料理では共和国どころか帝国と比べても種類も質も正直劣っているとはいえ、晩餐会パーティー料理や菜食ベジタリアン料理の評価は高い。そしてお菓子と酒菜の種類に関して言えば勝るとも劣らないと衆人の認めるところだ」

「なるほど。その際にこの磁器製カップが使われるということですね」

「いや、それもだが……

 今日出したお菓子類。お茶に合う、珍しいモノも有ったと思う。

 じつは全て和我が領で出来たものを使って作ったものだ」

 このときになると、他の商人達も私の意図が見えてきたようだ。ソーサー付きカップだけで無く、合茶ブレンドと言う今後の広がりだけでも無く、軽食と組み合わせたビュッフェスタイルとあわせてトータルパッケージで売り込みをかけているのだと。そして、一つ一つの要素だけであればたいしたことはないにせよ、その全てで我が男爵領のからむ要素が大きい事に。

「気に入ってもらえたら、同様の催しをどんどん開いてもらいたいものだ」

 おそらく、本来ならもっと早くに気づいた可能性があるが、先ほど行われた息子との茶番じみたやりとりで意識がそらされていたのだろう。

「……いかがでしょう、まずは磁器製品について、お話を伺いたいのですが」

「私どもとしては、合茶に興味がありまして」

「まあ、そうあわてずとも。」

 そして、一言付け加えておく。

「あまり細かいことを言うつもりはないが、一応アティッラの顔だけは立ててくれよ」


 この会談から数ヶ月。

 お茶会の方は大好評で全国に一気に……とまでは行かないが、思った以上の好評で受け入れられた。

 特に、この間紛争があった隣国で受け入れられたのが大きい。逆輸入では無いが、共和国でも大人気というキャッチコピーでもつけたのかと言う感じで茶会パーティーが王国《我が国》でもはやりだしたのは、本当にうれしい誤算だ。

 一部の領地では、お茶の栽培を更に拡大したところもあると言う。お茶の売り上げで、安価な穀物を購入する方がメリット大きいと意言うことだろうが……正直、規模拡大効果スケールメリットがあるところは羨ましい。

「結局、我が領ではお茶はこれ以上栽培しないのかしら」

 イルがお茶とともに持ってきたお菓子を渡してくれる。今日は久々に緑茶だ。と言っても、番茶みたいな感じのモノだが。そして、この間作らせた羊羹もどきがお茶請け。米粉ないからういろうは再現出来なかったけれど、羊羹は寒天代わりにゼリーで再現してみた。

 向かいの席に座った、磁器のための登り窯で相談に来ている騎士団のノルベルトとテオドルにも、羊羹もどきを勧める。二人とも紅茶のお茶会や格式張った茶会では無いこともあり、一口で頬張るとゴクリと一気に飲み干す。

「ああ、この間思った以上に磁器の評判が良くてね」

「そいつはちょうど良い。うちの荘園、小麦や野菜に向いた畑が少ないし、かといってお茶にむいてるとはお世辞にもいえねぇからな」

 その分税も安いけどな、と言ってノルベルトはにやりと笑った。

「まあ、俺と違い粗野だと思ってたおまえにも磁器の目利きがあるとはおもわなかったけどな」

「そりゃまあ、こんな美人二人とちょくちょく合えば、それなりに美的な感性センスもつくってもんよ」

 まったくこの騎士どもと来たら相変わらずだな、と思いながら言葉を続ける。

「実際、登り窯が軌道に乗れば、今以上に磁器を売りさばくことも出来るだろうが……

 まあ、すぐ真似されるだろうから、何か別の事も考えておかないと。

 だが、それ以上にさっきノルベルトもいっていたが、我が領のお茶は、帝国や共和国よりはましといえるが、国内では、正直たいしたことない。

 合茶ブレンド薫付フレーバーと苦み付けとしては、何気に優秀なみたいだが、まあ量は必要ないな。

 もっとも、これはヴィオラの調合が巧みだという事なのかもしれない。

 結局のところ、使い道が無い我が領にお茶はこのままにしておくさ。それに」

「それに?」

「これ以上忙しいと、三人目もなかなかつくれないからね」

「もう、あなたったら」

「けっ、ラヨッシュのとこも産まれるらしいし、ホンザの野郎も准男爵狙って女漁り止めたって言うし、やってらんねぇ」

「あら、ならちょうど良いお話がお二人にありましてよ」

 なんだかイルのスイッチが入ったらしい事をさっしたのか、二人の顔には変な汗が浮かんでいた。


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