24. お茶会開きに転生しました
紅茶栽培の口火だけつけた領地。王都の庶民向け田畑。
これが最近知った我が領のあだ名です。その前はあだなすら無く、人によっては王都の郊外扱いだったみたい。
一応諸侯領なはずんなんだけど、王家の直轄領との区別すら曖昧なようで、これが文盲も多い庶民ならともかく知識人階層でもある準々貴族でもそんな感じだったらしいのは正直どうかと思うところ有りますが。まあ、新しいあだ名のおかげで庶民階層でも我が領のことが知られてきたという事実は喜ぶべき事なのでしょうか。もちろんのごとく今日を生きることすら厳しい階層の方々はそれ以前なんでしょうが、そういった方々の耳に我が領の噂が届けば、少しは就活じゃ無いけど労働者として来てくれないモノでようか。最近になっても例の騎士団の領地は農奴が不足気味なんで。
もっとも田舎の学問より京の昼寝じゃ無いけど都会で貧民の方が田舎で農奴やるよりもなんだかんだで生き延びるには楽なのかもしれませんね。
そういや『口火を切る』の口火って火縄銃由来だけど、この世界だと家事で使う種火の方が該当するみたいで、口火を点けるという元の世界だと誤用とされる言葉が正解だったりする、相変わらずのややこしさ。
それはさておき、それくらい茶葉栽培が盛んになっています。
我が領もそのくらい美味しい茶葉が出来るなら全面的に茶葉に変える事もいとわないのだけれど、いかんせん最初こそ物珍しいと受けたものの今となってはジリ貧。
王都に近い領地ですらお茶にする割合が増えてきている位だから、郊外の領主などは大規模な茶葉の栽培に切り替えて、プランテーションじみた事やってきてる領地もあるみたいです。
だからと言う訳では無いけれど、今日は帝都に来ている。
いや、だからなのかな?
本来別件での王都滞在なんだが、御用商人とのアポイントを取って面談の予定。
現在、日本で言えば幼稚園の年長さんくらいになった息子と並んで普段使いの二輪馬車で向かっている所。
流石にまだ小さいので娘は妻とお留守番の最中。
息子が小さかった時は、息子を抱いた妻と二人で遠出を楽しんだりもしたんだけど、王都を走らせるとなると、流石にそうもいかない。
慣れたとはいえ石畳の上を二輪馬車で走るのは、街道に出来た轍の上を通るのと比べて、かなりきついものがある。
ゴム自体は存在しているのだが、いかんせんまだ空気の入っていないソリッドのゴムを巻いただけの簡単な物しかなく到底実用には耐えない。
そのため鉄板を巻いた車輪が主流で、牛車による隊列を前提に自費で整備した街道ならともかく、整備もまともにされていない上に細くくねくねと曲がった王都の路地では、何気に腰がきつい。
今回呼びつけるので無く足を運んでいるにはいくつか理由があるが、最大の理由は紅茶がキャッチアップされている事にある。
つまり、我が家の御用商人には、帝都でお茶を扱っている商人の何人かに声をかけておいて貰ったのだ。
流石に全員呼びつけるわけにもいかず、かといって個別に呼んだ場合だとインパクトに欠ける。
まあそれ以上に変な勘ぐりがされるに決まってるわけで。
実際御用商人もその辺りは重分に理解しているらしく、それっぽい別の理由をあげてお茶を扱っている商人に集まってもらったらしい。
ふと横を見ると、息子が路地を振り返るようにして眺めている。
「どうした」
「……なんでもないよ」
馬車の速度を更に落とし振り返ると、淡いピンク色の髪をした少女が使用人らしき人物に連れられて歩いていた。
なるほど。
「かわいらしい娘だね」
「うん
……て、そ、そんなんじゃ無いよ」
照れてる照れてる。
だが、感情がバレバレだぞ息子よ。
「でも、可愛いなって思ったんだろ」
目線をそらすと、ぷいっと、顔をそらすと首を微妙にふる。
一瞬否定したのかと思ったが、この国の習慣を思い出した。
なんとも可愛らしいモノだ。
「ピンク色の髪が素敵だね。
うしろから可愛らしい娘みたいだ。
おまえの初恋かな」
「そんなんじゃ無いって言ってるでしょ。
そもそも今日はじめて見かけただけだし」
こちらをちらっと見て、そう子供らしい吐き出すような口調で告げる。
なんとも微笑ましい姿で、顔の表情を変えずにいるのが精一杯だ。
ほんと、ニマニマが止まらない。
「ははん、初恋はお母さんってやつかな。
大丈夫、母親は初恋に含めなくても良いんだぞ」
「……そんなんじゃない」
ぷいっとかおをそらすのは可愛らしいんだが、その微妙な間はなんなんだ、気になるじゃ無いか。
「つぎは歩いていこうか?」
話題を変えようとして告げた私の言葉に反応して、いきなりうれしそうな顔をこちらに向けて子供らしい喜びに満ちた声を出す。
「お願い、そうして」
次もさっきの女の子に会えるかどうかは不明なんだが、歩いて行気が満々だ。
まあ歩く方が腰へのダメージは低く抑えられそうだし、悪くは無い案だな。
うん、それはさておき次回会合がある場合、歩いて移動しよう。そうしよう。
「じゃあ、次は歩こうか」
そう言って馬に鞭を与え、馬車の速度を上げていく。
「ようこそおいで下さいました」
そこまで大きな建物ではないが、それなりの建物の前で馬車を停めると、中から身なりの整った美青年と言っても差し支えない男が現れた。
貴族の家族が直接やってくると言うことは上級貴族ならほぼあり得ないが下級貴族や準貴族あたりでは偶にあるらしい。特にご婦人の場合だと、中級貴族である伯爵あたりでもまれにあるらしい。
そういった場合、一応貴族なのでなんの出迎えもなしというわけには行かないが、かといって商会のトップが自ら出向いてはそれはそれでいろいろ差し障りもある。と言うことで、それなりの格で有りつつも出迎えても不自然では無い立場の人間が、そういった場合は対応するらしい。
馬車から降りようとすると、後ろに控えていた小柄だがやや小太りの男が進み出てきた。どうやら御者らしい。
馬車を停めて馬を休ませるために移動させるのだろう。自分で回しても良かったが、ここは貴族らしく振る舞うことにして、鷹揚にうなずくと手綱を手渡す。
中番頭格の男の方は、息子の方に回って降りるのを手助けしてくれている。
確か目の前の中番頭格の男は何度か商会の会長に供として我が領に来た事があるはずだ。一度私を遠回しに口説こうとしてきたので覚えている。私が当主だと知った時の顔はなかなか興味深いモノであったが、いまだに私に対して取り次ぎ役を任されているのは会長の指示なのか本人の意思なのか。
いずれにしろ美形ではあるが、元になったゲームでは珍しくもないことだが、上流階級の接待以上は期待出来そうにない程度の能力しかもっておらず、商会の営業としてはなんとかなっても、商いを任せるにはおぼつかない感じだろうか。話術自体はそれなり以上にこなせているところとか含めて。




